「神造生体兵器 ハーネイト」

トッキー

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第十五話 交差する思いと反省、ハーネイトの覚醒

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ハーネイト遊撃隊 15 

  霧の龍の治療の後、意識を失うハーネイト。龍曰く、彼は力の使い過ぎで昏倒している状態だという。伯爵は龍から渡されたアイテムを握りしめ、ハーネイトを抱きかかえ空から飛び降りる。そして城に辿りつくと全員に緊張が走る。司令塔が倒れる、そう想定していなかった人たちは言葉がしばらくでなかった。そして伯爵は治す方法を知っているというが。


  伯爵はウルグサスの背中から勢いよく飛び降りると、風に乗るように滑空しつつ地面に降りていく。

 「早く城まで向かわなければ。」
 「伯爵!着地地点をよく見て!」

  リリーの言葉に反応しおり立つ予定の地点を目視で確認すると、魔獣の群れを捉える。

 「っせえ!邪魔をするな!」

 伯爵はそういいハーネイトを抱きかかえた左手はそのままに、右手を紫の霧状に変化させ、それを勢い良く伸ばし触手のように形成する。そして魔獣の群れをなぎ倒し、触れたものすべてを分解しつくす。

  「ちっ、リリー!更にスピード上げるぞ!」

  伯爵は両足を霧にしてそれを噴射し、迷霧の森を突っ切ると日之国の西門まで辿りついた。

  「ここまでくれば。しかしこいつの体は。」

  ハーネイトを左脇に抱え、城まで一気に飛翔する伯爵はその中で彼をどう治そうか考えていた。

  「こいつは普通の人間とは作りが違いすぎる。どうすれば…」
  「ど、どういうことそれは。」
  「済まないリリー、事情は後で説明する。」
  「仕方ないわね。ハーネイト、耐えるのよ!死んだら殺してあげるから。」

  リリーが恐ろしいことをボソッと口にした。それだけハーネイトに死んでほしくないという彼女の思いでもあった。言葉自体はとても恐ろしいものではあるのだが。

  数分後、天日城の城門まで到着し急いで城内に入る2人。その姿を見た田所は声を掛けようとするも伯爵に抱えられているハーネイトの姿を見て事情を察する。

  「ハーネイト様、一体何が。おい村井、至急人を集めろ、医者を呼んで来い!4階の大広間に急げ!」

  田所は近くにいた村井と言う男に声をかける。

  「はい!今医者を呼んでまいります。」
 「頼むぞ、ハーネイト様の身に何かがあったかもしれん。」

  そう指示を出し、自身も4階に駆け足で階段を上る。

  「今まで一度も倒れることがなかった彼が、なぜ。」

  彼は動揺しつつも、まずはハーネイトの治療が優先だと頭を切り替えて階段を4段抜かしで駆け上る。

  その頃、事態に気付いていない南雲や夜之一たちはまだ話をしていた。

 「いつ戻ってくるのかな、兄貴は。」
 「予定では今日か明日には戻ってくるだろう。」
 「そうしたらいよいよ本格的に遊撃隊の活動が始まるわね。」
 「一人の男の元にこうも同士が集うとは。」

  そう話しているダグニスと八紋堀、そしてミカエルとルズイーク。しかしその平穏も突然終わりを迎える。

  「はあ、はあ、お前らそこをのけ。」
  「貴方は誰、ってハーネイト様!」 

  ミレイシアが伯爵に抱えられているハーネイトを見てすぐさま駆け寄り状態を確認する

  「ハーネイト様!私の声が聞こえますか?」

  ミレイシアの応答にも堪えられないほど彼は衰弱していた。わずかに目は開いているものの、意識はほとんどない状態であった。

  「貸しなさい、すぐに寝かせて確認しないと。」
  「分かった。お前らぼさっとしていないで準備しろ!」

  目の前で一体何が起きているのか、その事実を頭で理解するのにほとんどの人が10秒以上かかっていた。それほどに、ハーネイトが倒れることが異常事態であり、普段ありえないことだった。

