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第十六話 新しい解決屋の誕生、それぞれの能力

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 意識を失い日之国の城の中で横たわるハーネイト。伯爵は周りからの声を聴きハーネイトを助けるため、彼の体内に入りハーネイトの意識と対面する。お互いの気持ちを吐露し、覚悟を決めたハーネイトは伯爵と共に埋め込まれている「願望無限炉」の4番目の動力装置を動かした。その時、日之国の外に突然巨大な魔猪が出現した。「ヴァンオーヘイン」と言う猪はこちらを見つめ、今にも襲い掛かりそうでな様子であった。


 治療に成功したとはいえ、エネルギーが体を満たすまでまだ時間のかかるハーネイト。意識がまだ戻らない中襲来した脅威を全員が目の当たりにし、恐怖で足がすくむ者も少なくなかった。

「ちっ、こんな時に!」
「あれをハーネイト様は一人で片付けたというの?私を助けてくれた時も。」

 風魔はヴァンオーヘインの目を見て、昔あったことを思い出していた。それは風魔が任務でとある国を訪れていた時のことであった。諜報任務中に彼女は巨大な魔獣に遭遇し、応戦するも歯が立たず命を絶たれそうになっていた。その時に突然黒い巨大な檻が魔獣の動きを封じ、次の瞬間真っ二つに裂かれていた魔獣の死骸を彼女は見たのだ。
 それこそがハーネイトであった。彼は大魔法で動きを封じ、魔眼の力で獣の胴体を斬るイメージを行いそれを実現させたのである。

 彼女はその時に見た男の顔を忘れられなかった。余裕のある、美しい笑みを浮かべた彼の顔を。それから彼女は変わった。今まで怠け癖のあった彼女が心を入れ替えるように鍛錬に励み、自身に強大なイジェネート能力があることを自覚し、いつしか里の中で最も優秀な忍になっていた。銀肢の風魔、そう呼ばれるようになったのだ。

しかしここで問題が起きた。あまりに彼への思いが強すぎて、少々ヤンデレ気質になってしまったのだ。そして彼、つまりハーネイトのことを悪く言った他の忍たちを、彼女は4本のイジェネートブレイドで人だったものを別の何かに変えてしまったのである。たまたまその忍たちが、裏で略奪や窃盗など悪事を働いており、里の犯罪者は同族が討伐するという忍の里の掟に彼女が従ったものとしておとがめはなかったものの、藍之進はその力の恐ろしさに戦慄したのである。彼は未だかつてこれほどのイジェネーターがこの里から生まれるとは思ってもいなかったのである。

 そしてそこまで力を発揮できる彼女の力の源は、彼に認められたいという想いであった。あの試験は、実際はハーネイトにこの風魔の面倒を本気で見てほしいが為の形式的なものであったと否定はできない。そもそも全員登用すると彼も最初から決めていたため問題はなかったのではあるが。

「だけど、ハーネイト様がこの状態。ならば私が、代わりに!!」

 風魔の顔が鬼のように険しく、その目の輪郭をさらに鋭くし魔猪を睨みつける。細目だが美しい彼女の顔は完全に別のものとなっていた。

「おい風魔!少し待て。」
「何よ、南雲!」
「ここは、伯爵に少し任せてみようぜ。」

 南雲はそう言い、伯爵を見ていた。森の中で伯爵の恐るべき力を見ていた南雲は彼ならハーネイトと同じ活躍ができると期待していた。

「伯爵よ、認められたいならば力を見せるのだ。この世界では、ああいう化け物連中を退けられる英雄こそが真に愛される存在だ。人として生きて、世界を守るならばあのヴァンオーヘインを倒せ。」
「そうすれば、伯爵もハーネイトと同じ存在になるだろう。」

 夜之一とアレクサンドレアルは伯爵にそう諭す。そう、伯爵はこの巨大な魔獣に立ち向かわなければならない。

「確かに、そうだ。っておい!待てお前ら!」

 伯爵の制止を振り切り、風魔と八紋堀が城の窓から飛び出す。そして風魔は両腕をイジェネート化させ、美しい金属の羽を作り空を飛ぶ。そして八紋堀は城の外にすっと着地し、ヴァンオーヘインの方に向かって猛ダッシュを始める。

