「神造生体兵器 ハーネイト」

トッキー

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第十一話 幼き過去の記憶と敵の恐るべき計画

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ハーネイト遊撃隊 11 

ハーネイトはミカエルの罠をどうにか切り抜け、彼女と話し合いに持ち込む。事情を理解した彼は彼女を城に連れていき、事情を改めて聞く。そのなかでミカエルがジルバッドの娘であることがわかる。そして、ハーネイトは本当の父と思ったジルバッドと、実際は血が繋がっていないことを知り、驚愕した。
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「どうした、ハーネイト。顔が青いぞ。」
 「今の話が本当なら、ジルバッドが本当の父ではない、のか。じゃあ誰なんだよ。私の、俺の両親は一体!」

  ハーネイトは歯を食いしばりつつ、あふれ出そうな感情を必死で抑え込んでいた。

 「大丈夫すか?ハーネイトさん。」

 「今まで、ジルバッドのことを親と思って、だからいろんな力使えるのかなって、強引に納得させて生きてきたのに…何だよ。訳が分からない。」
 「それってどういうことよハーネイト。」
 「悪い。少し席をはずす。」
 「ハーネイト!」

  ハーネイトはゆっくり立ち上がるとリリーの呼びかけにも応じず、そのまま大広間を出ていく。彼のその足取りは重くてとても悲しそうであった。

 「私、言ってはいけないことを…。」
 「それなら、俺の方だな。もっとそういうの前に聞いておくべきだったか。くっ。」

  伯爵とミカエルは、ハーネイトの気分を損ねてしまったことを後悔する。

 「あんなに元気がないハーネイト様、初めて見たわ。」
 「親と思っていた人が、血が繋がってなかったとわかったら、大体の人が困惑すると思いますよ。」
 「血の繋がりか。確かに先祖が何なのか全く分からないのは拙者も不安ではある。無理やり感情を抑え込んで、旅をしながら研究していたのだろうな。以前話したことと、やっと辻褄が合うな。」

  八紋堀が以前ハーネイトが話したことと今の事実を照合させその言葉の意味を理解した。

 「しかし、ジルバッドと親子関係がないとわかった今、ハーネイトはまた一から力の謎やその由縁について調べないといけない。」

  夜之一と八紋堀は、数年前にハーネイトが来た際に話してくれた内容を思い出し、旅の理由についてそう彼が語ったと説明する。

 「ハーネイト殿が旅をしてきた理由であるか。だから振り出しだと言ったのか。力はともかく、父親は伝説の魔法使いと思って、その遺志を継ぎながら謎を調べていた、ということでもあるか?」
 「そういう感じなのでしょう。何かできることないかな。辛そう、ハーネイト様。」

  忍たちも、彼の心情を理解し複雑な顔をしていた。

 「時間が解決するか、それとも俺たちの出方次第か。」
 「うむ…。彼には人に言いづらい悩みがあるのかもしれん。前々からその兆候はあったからな。思いつめた表情を時々していた。」
 「そうなのですか。私は日が浅いのでそこまでよくわからなかったです。いつもあのような、落ち着いたようなそれでいて、物憂げな表情が時折顔を出しているのが普通なのかなと思いました。

  エレクトリールは短い時間の中でハーネイトがいつもそういう表情をしていると認識していた。しかし八紋堀や夜之一はそれは違うと彼女に教える。

 「あやつは本来、底抜けに明るくて笑顔で何でも魅了してしまう男だ。もしかするとそれも無理をしていたのかもしれぬが、少なくとも今よりは幸せそうな顔をしていたよ。あれだけの力にあの笑顔。私も彼を好きになった理由に挙げるならそれだ。」

  八紋堀がハーネイトの本来の姿について大まかに説明する。少なくとも、今の冷静で落ち着いた表情と言うのは仕事柄どうしても身についてしまった彼の一面である。そしてそれに笑顔を張り付けていると言う物でもあった。しかし八紋堀は彼の違う一面こそ本来の姿なのではないかと考えそう説明した。

 「そういえば、時折恥ずかしがったり声のトーンが小さくなったり、声が高くなったりしていたのはそういうことか。」

  南雲が忍者専門学校でハーネイトたちと共に部屋の中にいた時のことを思い出す。

 「確かにそうだったわ。あの姿はあれはあれでとてもいいわ。」
 「本当にぶれないな風魔は。」
 「とにかく、あの調子では出撃はできそうにはないな。」

  八紋堀がそう判断する。そしてリシェルは別の話題を振る。

  「ああ見えて、今まで無理して俺らを連れてきたのだろうか。あの力を師匠が使った後なんかかなり疲労しているのが目に見えた。遥か遠くのものを見ただけで切り裂くとか、あれは危険な技なのだろうか。」
 「ハーネイト殿はそのような力まで持っているのか?そういやミカエル殿、貴方は魔法使いと聞きましたが、そのような現象は魔法で起こせるのですか?」