  「ハーネイト様、お気を確かに!」
  「何ということだ、ハーネイト様!」

  ミロクとシャムロックはすぐに気づき、ミレイシアとともに伯爵から急いでハーネイトを抱きかかえて受け取ると、近くにあった敷布団にそっと彼を寝かせる。

  「患者はどこですか?」

  そう声が部屋の外からして、急いで部屋に入ってくる白衣のメガネをかけた女性。彼女は寝かされているハーネイトの姿を見た。
  この女性は城に常勤する医者であり、日之国一の名医と称される紅花三十音という。以前ハーネイトが日之国を訪れ、八紋堀と試合をした後に顔を合わせ、話をしてもらった彼女はハーネイトの顔を見る。

  「これはかなり危険な状態です。」

  三十音は脈や呼吸を確認し、触診する。

  「この硬い物体は何かしら。しかし衰弱が激しいのは目に見えて明らかよ。ねえ、誰か彼の側にいた人は?」

  三十音はハーネイトの胸や腕などを触る。そして胸骨に当たる部分に何か機械の装置が埋め込まれているのを確認した。そして首を動かし周囲を確認する。

  「俺だ、俺がその時側にいた。」

  三十音の言葉に伯爵がすぐに答える。そして三十音の側に来て当時の状況を詳しく説明する。

  「そうなると、彼は力の使い過ぎで倒れたということになるわね。というかどんな治療法よそれは。本当に彼には驚かされるわね。元居た世界ではまずありえないわ。いや、ここでもそうよね。」

  伯爵から龍の治療で、ハーネイトが能力を使い無事な部分を病変に張り付けて上書きするという常人では到底考えられない、というかまずできない治療法を多用し、結果としてエネルギー切れのような状態を起こしているということは理解した三十音であった。そうして血の気のないハーネイトの顔をしばらく見ていた。

  「分かってはくれたか。たぶん、あれのスイッチが入っていないのが、か。」
  「スイッチ?その前に貴方の名前は?」

  三十音の質問に、伯爵が低い声で自身の名前と紹介をする。

  「俺の名前はサルモネラ・エンテリカ・ヴァルドラウン。長いから伯爵と呼んでくれ。」
  「伯爵さんね。確かに名前長いけど、しかしサルモネラ?」
  「なんだ、どうかしたのか?」

  三十音は伯爵の顔や頭に生えている角をまじまじと見つめる。彼女は今から13年ほど前、地球から漂流しており、地球にいた時も医師として活躍していた。つまり地球人の中でも現代人であり、21の時にアクシミデロに来ている。そのためサルモネラと言う名前を聞いた彼女は何故彼が微生物、しかも食中毒の原因菌の一つ、サルモネラの名前を名乗っているのかが気になったのである。もちろん角や顔つき、雰囲気もだが。

  「い、いえ。しかし不思議な名前と、ご立派な角ですね。」
  「あ、まあ、まあな。それよりもハーネイトの状態は理解しただろ?」

  伯爵は三十音の言葉にまごつきつつも答える。それを見てミカエルが話しかける。

  「ねえ伯爵、あなた微生物で何でもできちゃう王様なのでしょう?あのときのようにハーネイトを治せないの?」

  ミカエルはハーネイトがオプタナスと戦った後のことに触れる。微生物を癒しの力に変える能力を目の当たりにした彼女ならではの言葉である。しかしそのワードは、今この場にいる他の人たちにとっては疑念と恐怖を感じさせる言葉であり、隠しておかなければならない情報でもあった。

  「何、だと!微生物の力とはどういうことだ。」
  「俺は知っていたが、な。変わった男だ。」
  「ああ、ハーウェンオルクスの悲劇を生み出した男か。」

  機士国サイドの人間は伯爵のことをよく知っていた。ハーネイトと伯爵の出会いは最悪なものであった。アルポカネの言うハーウェンオルクスの悲劇がそれである。

  ハーネイトが機士国に仕えて2年目に差し掛かろうとした時、機士国領ハーウェンオルクスという小さな町で起きた大事件があった。魔人が街を焼き払い、住民を殺戮しているという一方が城に届き、すぐさまハーネイトとリリーが現場に駆け付けた。
  そこには、無数の霧の触手を背中からだし、周囲全てを溶かし喰らい尽くそうとしていたおぞましい異形の姿をした男が火に包まれる街の中にいたという。

  ハーネイトは無論すぐに止めようと刀を抜く。しかし苛烈な攻撃をよけて、切りつけるも全くその男は傷を負わない。それどころか霧の塊を飛ばしてきて、ハーネイトの左腕や展開していたマントの一部を撃ち抜き喰らうのであった。