「おい、俺らも行くぞ。」
「ええ!」
「やれやれ、血の気の多い若者たちだ。」

 2人の行動を見て、アルやルズイーク、リシェル達も部屋を出て自身の適したポジションに向かう。

「ったく、しゃあねえ。俺様がどれだけ危険な存在か、目に物見せてやる、みたけりゃ見せてやる!」

 伯爵も窓から勢いよく飛び出し、空を舞うように飛びながら上空から徐々に落下するように滑空し、無害な微生物を噴射しヴァンオーヘインに突貫を仕掛ける。

 そのころヴァンオーヘインは日之国の方を見て、その巨体を動かし始めた。異次元から物や人が飛ばされ、流れ着くこの星、世界。それは恩恵と災厄、両方の面を併せ持っていた。ヴァンオーヘインを始めとした魔獣、魔物たちはその負の面であった。この星に住む人たちは常にこのような試練にさらされていたのである。

 「ハーネイト様に近づくには、愛されるには!」

 風魔がいち早くヴァンオーヘインの元に駆けつけ、両足をそれぞれイジェネート化し白銀の美しい直剣を形成すると、素早く脳天を勢い良く数回斬りつける。

「はああ!」

 さらに風魔は両腕を足に形成した剣よりも巨大な剣を作り出しX斬りを繰り出す。

「グアアアアアア!」

 風魔の攻撃は一応効いてはいるようだ。それもそのはず、風魔は古代人ではないのにも関してイジェネート能力のレベルが異常に高かったのだ。イジェネートの血統遺伝が薄れゆく中、彼女は四肢をすべて金属で包み武器にすることができるのであった。爆弾やその他の武器はあくまで補助的な扱いであり、彼女の真の武器はこれであった。しかし攻撃を食らったヴァンオーヘインは激昂し、風魔を鼻息で遠くまで吹き飛ばす。

「きゃあああ!このっ…っ!」

風魔は再度両腕を翼に変更し、吹き飛ばしを防ぐ。しかし巨大な木の幹に体をぶつける。その間に八紋堀が到着する。

「なんて、大きさだ。あの時よりもでかい。だが、文斬流の名に懸けて、引くわけにはいかぬのだ!」

 八紋堀も簡易の魔法を使うことができ、それを移動に使用していた。足から魔力を噴射し、ヴァンオーヘインの鼻元に瞬時に飛ぶ。

「文斬流・大文字斬りぃ!!!」

そう八紋堀が叫ぶと、腰に携帯していた二刀の黒い刀身の刀と白い刀身の刀を握り、限界まで腕を交差させ、それを内側から外に同時に切り払う。そして2刀を振り上げ、同時に切り下しながら人という文字を虚空に描くようにさらに切り払った。そしてヴァンオーヘインの鼻元に「大」という文字が刻まれた。これこそが文斬の八紋堀と呼ばれる所以である。隙はあるが、決まれば一撃必殺級の威力を持つ特殊剣術であり、さらには彼にしか使えない秘奥義もあるという。

「グオオオォォォ!ガルッウウウウウ!」

ヴァンオーヘインは斬られた痛みでもがき、首から上を乱暴に振り回し八紋堀を吹き飛ばす。

「がっ!なんの!」

 八紋堀は魔力を噴出し地面にぶつかることなく着地する。その時、上空から伯爵が勢いよく現れた。とてつもなく巨大な大剣を持って。

「この菌帝剣サルモネラ・グレートソードの切れ味、とくと堪能しな!」

 そう言い、伯爵は上空から急降下し、その大剣を軽々と片手で操り、ヴァンオーヘインの胴体まで届くV文字斬りを繰り出した。

「サルモネラ・ヴァイラスエンド!」

 伯爵の手にしている濃灰色の大剣は、自身や周りから集めた微生物を限界まで凝縮し、物質化したものであり、触れた瞬間その剣を構成している微生物にその部分を分解され食べられてしまうという代物であった。何よりも恐ろしいのは、伯爵以下菌界人がこうして形成した武器は一切の防御が無効になるというところであった。相手の防御も微生物で喰らい尽くして自身の体力に変換する。ハーネイトも伯爵との初戦でこれを見誤りダメージを受けている。ハーネイトが多種多様な能力を適材適所で最大限に運用するのに対し、伯爵はシンプルイズベストを地で行く戦いをするという違いがあった。