  リシェルが、日之国に来る前に彼が発動した能力について自身の驚きも込めつつ、今の状態と関連があるのか発言する。リシェルもハーネイトに会うまでの旅路の中で、彼が場所によっては恐れられていることを知っていた。それについての問題提起でもあった。それに対し南雲が反応する。それはもし試験の際に使われていたらと思うと怖くなったが故の反応であり、魔法によるものかどうかを、魔法使いであるミカエルに確認する。

 「え、見ただけで遠くのものが切れる?そんなの魔法じゃ絶対無理よ。」

  ミカエルも驚きつつ、それは魔法ではできないと素早く手を横に振る

「それには理由があるのですか?」
 「ええ、魔法は自然現象を大気や大地にある魔力で引き起こすものよ。刀などで実際に切ったとかじゃなくて、見ただけとか、それは世界に干渉する事に繋がるわ。自然現象の限界を遥かに越えている。でも魔法かなと思うでしょうね。それでは悩むわけだわ。」

  この世界では大地や大気にある魔力マナを集め、様々な自然現象を術式に乗せ実現させるものであり、自然にある元素の属性以外の現象を引き起こすことは原則できない。つまり火を起こしたり、大地を隆起させるなどといったことはできても、一般的な自然現象を越える、その最たる自然という世界にすら干渉し何かを引き起こす魔法などありえないとミカエルは説明したのだ。

 「確かに、あれを間近で見ましたが一瞬世界が止まったかのような感覚を覚えました。」
 「その時、ハーネイトさんの目が一瞬光ったのは見た。」

  2人は間近で彼の能力を見た感想をそれぞれ述べる。

 「魔法では不可能な、超遠距離の斬撃現象と言うべきか。敵の本拠地にそれを使えば一発で戦争など終わりそうだが。」

  夜之一はその能力の恐ろしさと破壊力をすぐに理解し、彼自身が本気を出せばあっという間に事態を解決できるだろうと踏んだ。

 「確かに。ですが、今はその話題はあまり触れないで起きましょう。」

  しかしエレクトリールはその話に触れないようにと提案する。力を目のあたりにした後の彼の疲労度を鑑みると、無理に使用できない代物ではないかと考えた。それと直感で、力自身が彼にとって暗い影を落としているのかもしれないとも彼女は考えた。実際にそんな力を持っていると仮定して、周りにそういうのがばれたら確実に距離を取られるだろうと思い、力を持つことの良さと悪さの両方を感じていた。

 「そうだな。下手にまた師匠の調子狂わせるのもまずいからな。あれ、伯爵とリリーちゃんは?」
 「確かに、さっきまでいたんだが。」
 「いないですね本当に。」
 「ふう。もっと早めに気付くべきだったな。彼も人の子だ。ましてや数奇な生き方をしてきたようだし、悩みは人一倍のはずだ。」

 
 リシェルもその意見に同意しながら周りを確認する。伯爵とリリーの姿はいつの間にか消えていた。そして夜之一はもっと早くに彼の悩みについて気付くべきだったと後悔していた。その後もハーネイトについて彼らは話を続けていた。その頃、ハーネイトは城の最上階の窓から、景色を見ていた。その目は涙を浮かべ、今にも顔が崩れそうな様相だった。

  無理もないだろう。みんなに慕われる魔法使いの子孫であることを誇りに、今まで旅をしてきた彼が、その事実を否定されたことにより、自身が何者なのか本当にわからなくなってしまったのだ。本当に、自身の出生や親は何なのだと。それを調べるために長い長い旅を続けてきたのに、構築してきたものがすべて彼の心から崩れ去ってしまった。もっとも、あの男ならば小さいことなど気にするなとでも言いそうなのだが、彼の負った心の傷は容易に治せるものではなかった。

 「はあ……。本当に、この体にいくつもある、異能の力の正体って何なんだろう。幻聴もするし、イジェネートも他の人とは違う次元で行使できちゃうし、ジルバッド師匠の力を受け継いだから魔法を自在に扱えて、大魔法についても全て理解できたのかななんて。それなら人と違ってもしょうがないかと割り切ってはいたけれど…。」

 外の、遥か遠くの山々を見ながら、ポツリとハーネイトはそう呟いた。この先どう自身の力と向き合えばよいか、今の彼には答えが出せそうにはなかった。彼には3つ恐ろしいものがあった。伯爵の存在は別に置いといて、残りの二つ、1つ目は力の全容が明らかになっていないことによる暴走の危険、二つ目は化け物呼ばわりされて仲間たちから恐れられて嫌われることであった。