  そのとき彼は初めて恐怖を覚え、その時点で持てる力全てを開放し戦いを続ける。しかし攻略法が分からず、ついに膝をつくハーネイト。その時リリーがハーネイトの目の前に立ち、盾になろうとする。それがハーネイトの最大の幸運であった。その男は一人の少女を探すためあらゆる場所を移動し転移してきた。そしてハーネイトの目の前にいる少女こそまさにその人であった。男は理性を取り戻し、世界を越えての再会を果たしたのであった。そして重傷のハーネイトを見ると、彼はその恐ろしい力を癒しに変え、彼を助けたのであった。
  これがハーウェンオルクスの悲劇と言う。その後ハーネイトは大魔法(正確には魔眼)で街も人も元の姿に戻し、ひとまず事件の幕は下りるのであった。

 「そんなことがあったとはな。そしてハーネイト様を追い詰めた唯一の男だと!」
 「信じられんが、そうなのだろうな。」

  シャムロックとミロクは、ハーネイトが過去に一度負けたことと、その存在が目の前にいることに恐怖を覚えた。

 「離れなさい、この危険な男め!」

  ミレイシアはその話を初めて知り、サルモネラ伯爵に迫るとナイフを首につきつける。

 「ひどい言われようだ。俺も、ハーネイトに出会ってすべてが変わった男だ。彼は、唯一の存在にして、ライバルであり、友であり、相棒だ。」

  ミレイシアに、力のこもった声で、しかし悔しそうに喉や腕を振るわせながらそう話す伯爵。元から自身にはいい評価など期待していなかったが、それでもハーネイトの相棒と認めてもらえないのは彼も堪えるところがあった。

 「ねえ、あなたはどこから来たの?悪い人には一見見えないけれど。」

  三十音は伯爵の目を見てそう尋ねる。確かに見た目こそ如何にも悪魔であり、魔王じみた風格をしているが、生粋の悪ではないと三十音は見破った。そう、一見粗暴に見えて、熱い魂を秘めた人間らしいその言葉の雰囲気を彼女は感じ取る。

 「微生物たちが暮らす世界、菌界から俺は来た。そこにいる妖精の少女を探しにな。」
 「そうよ、彼はね、どこにも居場所がない人だったのよ。私もそうだった。でも今は違う。ハーネイトと言う私たちのかけがえのない居場所があるの。確かに話だけを聞けば伯爵は人類の敵にも聞こえるし、誰の手にも負えない存在でしょう。でも彼は王様でありながら、たった一人の人に忠誠を誓い、私以外で初めて、心から話せる友達を手に入れた。ハーネイトがいる限り、伯爵は世界のために戦うわ。ハーネイトのまねをしたいって、必死になって努力してきたのよ。私たちを、嫌わないで。」

  自身が体験した悲痛な思いと、伯爵の本当の姿を泣きながらみんなに伝えるエレナ。それでも疑う者も何人かいたが、ハーネイトの後ろ姿を見て多くの人が彼に続こうと過酷なこの世界で努力をしてきたのは周知の事実であった。しばらくうつむいて沈黙していた伯爵は、顔を上げ、魂の叫びを震わせて伝える。

 「俺だってなあ、何で自分がこんな形でこの世に生まれたか正直分からねえ。でもな、一つだけわかっていることがある。俺はリリー、そしてハーネイトと言う存在と会うために生まれてきたんじゃないかってな。だから、俺が助ける。前に俺の暴走を止めてくれたから、その礼を今返すんだ。化け物であることは周知の事実だし、相棒よりも自分のことはよく分かっている。」
  伯爵は淡々と、しかしその声に思いを込めて全員にそう話す。そして彼は声を張り上げて、抱えていた感情を噴出させる。

 「俺は、相棒が、ハーネイトのことがうらやましい。誰からも愛されて仲間がたくさんいるこいつがな。正直言えば、嫉妬もしているさ。だけどそれは間違いだと、やっと気づいたんだ。」

  伯爵はそういうと目をかっと開き、全員をしっかり目の中にいれながらハーネイトのことについて思っている印象を伝えようとした。

 「あいつは、慕ってくれる人たちが何よりも大好きなんだ。そのためには命など容易に投げ出すほどに。大切なものが傷つくことは、あいつにとっては何よりも苦しい。だから無理をしてでも動く。そして、嫌われることを何よりも恐れていたから本人は何もしたくなくても強い意志だけで体を動かし続けていたんだ。」