 「グッ、ガアアアアアアアアッ!」

 攻撃が当たる瞬間にその部分を食われ、痛みも感じず、徐々に体の組織が崩壊していくのを自覚したヴァンオーヘインは、その事実に耳をつんざくほどの咆哮をあげる。その声は天日城まで届くほどであった。本来この魔獣は物理に強く魔法に弱い。そして氷と風が弱いという特徴があるのだが伯爵はそれを一切無視して大ダメージを与えたのだ。これが伯爵の脅威の力である。

 「早くくたばれ。せいぜい栄養分にして吸収してやる。」

 伯爵は勝負あったなと確信していた。しかし彼はこの手の巨大魔獣が備えている、厄介な能力の存在を知らなった。

 ヴァンオーヘインはその場から動かず、突然大量の息を吸い込む始めた。それは森の中にあるものすべてを巻き込み吸い込む掃除機のようであり、八紋堀も重心を低くし防御態勢をとるが、今にも吸い込まれそうな状態であった。

「ぐぬぬぬぬ!ふん!」

 八紋堀は暴風に耐えつつ、さらに文斬流「二束三文斬り」を繰り出し、その吸い込みを止めようと斬撃を三回放つ。それはすべて魔獣に直撃してダメージを与えるも、次の瞬間魔獣の体は急速な勢いで再生しつつあった。

「なんだと!俺の眷属ですら食い尽くせねえのか。いや、方法はあるはずだ。」

伯爵が考えていたその時、城の方から強烈な魔力反応と紅色のレーザーがヴァンオーヘインの胴体をぶち抜いた。

「やはりハントっていうのはこういうものだな。最高だぜ。」
「油断するな孫よ。あれの再生能力は尋常ではない。足元から狙え。動きを止めれば時間稼ぎにはなるはずだ。」
「あいよ!爺さん。……発射!」

 そのレーザーは城の屋上にいたリシェルの砲撃によるものであった。魔銃士としての才覚を発揮しつつあった彼は、アルティメッタ―に魔力を込めてそれを収束し発射したのだ。

「ギャアアアアアアア!」

 リシェルの一撃で胴体に穴が開くヴァンオーヘインは痛みからか少しふらつき始める。更に第2射、第3射が城の方からまっすぐ放たれ、紅色の魔閃が両足に直撃する。3発とも有効弾であり、ヴァンオーヘインは巨体を支えるのが困難になっていた。

「そこだ、俺が更に動きを止めてやる、闇忍法・影針陣!」

 森の中から南雲の声がし、茂みの中から高く彼が飛翔する。そして魔獣の影に向かって黒い魔法弾を空中から地面に向けて発射する。その弾が影に触れた瞬間、黒い影の針が無数に現れ、ヴァンオーヘインの表皮を貫き動きを更に封じた。

「昼間だったからよかったぜ。さて、動くなよ。」
「やるじゃねえか南雲。風魔と言い忍者勢は面白いな。相棒が見ていたら、きっと頼もしいなっていうだろうな!」

 風魔や南雲の攻撃を見て、伯爵は集まった人たちのレベルの高さを素直に褒めていた。

「わ、私たちはここでいいよね?兄さん?」
「そうだな、不測の事態に備え門を守るぞ。」
「私も来ちゃいましたけど、ここからあれでも撃ちましょうかね。」
「エレクトリール、何をするつもり?」

 その頃アンジェルとルズイーク、エレクトリールは西門の周辺に待機し、不測の事態に備えていたのである。しかし彼女も血が騒ぎ戦いたくなったのか今いる場所から強烈な電撃を浴びせようとしていた。