 「はは、見ただけで、イメージ通りに物を切ったり治したり、悪魔や、別の人みたいな声が聞こえたり、師匠に手ほどきを受けてもらっただけですべての魔法が使えるとか、やっぱりおかしいよな。やっぱり、俺って化け物なのか、人間じゃなかったりしてな。」
 「それを言うなら、俺はどうすりゃいいんだ?まんま菌のお化けだぜ。存在自体がおかしいと我ながら思うがな。」
 「私も、前は人間、今は妖精よ。」

  ハーネイトの言葉に、部屋の外にいた伯爵とリリーが言葉を返す。2人とも今では人間ではない、いや伯爵は最初から人ですらなく、それについて伯爵自身もたまに存在理由が何なのか思う所があった。

 「一体、どうなっているんだろうね俺たちは。」
 「確かにな。どこかで引かれ合う運命ってのがあるのかね。」
 「そう、なのかもしれない。ねえハーネイト。今あなたが抱えている悩みをさ、ここで整理してみない?話すと気分だけでも良くなるかもしれないわ。」

  ハーネイトの言葉に、伯爵は運命について考える。そしてリリーの提案に、ゆっくりと低い声で話し始めた。 

  そして一連の話を聞いた2人は、人として彼を見るには幾つか大きなズレがあるのを感じた。自分よりも他人を優先しがちなところや純粋さ、人の好さに人と接する時の姿勢、その他も含めリリーは、ハーネイトが神様に近い何かなのではないかと考えていた。人が大好きで、大好きだからこそ悪意に触れやすくて傷ついたり、自身と周りのずれを無意識に感じて悩んだりしていたとはっきり理解したリリーは、今までの言動について腑に落ちた。伯爵はこの時すでにハーネイトの体のつくりについても人としてはあまりに完成されすぎていることに気付いていたものの、どうしても言い出せずにいた。 

 「怖いのは大切な仲間が、大切なものが力の暴走で気づかないうちに消えること。ずっとその恐怖に怯えながら、それでも使うときには使ってきた。その力で誰かを助けたことならばきりがない。強力だからこそ、節度を持って、慎重に。でないと化け物扱いされて、人が離れてしまう。ニャルゴを助けた時にね、辛いことがあったんよ。」
 「そうなのね。ニャルゴってあの黒豹のネコマタさんのことだよね。」
 「あ、ああ。」

  リリーの問いかけに彼は目を閉じたまま、昔のことを思い出しつつ話を続けた。

  ジルバッドの死後、彼はとある剣士の夫婦に育てられることになった。そこは道場でもあり、多くの門下生が訪れては剣術の修業に励んでいた。彼も周りの人と同じように剣を取り、魔法も勉強しつつ力を磨いていた。育ての親である一殺大牙と紅月茜は大事に、そして厳しく育てた。そんな中、彼の人生を狂わせた事件が起きた。

  彼が9歳の頃、山の中を駆けまわり遊んでいると、一匹の黒猫が複数の人に暴行を受けていたのだ。よく見るとしっぽが2つあり、普通の猫と違うということが分かったものの、彼はその光景が許せなかった。そしてその人たちが倒れればいいのにと思いそう念じると、すぐにその人たちは倒れた。その光景に驚くも、傷ついていた黒猫を見て今度は怪我が治ってほしいと逆のイメージを念じた。するとすぐにその黒猫の傷は癒え、元気な姿になったのだ。どういう理屈かわからず、その黒猫を連れて道場に戻った。そして誰もその光景を見ていないことを必死に思っていた。しかしそれを道場の門下生が見ており、ハーネイトの周りには人が集まらなくなっていた。見られれば殺されるなどという噂が流れ、昨日まで仲良くしてくれていた人も離れていき、彼はそれから孤独であった。そして唯一の相棒が助けた黒猫、正確には魔黒豹の猫の妖怪、ニャルゴ。それと一殺夫婦であった。夫婦はハーネイトが別の世界から来た人だと知っており、しかしそれを彼には隠していた。事件があったことも、彼らにとっては予想の範囲内であったという。そしてだんだん暗くなっていくハーネイトは、自身がいてはいけない存在なのかと思うようになっていった。死のうとも考えたが肉体を傷つけようにも全く傷がつかず悩み続けた。

  そして彼は自身が持っている力について、何かわかることがないかを調べるため夫婦が持っていた膨大な本や資料を余すことなく読んだ。その中で古代人が不思議な力を持っていたことや、自身を傷つけようとした時に流れた銀色の血の話などを知り、自身の手で謎を解明したいと考え両親に旅に出たいと話をしたのだという。2人は悲しそうな顔をしたが、それでもハーネイトに一振りの日本刀を渡して見送ってくれたという。彼の悩みのほとんどはここからきていたのである。