  伯爵のその言葉の、全員の表情が暗くなる。

 「無理をさせていたことは、否めない。その結果がこれか。私は彼に期待を背負わせすぎてしまった。」
 「それは私もだ。英雄としての姿、解決屋としての姿。イメージを崩されるのが彼にはたまらなく怖かったのだろうな。」

  2人の王様はハーネイトに今まで無茶をさせてきたと思い反省していた。常に魔獣や魔物の危機にさらされる人類は安定した、力のある統治者を多く望んでいた。本来ならば代々特定の一族が国と言う物を管理し続ければ金や権力などに目を奪われ腐敗し、堕落するのがよくある流れだが、ハーネイトと言う存在がそれを防いでいたのである。彼のいるところ危険はなく、平穏と安心が約束される。と言う言葉があった。そしてハーネイトをうまく使うことのできる人物は総じて優秀な手腕や能力を持っているだろうとこの星に住む多くの人がそう認識していた。つまりハーネイトと仲がいい国の王様は民衆からの受けがよい、という証明書じみたものとなっていたのだ。他にもハーネイトのお世話になった国や街は数えきれないが、中には彼の存在を否定するものもいた。そういう国は結果的に彼に守ってもらえず、国自体が巨大な魔獣により破壊され滅んだという。

 だからこそ王様たちはハーネイトと心の友とも呼べる関係でいたく、公人ではなく1個人として接していたのである。そうした理由は他にもあり、彼の人柄が優しくて、それなりにノリがいい人であったため、遊び相手としても問題なく、それでいて優秀だが経験の若い王たちにとっては安心感のある存在でもあったためである。だからこそ、彼に様々な期待をかけすぎた。そして彼は死の淵にいる。2人は涙を目からゆっくりと流していた。


 「師匠。こんなになるまで無理していたなんて。何でそこまで気が付かなかったんだくそっ。師匠……!」

  リシェルは体に力を込めながら、思いを抑え込みつつ声を押し殺して泣いていた。

 「私も執事失格ですな。もっと主人のことを見ていればよかった。仕事をすると言っても無理やり寝かせて、話を聞いてあげればよかったと思うが、何を言ってもどうしようもないな。」
 「それなら、私の方が。表情にはあまり見せませんでしたが、私は主が無理しているのを知りながら、止められなかった。」
 「ハーネイト様……。辛いならいつでも話をしてくだされば。」

  ハーネイトに仕える3人の執事とメイドは彼の行動を止めてでも心や体の回復をさせればよかったと後悔していた。

 「ミレイシア殿、あなたがいつも厳しい態度でいるから警戒しているのですよ、主は。」
 「し、しかし。はあ。私は、自身の気持ちを伝えるのが下手な私が嫌いです。本当は、古代人の力を持つハーネイト様に優しくて立派な王様になって、本当にそうなってほしかった。もうほとんどそういう存在の人はいないけれど、ハーネイト様を見ていると、みんなを引っ張ってほしくて、それであえて厳しくしていたのですが……。」

  ミロクの指摘に、ミレイシアも本音が漏れだす。ミロクもミレイシアも、シャムロックもこの星に住んでいた古代人そのものである。そして彼らはハルフィ・ラフィースが突然この星から消えた事件を知っていたし、見てもいた。つまり相当な年数を生きていたのである。軽く300年以上も。古代人たちは一般の人よりも10倍以上長い寿命を持っていた。そして彼らから見てもまだ幼いハーネイトを、古代人たちをまとめ上げて率いてくれる王様として、ミレイシアは厳しく指導しようとしていた。しかしそれが裏目に出て彼女は苦しんでいた。

 「私は実質彼の追っかけと言いますか、仕事の内容や在り方に感動を覚え、はるか遠くの地からやってきたのですが。しかし、主をまたなくしてしまうのか、私は。」

  シャムロックがそう言いながら、ハーネイトの顔を見る。古代人の中にもいくつか国や集団という者が存在したが、シャムロックやハルディナ、そしてナマステイ師匠などといった人たちがいた「マッスルニア帝国」はその中でも特段異質な国であった。しかしそれはすでになかった。ハルフィ・ラフィースの行った実験に巻き込まれ国ごと消滅したのである。それでも残りの人たちは懸命に生き続け、その何人かはハーネイトと出会っていた。そしてシャムロックは、その国の王子さまでもあった。そして国王の元で日々鍛錬に励んでいたのだが、シャムロックは父である国王を守れなかった。もしあの場に最初からいれば、あの古代人たちの実験から父を逃がすこともできただろうにと、今でも彼は後悔していた。そして長い旅の中で、凄まじく強い古代人の気を感じたシャムロックは、その元であるハーネイトと出会い、今こうして彼に仕えている状態であった。