「いや、エレクトリール。直接魔獣に攻撃した方がいいかもしれん。何をするのかはわからんが、もう少し前に出た方がいいだろう。」
「持ち場は私たちと、向こうからきている侍たちに任せて。いきなさい。」
「ありがとうございます。では!」

 エレクトリールは雷槍をもち、魔獣めがけて森の中を猛スピードで駆けていった。


 「ん、ああ。はっ!」

 ハーネイトがようやく目覚めた。そして夜之一とアレクサンドレアルの顔を見る。

「起きたかハーネイト!」
「心配したぞ、今巨大魔獣が日之国の近くにいる。しかしいけるか?」
「なんとかな。力が胸の奥からあふれてくる感じだ。しかしあの魔獣。」

 ハーネイトは2人に戦えることを伝え、魔獣の方を見る。そして伯爵たちが戦っているのを見た。

「ヴァンオーヘインか、もうこんな時期か?あれは倒し方の順番があるんだ。伯爵はそれを知らないはずだ。もたもたしていると受けたダメージを放出する。」
「なんだと!むやみな攻撃はまずいのかあれは。」
「その通りです。」
「それで、その放出攻撃の威力は分かるのか?」

 アレクサンドレアルはハーネイトに訪ね、夜之一がその攻撃威力について質問する。

「小さい街なら一瞬ですね。しかたない。伯爵に花持たせつつ、確実に倒すなら。」

 ハーネイトは伯爵が戦っている真意を見抜いた。あれも自身と同じ活躍をしたい。前からそう言っていたなと思いだし、ならばたまにはそういう熱いやつを裏方から支援する、魔導師のスタイルで戦うことを彼は決めた。

「ではいって来る。2人は住民の避難指示や誘導を他の侍たちや警備兵たちに伝達を。」

 そう言い、ハーネイトは背中からバーニアを展開し、城の窓からそのまま飛び立つ。

「さて、何番を使うか。氷と風、後は無属性か。」

 どの魔法を使用するか考えつつ、数十秒でヴァンオーヘインの近くに到着した。大分弱っているものの、再生能力は健在であった。

「相棒!目覚めたのか!」
「ああ。しかし相変わらず恐ろしいものを。というか切ったところに微生物まぶしてくっつけられなくしたらどうだ。そうすれば勝負ついていたはずだ。」
「あ、そういうことか。確かにできなくはない。」
「それはいいんだが、こいつには倒し方の順番がある。」

 ハーネイトは伯爵に戦い方について助言をしつつ、倒し方について説明をした。
ハーネイトは過去に三回も戦っているため破壊する順番について理解していた。最初に尾っぽ、次に立派な牙、最後に首元を攻撃することで再生能力と大攻撃の両方を封じることができる。その話を聞いた伯爵は内容を理解した。

「おもしれえな。魔獣狩りは。」
「本気で活躍したいなら、俺の書いた本を読めばほとんどの魔獣は楽に倒せる。帰ったらあげるよ。だからまずは!」

 伯爵に自身の書いた本をあげることを言った後、ハーネイトは魔力で体を覆い、大魔法の詠唱を始めた。

「悔いの牢獄 無快の大箱。捕らえし者に適し与えよ苦悶の罰。黒界の魔檻は魂捕らえ逃すことなく只其処に有り!大魔法が73の号!「黒獄暗界」」

 ハーネイトが素早く詠唱をすると、上空が突然暗くなり空から巨大な黒い鉄檻が落下しヴァンオーヘインの巨体を完全に覆い尽くした。

「グギ、グウウウウウウ!」

 大魔法の70番台は闇に関係する属性魔法であり、その73番目の黒獄暗界は状態異常を与えつつ動きを封じる巨大な魔檻を呼び出し落とす大魔法であり、無属性以外では珍しい拘束系である。これで直接攻撃による城下町への被害の懸念は封じた。魔猪の放出攻撃も封じるほどの強固な結界でもある。