  これが、彼が解決屋になる前の話であり、またその仕事をするようになったきっかけでもあった。そしてこの話を2人は初めて聞いたのである。そして嫌われるのを恐れるために自分を殺すようなことをしたり、常に笑顔でいようとした理由も知ってしまったのである。

 「よくこれで廃人にならなかったな。弱いとか言って、済まなかった。」

  伯爵は最初から抱いていた、彼のどこか後ろ向きな心を弱いと感じていたが、それが間違いであり誰よりもまっすぐに、人であろうとして努力していた意志の強さを理解した。

 「ようやく苦しめている理由が分かったわ。全部ではないけれど。というか銀色の血?やはり貴方…。」
 「それ以上、今は言わないでくれ。頼む。」
 「そうね、ごめんなさい。」

  リリーが気になったことを聞こうとするも、ハーネイトの言葉で口が止まった。

 「なあ、このことは誰かほかに話したのか?」

  伯爵がハーネイトの目を見ながら話す。

 「こんな話誰にも話せないよ。でも、伯爵とリリーならいいかなって……。」

  ハーネイトは現状2人にしか昔あったことのすべてを話していないと言った。

 「そうか。まだ秘密にしていてほしいか?」
 「ああ。そうしていてくれると助かる。と言ってもリシェルとエレクトリールはその力見ちゃってるんだけどね。それでも怖いとは一言も言わなかった。」

  ハーネイトは、あの時の門下生たちとは違い、リシェルとエレクトリールの反応を思い出し不思議に思いつつもどこかで嬉しいと感じていた。

 「意外と使ってるんだな。力を使い続けた先に、1つの答えが出ることもあると思うがどうなんだろうね。連発効くのかそれは。」
 「そうなんだけどね、この見ただけでイメージ通りにしてしまう技はね、使うたびに心を削ってる感じがするんだ。要は精神的にすごく疲れる。それが限界に来てるのかもしれないね、昔と雰囲気が違うなんて言われるのは昔からの悩みと、今の悩みがセットになって襲い掛かっているからっていうのが答えだよ。」

  自身も今起きていることを再整理して、そして彼は2人に力に関して消耗の激しさについて触れる。

 「2人もガムランの丘の伝説くらいは旅の中で聞いただろ?あれもそのイメージ通りに何でもする力だよ。あの大群の兵士たちに、帰れって命じて祈っただけ。もう訳が分からないよねこれ。」
 「そういう裏話があったのね。イメージして、祈るだけで思うようになるとかまんま神様だよねそれ。」
 「正直それすらも足蹴にしているような気分はするけど。」

  ハーネイトが話した伝説の裏話に驚きつつ、その力はまるで全知全能の神様みたいだと指摘するリリー。

 「となると、なぜそんな力を持っているのかが気になるよね本当に。それと誰が彼をそんな風にしたか。本当にその二つが分からないと踏ん切りがつかなそうだわ。」
 「その通りだよ。2人ともさ、俺のこと怖くないの?こうして話をしてさ。」

  リリーは2つの要点についてまとめ、そして彼は2人に対して怖くないのかを尋ねてみた。

 「別に。俺も同じようなもんだ。正直相棒の側にいても迷惑にならねえか考えるときはある。それとハーネイトのことを悪く言うやつは俺が許さん。人間など昔は興味なかったが、リリーとお前さんは別だ。なあ相棒、俺と伝説作ろうぜ。」
 「そうよ。私も伯爵も、異形の存在でありながらハーネイトが助けてくれた。私ね、人間のことがあまり好きじゃなかったの。嫌な思い出は忘れられないわ。みんな欲に眩んで、私からすべてを奪っていった。だから人間は醜くて、関わりたくないとあの時までは思っていたわ。でも、伯爵とハーネイトに出会って、全員がそうじゃないって思い知らされたの。周囲の人からしたらあなたの存在をよく思わない人もいると思うけど、私にはあなたの存在やその雰囲気が、とてもよかった。」

  更に、2人は今まで感じていたことを気持ちに嘘をつかずそのまま口に出す。お互いが彼に対し、なかなか言えなかったこと。引き合わせるきっかけを作ってくれたことに対する感謝の念と、やや頼りなく残念な一面もある一方、誰よりも優しく謙虚である彼の在り方を評価する言葉。伯爵は昔あった事件のせいで死んだはずのリリーは生きていると信じて多くの世界を駆け巡り、リリーも別の世界に転生して人間や魔獣に襲われそうになったところを彼に助けられた。そして運命の再会を果たしたのだ。2人とも大げさに言っているが、彼がいなければ二度と会えなかった。だからこそ改めて、この悲しい人生を背負ったハーネイトに恩を返すためにできるだけ力を貸してあげたかった。それが二人の心情である。