 「ハーネイトの元に集う人たちは、みんな辛い過去や境遇を持っているのね。」
 「そうね、だからこそ、あの笑顔に救われた人も多いはずよ。だけどそれも無理していたなんて。ねえ、そういえば父がかつて一度だけいなくなってから手紙を送ってくれたの覚えている?ルシエル。」

  魔女たちもハーネイトのことについて話をする。

 「ええ。お父さん、すごくうれしそうな感じで文章を書いていたのが伝わる手紙だった。最も優秀な弟子がいて最高だと。遥か遠くの国で拾ってきた孤児が私を超える力を持っていたとは驚きだなんて。」
 「問題はその文の内容。ハーネイトが父の正式な弟子であることはもうわかったわ。そうなると遥か遠くの国でって、まさか…。」
 「あ、あっ!前にこの世界とは違う所に旅に出ていたというけれど、そこにはこの星の古代人がたくさん居たって手紙にあったわ。その時に拾ったのがハーネイトなんじゃ…。」

  魔女たちは父から送られた手紙の内容を必死で思い出していた。そして二人とも、一つの結論に至った。彼はこの世界の住人じゃない、しかし古代人ばかりがいた世界にいた。だから何かが狂っているのだと。ミカエルとルシエルは誰よりも早くハーネイトの正体に近づいていた。

 「しかし、このままじゃらちが明かねえ。三十音、あんたならどう治してみるか?」
 「え、ええ。とにかく衰弱しているのは明らかだから栄養剤の投与と安静は欠かせないわね。脈も呼吸もあるからそれは問題ないのだけれど。」
 「そうか、まあそうだな。なあ、もしこいつが人間じゃなかったとしたらどうする?」

  伯爵は三十音の耳元でそうささやく。その言葉を聞き三十音ははっとした顔をする。

 「何をおっしゃっているのかしら、伯爵さん?」
 「だから、ハーネイトは形こそ人間だが、その細胞の構造や遺伝子配列とかが人を越えたものになっていると言ったんだ。あと胸のあれも。」
 「そ、そうなの?確かに、そうでないとあの超常現象の理由はつかないかもしれないけれど。ねえ伯爵さん、もしかして貴方なら治せるかもしれないの?」
 「どうだかな、一つだけ可能性がある。」

  伯爵はハーネイトの今の状態を改善する方法があると三十音に教えた。

 「早く教えなさい、でないと彼はずっとこのままよ。」
 「そうしたいのだがな、それはこの俺がやらないと無理なんだ。今から皆に話をする。」

  そうして伯爵は全員の方を向いて、今まで言えなかったことを話すことにした。それは伯爵にとっても大きなかけであった。

 「おい、俺の話を聞いてくれるか?ハーネイトを治す方法についてだ。」
 「伯爵、さっき言っていたあれと関係あること?」
 「そういうことになるな。」
 「あるのか、治す方法が。」

 伯爵の言葉にリリーとアレクサンドレアル6世が反応し、なおす方法について聞こうとする。

 「その前に、ハーネイトの体について言わなければならないことがある。これは彼本人も知らないことだ。そしてそれを知る人が別にいるというが、それまでは黙っていてほしい。まずはそれが一つ。そして、今から話すことを聞けば、貴方たちはハーネイトと以前のように接することができなくなるかもしれない。」

  伯爵は理解していた。そう、ハーネイトが人ではない何かであることを。そう、あのオーウェンハルクスの悲劇からずっと。

 伯爵が初めてハーネイトと戦った際に、人としてはあまりに強く、伯爵本人も三回致命傷を受けていた。そのため彼はハーネイトを微生物で隅から隅まで調べつくした。そうしてわかったことがあった。