「ほう、これが魔法と言うやつか。」
「リリーも使えるぞ。てかリリーはどこだ?」
「あ、そういやどこにいるんだ。」

 その時ヴァンオーヘインの背後から強大な魔力を感じた二人。そしてさらに上空に移動してリリーを見つけた。

「疾翼の羽 暴風の威。地を削り岩を食む。裂き断つ青嵐よ交われ吹き荒れろ!大魔法が51の号、「蒼翼暴風嵐!」」

 リリーも高い声で叫ぶように詠唱しながら大魔法を解き放ち、魔獣の側面から青と緑の竜巻を発生させ巻き込みぶつけ、風の爆発を引き起こした。その一撃は周辺の草木をなぎ倒すほどであり、ハーネイトと伯爵も身構えるほどであった。

「ありがとう、師匠。おかげでよく決まったわね。フフフ。」
「ちょ、そんな奥の手。旅をしていた時は見せてなかっただろ!」
「いい女には、秘密の一つや二つ、ね?」

 伯爵の言葉にリリーがニコッと笑いながら杖を手元で回転させる。

「よくやった。まさか一撃で3か所を同時に破壊するとはな。俺が教えた者は全員大成するんだよな。まあいい、では最後だ。頭部を破壊するんだ。胴体の肉の部分は食材として有用だから極力攻撃は避けろ。」

 ハーネイトはリリーの魔法を褒めて、それを伯爵がうらやましそうな目で2人を見ていた。

「すげえ、あの紫の男。」
「ハーネイトといい勝負してるな。」
「ハーネイト様とあの男は仲間なのかしら、でも頼もしいわね!」

 騒ぎを聞きつけ、城下町に住んでいる住民が城のある丘の方に駆け上がり、戦闘の様子を見ていた。伯爵の攻撃を見ていた住民はその破壊力に期待していた。

「あの男の大剣、すげえ威力だった。あの化け物を豆腐を斬るように楽々と切り裂きやがる。」
「新しい英雄か、あれは。」
「あれが何だろうと、俺たちを助けてくれたことは間違いねえよな?」

 そして伯爵の存在が徐々に認められつつあったのである。夜之一の目論見は的中し、ハーネイトだけでなく伯爵にも声援が送られる。

「遠くから、聞こえてきたな。」
「これが、声援か。なんだか漲ってくるな!」

 伯爵は自身が応援されていることを嬉しく感じ、闘気をさらに上昇させる。

「いいぜ、俺もみんなを守る!認めてくれる者達のために戦うぜ。相棒、ド派手にいくぜ!」
「無論だ、速攻で片を付ける。」
「いいわ、私に続いて!」

 リリーがそう言い、再度詠唱を始める。そしてハーネイトは手元にエクセリオンキャリバーを呼び、しっかりと両手で持ち構える。そして伯爵は再度菌帝剣を作り出し、双方が並ぶ。

「5の鉄塔 5の玉座。互いに引かれ、撃ち合う光。五色に束ね焦点を黒焦がす!大魔法が17の号、「黒塔五光!」
「エクセリオンキャリバー!最大出力!」
「菌帝剣!醸して喰らうぜ!」
「それに、私の雷!一点集中・ライトニングペネトレート!」

 リリーは17番目の大魔法「黒塔五光」を発動する。魔物のいる地面から五つの黒い塔が地面からせり上がり、その頂点にある巨大宝石からそれぞれ魔物の頭部に向かって五色の光線が発射される。それは頭部の分厚い装甲を破壊した。そしてぎりぎり間に合ったエレクトリールが走りながら叫び強大な雷を天から打ち込み感電させる。完全に動きが停止したベストなタイミングでハーネイトと伯爵が、頭部めがけて刀身を伸ばしたエクセリオンキャリバーと菌帝剣をクロスさせながら斬りつけ、ヴァンオーヘインの頭蓋骨と脳を完全に破壊することに成功した。そしてゆっくりと、最後の声を叫ぶ間もなく頭部を失った胴体が地響きをあげながら横たわった。その衝撃で地形の一部が変形するほどの衝撃であった。