 「実はさ、正直銀色の血の時点でおかしいとは思っていたんだけどね。その事実を受け入れるのができなくてさ。」
 「それは、そうね。事実をすべて受け入れられるほど人は強くない。でも私は、ハーネイトが人間の心を持っていて本当に良かったと思うわ。もし危ない人だったらどうしようかって。」
 「確かにその通りかも。」

  リリーの言葉に納得するハーネイト。

 「はあ、あまり悩んでいても仕方がないな。そして周りとは違いすぎることは分かった。後はそうした犯人と、何が原因でそのような現象を起こしているのかをはっきりさせるだけだ。こんなところで止まってはいけない。」

  少し気分が前向きになり、ようやく彼の目に光が戻る。

 「やっと元気出てきたな。たとえハーネイトが何だろうとな、お前はお前だ。自身で切り開いた道を信じろ。人生は一度きりだ、後悔しないように、楽しくやろうぜ。」
 「永遠の命を手に入れたも同然、菌界人に言われても、説得力に欠けるがな。」
 「フッ、一本とられたな。それと、隠れてないで来たらどうだ?」

 伯爵は、襖の方を見て、目で合図する。

 「ハーネイトの兄貴、ずっと悩んでたの気づけなくて、ごめんなさい。ぐすっ…。ニャルゴとの出会いも分かったわ。」

  現れたのは、別室で情報収集を終えて、そのついでにハーネイトの顔を見に来たダグニスだった。一部始終をすべて聞いていた彼女は、今までのことに気づけなかった自分を責めていた。

 「はあ、一番聞かれたくない人に聞かれちゃったね。謝ることはないよアリス。誰にも言えなかったことだし、アリスに嫌われたら、嫌だったから言えなかった。」
 「私は、もっとハーネイト様に本音とかぶつけてほしかった。結構長い付き合いだし、結構貴方のこと理解しているつもりだったのに、深刻な悩みに気づけなかった自分が嫌になるよ。」

  ダグニスとの出会いも数年前にさかのぼる。ある地域で今から4年ほど前、普段は降ることのない猛烈な大雨により、大規模な土砂崩れが起きた。ダグニスはそれに巻き込まれ大きな岩に体を潰されたのだ。そして薄れゆく意識の中、彼女はその時一人の青年の姿を見た。その瞬間体を押しつぶしていた岩が砕け、その青年に魔法で治療を施してもらったことを今でも決して彼女は忘れなかった。その青年こそがハーネイトであり、最初の出会いでもあった。その土砂崩れで親族を失い、彼についていくようになったのが長い付き合いとなる最初のきっかけであったのだ。魔法や呪術を教えてもらい、時に彼の手伝いをしながら旅に同行し、リンドブルグに遠い親戚がいることが分かると一旦彼の元から離れたのだった。その親戚の元で暮らしつつも、彼のことが忘れられず支援するために様々な取り組みを行ってきた。
  そう、確かに長い付き合いだと。だからこそハーネイトは力について驚かないのか、怖くないのかと質問した。

 「アリス…。なあ、アリスは、俺の力には驚かないのか?」
 「うんうん、私は、驚かないし、ハーネイトの兄貴流石やねとしか言えないよ。」

  その言葉に、彼は安堵と疑問の念を抱く。

 「怖くないのか?人間離れしたこの俺を?」
 「怖くないよ。あのとき、その力で助けてくれたことは忘れられないよ、兄貴。」
 「あのときのこと、覚えているのか?」
 「そう。大雨で崖が崩れて、それに巻き込まれたときのことよ。いきなり私の体を押し潰した岩を切り裂いて、瀕死の私を不思議な力で完治してくれたことよ。」

  ダグニスは初めてであった時のことを思い出させるように話す。

 「あのときも無我夢中で、記憶が曖昧だな。」
 「でも、兄貴が助けてくれたから、私は今ここにいる。そのすごい力で、みんなをこれからも助けて欲しいなって。」

  彼女がそういうのは、今いるこの世界が過酷で、毎日侵略者などの脅威に多くの人が晒されていること。そしてそれを助けてくれるハーネイトについて、正体が何なんだろうといてくれてありがたいし、皆が生きる支えになっていることを彼に気付かせるためであった。

 「だが力の暴走がいつ起きるか分からない。」
 「その時は、その時ですよ。秘密を知ってしまった以上、私も逃げませんから。兄貴がみんなに話すまでは私は黙っておきますね。」