  肉体の組織や臓器その者は人間とほとんど変わらないものの、違う点が大きく分けて2つあったのだ。今回問題を起こしているのはその一つであり、胸の部分に埋め込まれた2つの装置であった。何かの入れ物のような装置について理解はできなかったが、もう一つの逆台形型の、うすが5つに分かれ互いに逆回転している装置について伯爵は直感でエネルギーを無限に生み出す装置だと感じた。
 何よりもその装置から凄まじい量の熱量を感じたからだ。そして彼のその装置は半分しか機能していなかった。伯爵はハーネイトの状態について、その状態で数々の能力、しかも体力を大量に消費する技を短期間に使いすぎてエネルギー切れしたのだろうと分析していた。そしてそれを治すには、5つある装置を構成している回転円盤の回転していない部分を回して、生み出すエネルギーの総量を増やしてあげることで回復すると考えていた。そしてその役目は、自分にあると理解していた。

  しかし彼は複雑な感情を抱いていた。伯爵はこの時、既にハーネイトと自身が同じ存在の元に生み出された者であると知っていた。伯爵の核と、ハーネイトの胸の装置に同じ模様が刻まれていたからである。そして作った存在の声を聴いているのである。そして同じ存在に作られたのに、なぜこうも周りから評価が違うのか、それで苦しんでいた。
  伯爵は、皆に存在も力も認めて欲しかった。そしてハーネイトの存在に複雑な感情を抱いていた。彼の側にいるのは楽しくて飽きないが、彼がいるから自身の力や活躍が広まらないのではないかと。それに葛藤していた。助けるか見殺しにするか。伯爵はしばらく考えていた。そして口を開き話の続きをした。

 「ハーネイトは、体にある装置が組み込まれている。しかし肉体の構造や細胞の構造はギリギリ人間だ。だが、この装置が半分しか起動していない。だから俺がそれを起動させればハーネイトはきっと良くなる。しかし、それを起動すれば彼は人からさらに大きく離れたものになるかもしれない。それでも、今まで通りハーネイトの仲間、友達でいてくれるか?」

  伯爵の発言に全員がざわつく。

 「なにでたらめなことを。」
 「いえ、伯爵様の言っていることは本当です。触診で胸部に何か装置のようなものが埋め込まれていました。これのことでしょう。そして彼の肉体自体が非常に頑丈で、刃物はまず通らないのです。」

  伯爵の言うことを信じられない人に三十音がそう言い、なおかつ頑丈で外科的施術が行えないということを説明した。

 「三十音、それはまことか?」
 「はい、そうです夜之一様。」

  夜之一は事実を確認し、ハーネイトの元に近寄る。そして彼の顔を触る。

 「綺麗な顔をしているが、とても冷たい肌をしている。血が通っていないようだ。伯爵といったな、この男を治せるのか?」
 「ああ、治せる。」
 「そうか。……頼む、伯爵よ。彼を治して欲しい。」

  夜之一は伯爵の前に立ち、そうお願いをした。アレクサンドレアル6世もそれに続く。

 「覚悟は、できているのか?」
 「ああ。私やアレクサンドレアルはハーネイトが何であろうと側にいてほしいのだ。」
 「そして、伯爵についてハーネイトはよくこんな話をしていた。伯爵が解決屋になってくれれば、どれだけ楽だろうかと。そして次に一緒になった時、そばに置いて共に活躍したいとな。周りの連中はともかく、私は伯爵にも期待している。人以外のものなんてよくここには来るし、慣れている。」

  伯爵の問いかけに、夜之一はハーネイトが何であろうと側にいてほしいと言い、アレクサンドレアル6世は伯爵についての彼の考えを伝えた。

 「王様、そう考えていたのか。」
 「だからあの時解放してあげた。ということですか。そしてハーネイトらが活躍している世界を見てほしかったのですね。」

  ルズイークとアンジェルが国王の考えを察しそれぞれ考えたことを口にした。

 「ああ、そうだ。伯爵よ。お主は、人のため、世界のために戦う覚悟はあるか?」
 「ああ。ある。あいつに出会うまではそんなことを考えたこともなかったが、考えが変わった。俺もハーネイトみたいになりたい。ハーネイトの仲間は、俺の仲間だ。あいつが悲しまないように守ってやる。自身が微生物からできただろうが立場なんざ関係ねえよ。」

  伯爵は大声でそう叫んでいた。

 「そうか、その答えが聞きたかった。伯爵、ハーネイトと共に覇道を行け。この世界は力を見せつけ、誰かを守ることで認められる世界だ。そして私たちは認めよう。もう1人の未来の英雄王、サルモネラよ。」