「勝ったぜ、勝ったぜ相棒!」
「ああ。よくやったな。もう一人の英雄王。」
「すごいわ2人!かっこよかったわよ!あとエレクトリールも。」
「はい!」

 伯爵は今度こそ勝利を確信し、その活躍をハーネイトは拍手しながら称えた。

「うおおお!あの化物を倒したぞあいつら!」
「あれが、生きる伝説。この目で見られるなんて最高よ!」
「あの男の名前は何だ、俺は忘れねえぜ、名前を聞いたらよ。」

 丘の上から魔獣が倒れたのを確認した住民たちも歓喜に震えていた。またも脅威を未然に退け倒したハーネイトと、紫の男。それを見た人たちの表情は笑顔しかなかった。

「一人の犠牲も出さずに、またも守ったか。」
「もはや人であることを完全に超えているな。だが、それでいいんだ2人とも。」
「伝説の一場面を、また見てしまったな。場所が場所なら2人とも恐れられていただろう。俺もそうだった。最初は恐怖していたさ。」

 ハーネイトと伯爵の活躍に感嘆していた夜之一とアレクサンドレアル。それに対し天月はそういい、自身は昔ハーネイトのことを恐れていたことを正直に口にした。

「実は、私もそうだったよ。」
「そうなのですか。知りませんでした、国王様。」
「だけど、ああいう人たちがいなければ、明日すら手に入らないかもしれない。私がいた地球よりもここは、命に対してとても無慈悲よ。ありがとう、2人とも。」

アレクサンドレアルも最初はハーネイトの能力を見てどこか恐怖を感じていたことを天月に打ち明ける。そして三十音は前にいた地球と比べ、いかにこの世界が生きづらいかについて触れつつ2人の活躍に感謝していた。慣れなかった辛い環境も、あの人たちがいてくれたからくじけずここまで来れたことを三十音を初め、日之国に住んでいた他の転移者も同じ思いを抱いていた。

「さて、胴体部分は回収だな。」

 ハーネイトは地面に降り立ち、ヴァンオーヘインの胴体部分に手を触れ、次元空間に飛ばした。そして膝をついていた八紋堀と、吹き飛ばされて木の上にいた風魔、南雲を回収した。

「しっかし、よくあれに躊躇なく突っ込むな。度胸だけは大したものか。だが八紋堀、相変わらず戦闘狂の血は治っていないな?」
「はは、ばれたか。まあ攻撃の先端を切り開いたんだ、それでよしとしてくれ。」
「ハーネイト、様。私は。」
「無事でよかった。風魔。後で話を聞かせてくれ。伯爵から聞いたが一番に向かったとはな。」

 ハーネイトは八紋堀の癖について指摘しつつ、木にぶつかった衝撃で起き上がれない風魔の頭をなでながら、魔力を送り込んであげた。恐らく胴体部分をイジェネートで十分に守れなかったのだろうと推測しつつ、彼は軽い回復魔法で彼女が背中に受けた打撲を治してあげた。

「えへへ、ハーネイト様。」
「お疲れ様、城に戻ろう。」
「そうですねマスター。あとはあの侍や警備のものに。」

 嬉しそうな顔をする風魔を背中に抱きかかえ、南雲は城に戻ろうと提案する。

「そうだな、戻ろうぜ。」
「もっと活躍したかった…。私も戦うの好き。」
「また次の機会があるわよ。てかよくあんな雷落とせるわね。人間技とは思えないわ。」
「そうですね、えへへ。雷系統なら私が一番です!」

 エレクトリールやリリー、伯爵もそう言いながら城の方に帰っていく。

「ふう、以前よりも体力、気力も上がっている実感がするな。あの装置、恐ろしいな。」

 ハーネイトは、胸に埋め込まれた装置のことについて考えていた。以前なら魔法の詠唱すら連発は躊躇することもあったが、今ならそれも考える必要がないほどに彼の力は飛躍的に向上していた。先ほどあれだけ力を使用したにもかかわらず、疲労感もない。その感覚に、彼の表情はわずかにニヤッとしていた。