  ダグニスは聞いたことは秘密にしておくとハーネイトに約束した。

 「ありがとう、ダグニス。」
 「兄貴、これからはアリスって呼んで欲しいな。」 
 「分かった。アリス。」
 「えへへ。じゃあ先にみんなのところに戻るね。早くミカエルさんの家族助けに行ってあげてよ?」

  そういうとアリスは部屋の外に出て階段を下りていった。

 「さて、行くか。」

そういい、彼が部屋を出ようと歩こうとしたとき

「ワレラノコエヲ、キケ。キクノダ。トラワレシタマシイノサケビヲ。」

ハーネイトの頭のなかに誰かが話しかけてきた。不気味で、重量感のある、寒気がする声。夜に時々聞こえるあの声である。そしてハーネイトは思わず答える。

 「た、誰だ!俺に話しかけるのは!」
 「は、ハーネイト。大丈夫か?」
 「彼の体に、何かがとりついているわ。何か声も聞こえる。」
 「なんだと?」
 「ワタシラヲ、ウケイレロ、チカラノスベテ、ソノミニ。オソレルナ。」
 「力を受け入れろだと?貴様は誰だ」!
 「ワタシハ、マホンニフウジラレタ、アクマノヒトリダ。」
 「悪魔だと?それに魔本。まさか昔集めたあの書と関係があるのか?

  魔本という言葉について彼は反応する。以前旅をしていた時に収集していた呪われた分厚い魔導書のことである。それは7冊存在し、各地でそれを所持していた人が事件を引き起こしたり、本のある、一定の範囲内にある領域に呪いを引き起こしていた。それを解決するために危険な本の収集に乗り出したのだった。しかしなぜ、今になって魔本の話が出るのか彼には理解できなかった。

 「ソウ、ダ。マホンニフウジラレタチカラヲ、キサマハシリ、ツカエナケレバナラナイ。」
 「魔本の力だと?何を持っても本が開かなかったのにどうしろと?」
 「ソレハ、ワタシラヤソノタノ、ホンモフクメ、カラダヲワタシラニアズケレバヨイ。」
 「体を預けろだと?いきなりそういわれても、はいそうですかと言えないな。」

  魔本の力を使えという言葉に対し反論する彼。そういうのも、本を手に入れて読もうとしても頁が開かず、自身の体の中に取り込まれてしまい、結局読めずじまいであったからである。

 「キサマ、ジシンノシュッセイ、チカラニギモンヲモッテイルダロウ?」
 「な、なぜそれを。」
 「私ラト貴様ハ、一心同体ダ。チカラヲ受ケイレルコトデ、遥カ昔ニ、封印サレタワタシラノ、記憶ヤ復讐ノ思イヲ知ルコトガデキル。」

  謎の声がはっきりと聞こえるようになってきた。伯爵とリリーもその声を確かに聴いていた。

 「俺と魔本が一心同体、だと?悪魔たちと心を通わせれば、謎に迫ることができるのか。」
 「ソウダ、チカラヲ使ウ時期ハ、貴様ニ委ネル。キサマハ、作ラレタ存在。シカシ、自由アルモノ。女神ノ権能ヲ持ツ物ヨ。」

 その言葉を最後に、声はしなくなり静粛が辺りに戻る。

 「はあ、はあ。魔本に悪魔、過去を知るヒント。それに作られた存在だと?そして女神と来たか。俺をこうした奴らは相当いかれてるんじゃないのかこれ。」

 ハーネイトは頭を抱え、泣きながら叫んでいる。

 「これは、また新たな悩みの種だわ。」
 「ふざけるな、ふざけるな!作られたってなら、誰が作ったんだよ。俺は、人間じゃない何かってのか?血の色は、あれはイジェネーターの中でも最も力がある証拠になるからまだいい。それ以外だ。」

  錯乱したように叫ぶハーネイト。それに伯爵が声をかける。

 「それならよ、その悪魔たちと早く心通わせてみるんだな。ヒントがあるかも知れねえよ。」
 「しかしさあ、いきなり体貸せとかいわれて、貸すやつがいるか?」
 「そうね、流石に怖いわね。」
 「恐れるな、さすれば道は開かれる。退けば答えは得られず、真実は手に掴めず、だ。」

  ハーネイトやリリーが、異形の存在に力を貸すことに恐れている中、伯爵が突然そのようなことを言った。彼はハーネイトに、四の五の言わず前に進んでみろと間接的に言ってみたのだ。

 「力を恐れるな、と?」
 「ああ。その悪魔らは、魔本とも一心同体だといってたな?ということは、ハーネイトの意志の強さ次第で、如何様にもなるんじゃねえのか?」
 「確かに、そう言う考え方もある、か。」