  アレクサンドレアルは伯爵に世界を背負う覚悟はあるかと問う。そして伯爵はそうだと言い、ハーネイトのようになりたいと改めてそう伝えた。そしてその答えを聞いて安心した国王は、サルモネラ伯爵を認めハーネイトと共に世界を救う英雄王になれと言ったのだ。

 「少し複雑だが、ハーネイトと肩を並べられる人はまずいない。」
 「その力、ぜひ見せてほしいな。かっこいいところ見せて?」
 「壊すのも治すのも得意な優しい王様、か。」

  シャムロックと南雲、そしてミカエルがそう言い、伯爵の周りを囲む。

 「お願い伯爵さん、ハーネイトを治してあげて。あの森での活躍、皆に話したいな。」
 「ハーネイトに何かあれば、容赦しないわよ。」
 「伯爵殿、今はあなたが鍵を握っておる。主を助ければ、その活躍もじきに世界に広がるだろう。それだけ影響力を持つ男だ。」

  風魔とミレイシア、そして八紋堀もシャムロックらと同じように伯爵を囲むように立つ。

 「ふっ、そうか。ああ、じゃあ任せとけ。絶対に戻してやる。でないと、毎日がつまらねえからな。そして、もう一度戦いたいしな。」

  伯爵は、本当は最初から治すつもりであった。彼がいなければ毎日が退屈で仕方なく、そしてもう一度お互いに力をつけた万全の状態で勝負をしたい、そう願っていたからだ。しかしみんなを試すように、ああいう言い方をしたのである。そして求めた答えが帰ってきた。俺も期待されている。そう思い伯爵は、ハーネイトの胸に手を当て精神集中をする。

 「じゃあ、治してくるよ。」

  そういうと伯爵は突然そのまま姿を消した。

 「本当に、この世界は不思議なことだらけね。でももう慣れてしまったわ。でもあの男、研究してみたい。」
 「ハーネイト師匠、もう俺はあなたが神様だろうと全力でついていきます。」
 「道理で、あのようなことができるわけですね。ってでもおかしい。ハーネイトさん……。私はあなたのことがそれでも。」

  三十音、リシェルとエレクトリールがそれぞれ口にする。そして二人の王と機士国の関係者、メイドや忍者たちもハーネイトをずっと見つめていた。


 「はあ、結局中に入ったがいいものの、なんじゃこりゃ!!」

  伯爵はハーネイトの体内に侵入した。はずなのだがイメージしていた光景と全く違う所にいたため大声で叫んでしまったのだ。そう、ハーネイトの心の中こと、次元の狭間である。紫色の空間しか伯爵の目には映っていなかった。

 「どんな状況だよこれ。内臓とか見えるかと思ったがこれはまいったな。ああ、でも一応あれは見える。」

  伯爵は状況に動揺しつつも、例のエネルギー産出装置を目視で確認し、その方向に向かう。道中数体の悪魔や、人間が何故か横に倒れていたがいちいち気にしている暇はなく、ようやくその装置に辿りついた。そこにいたのは、まぎれもなくハーネイト本人だった。

 「ハーネイト!」

  しかし彼は伯爵の呼びかけに答えない。

 「おい、何ずっとその装置見てるんだ。」
 「ああ。俺もようやく、相当面倒くさい存在ってことが分かったよ。これのことか、もしあの4番目のを動かせるようにしただけでも異能の力を連発しても倒れなくなるだろうね。」

  ハーネイトは意識を失っている中で、ようやく自身の中にある何かを目にし、そこから放出されている力を理解した。

 「気づいて、いたのか。」
 「ああ、ようやくな。」

  ハーネイトは伯爵を見ながら、複雑な表情をしていた。

 「なあ、伯爵。付き合いからしてまだそんなに長くはないけれど、伯爵は俺のこと、どう思っているの?」

  彼は伯爵に自身のことについて尋ねる。

 「ああ?……最初はな、正直気に食わなかったこともあるさ。人間のくせに滅茶苦茶強くて、初めて3回も致命傷を負ったし、それでいて普段は嫌に優しいし、可愛くてよくわからない奴だってな。そしてうらやましかった。多くの人から好かれるなんて普通無理な話だし、どこに行ってもハーネイトの名前を出せばみんなが笑顔になった。俺もさ、そういう存在になりたかった。だから貴様をあの時殺しておけばと、最初は思っていたさ。」