「しかしあと1段階か2段階、この上に行けそうな感じもする。一体どうなることか。」

 彼は若干の不安も覚えつつ、まだ力の伸びしろはあると感じていた。

 そうして、戦いに参加した人全員が街の門をくぐると町民や兵士たちがハーネイトや伯爵たちの周りを囲んだ。

「大英雄のご帰還だぜ!」
「ハーネイト様!そこの紫の服の人!ありがとう!」
「おいおい、伯爵もここで名前名乗ったらどうだ?」
「確かにな。んじゃあ。」

 多くの町民がハーネイトたちの顔を見ようと一斉に集まった。そして伯爵は名乗りを上げる。

「俺の名はサルモネラ伯爵3世だ。伯爵と呼んでくれ!」

「サルモネラ伯爵と言うのか。」
「あ、ああっ!オーウェンハルクスの悲劇、紫の悪魔っ!」
「あのさ、みんな?この男は俺の新しい相棒だぜ。文句は言わせないよ?」

 名乗りを上げた伯爵は名前を多くの人に覚えられるも、民衆の中に伯爵の容姿と前に起きた事件を覚えている者がおり一瞬ざわつく。しかしそれをハーネイトは察し、フォローを入れる。

「そうだよな、2人であれを倒したもんだ。」
「二人とも、これからもよろしく頼んだぞ!」
「そして他にも、八紋堀様に、忍者に、見慣れない人……。」
「もしかして噂に聞いたDG討伐の秘密部隊っ!城の関係者から聞いたぜ。今度こそあいつらを完全に撃滅してくれや!」
「どいつもこいつも歴戦の勇者って感じがするぜ。」

 多くの町民たちが二人の今後の活躍を期待し、ほかにも八紋堀や南雲や風魔、エレクトリールたちを褒めたたえた。

「すごい人たちですね。」
「ええ。はあっ…まだ体痛いわね。」
「風魔、無茶しやがって。しかし、いい感じだな。」
「今回は南雲も役に立ったわね。」

 エレクトリールと南雲に抱えられ、風魔がそういう。

「これからも、私を含めみんなのことをよろしく頼みます。私がいる限り、勝利は我らに有り!だ。」
「おおお!!!」
「俺らも頑張るぜ!」

 ハーネイトの鼓舞が町民たちの活気を引き出す。素の状態とは違えども、この一面こそが多くの人に好かれる要因の一つであった。

「伯爵、お疲れ様。」
「ああ、相棒。さすがあれの力だな。これからももっと力見せつけてくれよ。」
「できる時はな。さあ、本格的に奴らの息の根を止めにかかるかね。あの力使うにしても敵を一か所にまとめないといけないからな。包囲殲滅戦と洒落込むぞ。」
「いいねえ、最高じゃねえか。確か仲間さんが多くの地域にいるんだったな。」
「ああ。手紙は出してあるし、すでに動いているのもいる。」