  確かに伯爵の言うことには一理あるかもしれない、そう感じたハーネイト。魔本が体の一部になっているなら、その魔本ごと意思で操ればいいと。

 「まあ焦ることはないぜ。ハーネイトには何故かな、上に立つ者の風格をどこか感じる。その勢いでねじ伏せて支配してやれ。それよりも、待たせると悪いぜ。」
 「そうだ、急がないと。2人とも、ありがとう。俺も、2人がいなかったらそろそろ心が折れていたと思う。」
 「お互い様だね。さあ、救出作戦始まりよ!ハーネイト、さくっと片付けちゃって!」
 「いいだろう。任せな。」

その時、大広間にはリシェルらが集まりハーネイトが遅いことに心配していた

「はあ、ハーネイトさんいつまで戻ってこないのかな。」
 「伯爵とリリーちゃんももどってこないな。」

そのとき、3人が大広間のふすまを開ける。

 「みんな、すまなかったな。待たせた。」
 「大丈夫ですか?」
 「まあ、な。さて、ミカエルの家族を助けにいくぞ。ついでに、あの教団がDGと手を組んでいないか偵察も行う。それと影響調査もだ。」

  ハーネイトの声の張りが元に戻る。未だ消耗しているとは言えども、表情だけは少し明るくなったように見える。

 「なあそこの2人よ。よくハーネイトの調子を戻してくれた。感謝いたす。」
 「いや、まだ問題はある。一時的に奮起させているだけだ。もしああなったら、その時は……。」

  八紋堀が伯爵に声をかけ、礼を言うも伯爵曰く予断を許さない状況であると説明した。そしてハーネイトの体力や気力が限界に至った時は何が何でも治すと心の中で伯爵は覚悟していた。

 「ありがとう、ハーネイト。町までの案内は私が行うわ。」
 「案内は頼む。問題は、あの霧だ。」
 「たしか、害のある魔力の霧ですよね、ハーネイトさん。」
 「そうだ。そうなると、魔法が使えない人は今回連れていけない。リシェルは魔銃使いと言うのが分かったが、正式な修行をしていない以上あれは危険だ。そこでリシェルとエレクトリールは城や城下町の防衛に、南雲と風魔は不穏な動きがないか偵察を2人でやって欲しい。」

  霧の森の影響を鑑みて、魔力値の低い人には警備についてもらい、それ以外のメンバーで救出と偵察作戦を行うことに彼は決めた。

 「任せてくださいよ。怪しい奴は悪・即・バン!だぜ。」
 「守りは任せてください。」
 「初任務は偵察か。了解したマスター。
 「偵察こそ大切よ。任せてくださいハーネイト様。危険だと判断したら、即爆殺しますから。」
 「爆殺は町の中だからやめてね、風魔。とりあえず捕獲優先だ。(一番危ないのはやはり彼女か。)」
 「は、はい。」

  風魔の不穏な発言に釘を刺すも、一抹の不安を覚えているハーネイトであった。

 「そうなれば、ミカエルと私でいかないといけないわけか。」
 「別に、ついてきてしまっても構わんのだろ?」
 「いざというときの連絡係は必要でしょ?」
 「それに、伯爵とリリーもか。夜之一領主。戻ってくるまでみんなのこと頼みます。」

  結局ミカエルの他に伯爵もリリーもついてくることになった。確かに二人なら特に問題はないと考え、連れていくことにした。

 「ああ、構わんとも。ついでに奴等の情報も集めてこれると、こっちも願ったりかなったりだ。それと霧の龍から有益な話が聞けるといいが。」
 「了解しました。では言って参ります。」
 「待っててね、ルシエル、ビルダーお母様。」
 「では、残りは各自任務を全うしてくれ。散開!

こうして、ハーネイトは魔法使いミカエルの家族救出作戦とDG偵察任務、リシェルとエレクトリールは警備、南雲と風魔は市内偵察に向かうのであった。

 「はあ、いつになったら出番あるすかね。」
 「南雲さんと戦って力は示したじゃありませんか。しかしいいですね魔銃使い。それと敵が来れば出番はいくらでもありますね。」
 「そうだなあ。ここはのんびり見張っておくよ。」

 南雲と風魔は、国の北側に向かい、町の様子を見ている。

 「今のところ特に異常はなしよ。」
 「このまま平穏だといいが。」
 「しかし、戻ってきたときのハーネイト様。まだ表情が良くなかったわ。思い詰めたように見えたの。」
 「きっと、大丈夫だ。我らが主なら、どんな困難でも最後には乗り越えられるお方。そう、信じてるでござるよ。」
 「そう、よね。天下無敵のハーネイト様が、あのくらいで折れるとかあり得ないよね。(でも、嫌な予感がする。胸騒ぎが収まらない。)」