  伯爵は、うつむきつつ今まで抱いていた感情の一面を打ち明ける。

 「そうか、ああ、認められず一人でいるほど、怖いものはない。」
 「そうだな、そこはお互い経験済みか。」
 「ああ。だがな、それは間違いだったんだ。」

  伯爵はハーネイトの元へ飛翔し、彼の両腕を手で掴みながら顔を見てはっきりと伝える。

 「ハーネイトを倒してはいけない。そう、倒せば俺は悪人として迫害される。それならば相棒として、共に同じことをしていけば俺も英雄になれるって、そう思ったんだ。確かに俺は微生物の魔人、人からしては恐怖以外の何物でもない。」

  ハーネイトと共にいたい、そうやや遠回しに伯爵がそう伝える。

 「だがな、俺はそれでもこの世界を守りたいのさ。人の心を得てしまった以上、芽生えたこの思いを壊すなんて嫌だ。ハーネイトが仲間のことを守りたいがために戦うように、俺もまたハーネイトとリリーを守りたい。だから戦う。それでいつか有名になって、慕われるようになってみんなが存在を認めてくれる。そうなりてえんだ。側に、居てもいいか?」

  伯爵は人の心を得た今、皆のために戦うことを誓った。

 「そうか、それが、王としての答えか。微生物の魔王。」
 「ああ、そうだ。」
 「分かった、最後に一つ聞きたいことがある。俺がどんな姿になっても、友でありライバルでいて、兄弟のようなものであってほしい。伯爵とは、なぜか他人の気がしない。」

  ハーネイトはそう伯爵に確認をする。その言葉に伯爵は微笑みながら、

 「勿論だ、相棒。」

 そう短い言葉を1つだけ返した。

 「ありがとう、伯爵。俺も変わらなければいけないときが来たな。力を得たものは、その力に応えるように振る舞わなければならない。それが、責務であり定めだ。自分がこうして多くの人を率いていかなければならないなんて、あの時は思わなかった。でもみんなが望むなら、否定せず受け入れてくれるなら。この先得る答えがどんな残酷な結果でもくじけない、ああ、絶対にな!」

  ハーネイトは今まで恐れていた力と言う存在について考えを改めた。そして大切な仲間のために戦い、皆がいるならもう迷わないと。

 「伯爵、このバカでかい装置を動かすのを手伝ってくれ。覚醒の時が来た。今まで抑え込んでいたものを開放する。」
 「ああ、任せとけ。」

  そうして二人は、高く飛びあがると同時にエネルギー産出装置に飛び蹴りをかます。そしてそのまま同じ動き上から2番目にある巨大な金色の動力装置をしっかりとつかみ、同時に時計回りにぶん回した。そうすると、その装置から光が噴出し始めた。

 「ありがとう伯爵。迷いは、消えたよ。伯爵、俺はお前のことが、好きだ。」
 「それは人としてか?ああ、俺もだ。もう役目は済んだし、先に戻る。後でな。」
 「うん、ありがとう。」

  装置の4番目の動力装置が動き出し、ハーネイトの体が徐々に光りだしていた。それを元の場所に戻った伯爵と、その周りにいた人全員がその光景を見ていた。

 「あと少しだな。」

  伯爵がそう確信した時、城全体が突然巨大な振動に襲われる。

 「わわわ!なんだ一体。」
 「地震、ではない。」
 「ああ、あれは!」
 「巨獣・ヴァンオーヘイン!」

  南雲やリシェルらは揺れが収まると窓の外に胴体を乗り出して外を確認した。すると南西方向に、巨大な猪が遠くに見えた。

 「まさかこのタイミングで!」
 「またも試練が襲い掛かるか。ハーネイトはまだ起動していない。どうするか。」

  彼らが見たのは、7年ほど前に突如現れた、全高43m、全長97mの巨大な魔猪「ヴァンオーヘイン」であった。赤黒い体表、立派な鋭い灰色の牙。そして異様な瘴気を外に噴出し、日之国の方を見ていたのである。

 「このままでは、日之国が!」

  ハーネイトが未だ目覚めない中、彼らは突然起きたイレギュラーな巨大魔獣の襲撃にどう対抗するのだろうか。
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