 ハーネイトと伯爵は互いに健闘をたたえつつ、今後の展開について話をしていた。それからしばらく聴衆にファンサービスをしつつ一行は城にようやく戻った。

「でかしたぞ、ハーネイトと伯爵よ。そしてお前らもな。」
「なかなか良い連携であった。この先もあのような存在が襲来してきても問題はなさそうだ。」

 夜之一とアレクサンドレアルが場内の入り口で全員を迎えていた。

「よっ!と。2人とも大活躍でしたね。あとあの魔法の連続発動は誰のだ?雷撃はエレクトリールしかいないからわかるが。」

リシェルが城の屋根伝いに軽やかに飛び降りてきた。そしてリリーとエレクトリールに声をかけた。

「私よ。」
「リリーちゃんだったのか。見た目に似合わずすごかったぜ。」
「それなら貴方の魔閃も大したものね。減衰しやすいのをよく防いでダメージを与えたこと。」

 リリーもリシェルの魔閃を見て素直な感想を述べる。

「まあね。足手まといになりたくねえからな。常に努力してるし。」

 リシェルは笑顔でそう言いながら銃を背中に背負ってハーネイトと伯爵の方を見ていた。

「ハーネイト様!」
「おお!私たちも見ておりましたぞ。」
「お疲れ様でございます。私たちも魔獣の出現により湧いて出た小型魔獣の盗伐を行っておりました。」

 ハーネイトたちの背後からシャムロック、ミレイシア、ミロクの声がする。そしてハーネイトは振り返り3人の顔を見た。彼らは巨大魔獣が出現するとよく発生する小型魔獣の大量発生に関し、その討伐に向かっていたのであった。そしてすべてを撃退し大量の素材を持ち帰ってきたのだ。

「そうだったのか、姿が見えなかったが。そういうことか。ご苦労だったな。」
「いやいや、あの程度一殴りしたら丸ごと消し飛びました。」
「私の剣技も衰えることなし、リルパスの群れも真っ二つにして差し上げました。
「私が丹精込めて作り上げた4000人の人形兵の前には、魔獣もなすすべ無しです。」

 彼が3人をねぎらうも、それぞれが戦った内容について話をするとハーネイトの顔が若干ひきつる。少々やりすぎではないだろうかと。ミロクはともかく、他の二人がオーバーキルすぎるだろうと。

「ほ、本当に恐ろしいなお前らは。別の意味で人間の域超えているだろ?」
「それは主様もでしょう。」
「ハハハハハハ!確かに、私たちも強くなりすぎたですな。」

 ハーネイトの指摘にミレイシアとシャムロックが笑いつつそう答えた。正直言えば、この3人がハーネイトに襲い掛かれば彼は魔本変身とイジェネートなしには苦戦するほどに強いのである。
 まずミレイシアだが彼女は人形師である。そしてそれを戦闘に利用し、連携攻撃を基本とするのだが彼女にしかできないとっておきの大召喚系統のスキルを持っており、数の暴力を体現するかのように無慈悲な一撃を与え続けることが最高の喜びであるという。
 次にミロクは老齢ながらもそれを感じさせない動きで、2振りの刀で敵陣を駆け回り斬りつけるのを得意としている。無影のミロクと言う別名は相手に影を踏ませず斬りつける神速の剣技のことを指しているのである。それとハーネイトから魔法を教えてもらっており、魔纏剣や魔法剣術も習得しているためさらに強さに磨きがかかっていた。
 最後に問題なのはもちろんシャムロックであり、素手で正拳突きを繰り出すだけで、その前方にいる敵はすべて蒸発し跡形も残らないという破格の攻撃性能を持っている。全般的にマッスルニア帝国出身の人は人ではない何かであるが、それにしても異常ともいえる力である。この3人のように、彼の召使になるには、相当な強さも求められるのであった。

「怖ええ。実際にスコープで見ていたが人間のやることじゃねえよこれ。」
「うむ、流石ハーネイトだ。仕える者たちも破格の強さを誇るとはな。」

 リシェルとアルはメイドたちの会話を聞き、ハーネイトの器の大きさを感じていた。

「私たちがかすみそうね。」
「ああ。強いのは忍者たちだけでなく、この3人もか。これなら兵力の差も容易に埋められるだろうな。」
「ああ。それもそうだな。いい部下に恵まれているなハハハ。」

 アンジェルとルズイーク、国王はそれぞれ会話をしていた。予想以上に個人個人の能力が高いことを実際に確認し、他にも集めている仲間たちと合わせればハーネイトの考案していた包囲作戦も実行に移せるのではないかと考えていた。

「んじゃさ、早く城の中に入りたい。一眠りさせてくれ。」
「お疲れ様でした、ハーネイト様。」
「一応後で診察しますからね」

 城の中から田所と三十音も駆けつけ、2人に連れられて4階の部屋まで向かった。

「おい、相棒待てよ!」
「では私たちも入りましょ?疲れたわ。」

 リリーの呼びかけに全員が城内に入っていった。城下町はまだ多くの町民たちが騒いでいた。
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