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※懐かしい記憶sideラルド
「―――っぁ…んぅっ…、ク…ォーツ」
扉の向こうから漏れ聞こえてくるラズ様の普段とは違う甘い声に、握りしめた拳がギリっと痛んだ。
◆◇◆◇◆
クオーツ様からそこに居るように、と受けた命令の意味を理解した途端、処罰を受けるのを承知ですぐさまその場を後にしたかったが、足が縫い付けられたかのように動かなかった。
これ自体が罰なのだ―――。
どんな体罰を受けるよりもキツくつらい罰。
淫らな声とは裏腹に、頭をよぎるのは幼いラズ様の屈託のない笑顔。懐かしい記憶。
代々仕えてきた公爵家に生まれた待望の三男坊は生まれて以来、数週間はゆうに泣き止まなかった。
何を訴えて泣き続けるのか、誰が何をしても泣き声は止まらず、このままでは幼い身体がもたないとまで言われてしまうと祝福から一変、屋敷内は絶望に包まれた。
当時その光景を端から眺めていた自分は仕えることが決まっていた初めての主人がこの世から居なくなるかもしれないことに戸惑い、何か自分に出来ることは無いのか、と恐る恐る赤子が横たわるベッドへ近寄った。
そんな俺の突然の行動を止めようとする父を静止したのはラズ様の母君であるラピス様だったと後々父から聞いた。
そっとベッドを覗き込めば、小さな身体で何を訴えているのか、弱々しいながらも一生懸命泣く三男坊――ラズ様のお姿。
初めて目にするその姿を目に焼き付けていると、突如頭がズキッと痛んだ、かと思えば、自分の記憶では無い何か懐かしい記憶と重なる。
―――翡翠様
何だ、これは……何なんだ、この記憶は……
『翡翠様、走ったら危ないですよ』
『だいじょーぶー転んだらお前が抱き起こしてっ』
この国では見た事のないような風景。
そこを無邪気に走り、にししっと笑う綺麗な着物に身を包んだ少年の笑顔。
気付けばツーっと涙が頬を伝っていた。
自分では無い、自分の記憶。
なのにわかってしまう。
それはかつて自分が命をかけて守った大切な人とのかけがえの無い記憶なのだと。
漠然とこれらは前世の記憶であるとスっと腑に落ちた。
それがラズ様と重なる。
―――つまり、そういう事なのだろう。
前世で果たせなかった自分の役目。
ぐっと涙を拭い深く息を吸い込むと再びベッドへ視線を戻し、そっと手を伸ばす。
「ラズ様、大丈夫ですよ、何も怖いものはありません俺があなたをお守りします」
あの時誓った言葉は20年以上経った今も変わらない。
前世同様、自分の気持ちは固く押し殺し、ラズ様が笑って過ごせるようお守りする。
貴方が誰の隣にいようが、自分の役目は変わらない。決して隣ではないけれど、陰ながら見守ることが許される地位をやっと手に入れた。
「ぁっ、ぁ、んんんぅ…いじわるっ」
「ん?ここがいいのかい?」
「ひぅぅぅ…やら、も抜いてっさわらないでっきもちいの、こわぃ」
「ふふ、大丈夫何も怖くないよ。いい子だね私と一緒にもっと気持ちよくなろう?」
「んぁっ―――」
掌に滲む赤いものも時が経てばいつかは塞がる。
そうして刻まれた長年の跡が色濃く残ろうが、胸が苦しいと訴えようが、全てに蓋をし無になることがここにいる条件。
クオーツ様と交わした契約。
それでいい。
今世こそ、必ずあなたの幸せを見届ける―――
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