 風魔はハーネイトが何か危ない目に合うのではないかという予感をしていた。そして各自が任務にあたっていた時、日之国の近くまで来ていたシャムロックたちは車内でアルポカネと天月の話を聞いていた。

 「というわけで、先ほど出くわしたあの異生体も彼らの実験により生み出されたものである可能性がある。」
 「組織自体は統制が滅茶苦茶な状態であるが、その敵組織の中でも一部の勢力が機士国と癒着して多様な実験を行っているというのが、集めた情報から考えられる今の状態だ。宇宙人の幹部に、機士国の機械兵、開発した魔獣。これが戦力だ。兵隊共はジュラルミンの指示を聞かず役に立っていないからな。」

  2人が手に入れたデータ。それは敵が行っている研究資料の一部と、敵幹部と機士国のとある高官との会話を録音したレコーダーであった。

 「すると、他の実験ももし実戦投入されれば、こちらに甚大な被害が出かねんということだ。」
 「ふざけたまねを。それで、組織の全容についてどのくらい掴めたのかしら?」

  ミレイシアが片手で紙を持ちつつ天月に質問する。

 「ゴールドマンという男が組織全体の司令塔を担っているようだが、各地にどれだけの拠点と兵力があるかはわかっていない。西大陸に多くの戦力を集めているようだがな。それとどうも怪しい人物がまだいるようだ。」
 「それについても調査をしている。そして機士国についている連中と独自にこの星にある物や技術を利用している連中は結束を深めつつある。問題はそれ以外に妙な動きをしているものがいてな。」

 「妙な動きですか。」
 「ああ、彼らの目的は機士国にいるジュラルミンの計画を支援し、同時に各地で研究や資金確保を狙い組織規模を拡大するというものだ。その動きと異なる行動を起こしている連中が少なからずいて、まるで誰かを探しているようでな。」

  アル曰く、クーデターを起こした者と手を組んで裏から操っている組織、つまりDGには幾つか集団があり、征服組と研究組が互いに連携しているという。問題はそれ以外に何かがいるということである。

 「そいつらの動向も気になるが、奴らは戦線をどこまで拡大しているか、それが一番の問題だ。」
 「西大陸は制圧し、今は北大陸の方で徐々に占領国を増やしている模様だ。北大陸に多くエージェントがいてな、そいつから情報を受け取っている。今は城塞都市アンゲルクトの攻略に手間取っているようだが。」

  天月や国王がそれぞれそう説明する。


 「北大陸か。そうか。主殿と合流した後は、そちらに向かわないといけないな。」
 「あれから全く連絡がないのだけど。」
 「ウェンドリットいわく機士国王の作戦を順調に遂行中とのことですな。」
 「どこまで仲間を集めきれるかだな。」

  天月たちから戦況についての報告を聞きながら、ハーネイトやミロクの報告を聞いて安心したルズイーク。

 「しかし、先ほどの録音の中に天神界という言葉があったが。」
 「天神界、か。これについては今現在手に入れた情報はないのだ。」

  アルが資料に目を通しつつまだ情報が不足している旨を伝える。

 「そうか、しかし会話の内容からして、DGは機士国だけでない結びつきがあるようだ。」
 「そいつらが敵になるか、味方になるか。動向が気になる。」

  天神界について話をする一行。一通り話を終え、シャムロックは運転席に戻る。

 「では、日之国までこのまま向かう。」

  そうして、彼らは夜になる前に日之国に到着した。それと同じころ、ハーネイトたちは国の南門に向け全速力で向かっていた。

 「ハーネイト、大丈夫?」
 「……あ、うん。問題ない。」
 「ハーネイト、行けそう?」
 「だから、大丈夫だって。」

  表情が未だ暗い彼を気遣う2人。普段と違う雰囲気にリリーも不安になる。

 「あの悪魔、俺の体で何をしたいのだろうか。やはり使ってみるしかないのか。」」
 「考え事か?別にいいが、前は見とけ見とけ。」
 「やはり、あの出来事が堪えているみたいだわ。こんなに動揺した彼は初めて。」
 「本当にお願いよハーネイト。あの結界は魔法じゃどうしようもないの。」

  ミカエルは改めて結界の厄介さについてハーネイトに伝える。

 「そうみたいだな。だったら、力付くでな!」
 「明らかに表情がおかしいわ。影が増したと言うか、暗いわ。あのあとに、なにがあったのかしら)門を抜けたら、私にみんなついてきて!
ハーネイト: わかった。急ぐぞ。

 4人は南門に着くと、すぐに霧が濃く立ち込める森の中に入っていった。
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