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薔薇の毒(2)
そんなこんなで目的地に向け長い王城の廊下をマリンと共に渋々歩いている時だった。
「っげ……」
「ラズ様?」
突如ピタッと立ち止まる僕を不審に思ったマリンが心配そうに呼び掛けてくるが、それに構ってられる余裕はなかった。
向かい側からやってくる人影に相手より先に気が付くとどこか隠れるところはないかキョロキョロするも、見晴らしがよく開けた廊下にそんな都合のいい隠れ場所など無く、間に合わなかった。
「あら?あらあらあら?どこの誰かと思いましたら、ラズ様じゃありませんこと?」
「……ご無沙汰しております、ローズ様」
「御機嫌よう、このような所でお会いできるなんて光栄ですわ」
口ではそう言いつつも目が全く笑っていない彼女――ローズ様は、常に手に持ち歩いている豪華な扇子と派手に開いた胸元のドレスがトレンドマークのご令嬢。
恐ろしい程美人という言葉がピッタリ合う華やかな容姿の彼女は、普段から全身のお手入れに抜かりない事が安易に想像でき、会う度に彼女から漲る得体の知れない自信とオーラにたじたじになってしまう。
それもそのはず、ローズ様のお父上は前国王――クオーツのお父上――の弟君であり、その愛娘であるローズ様は今も尚正当な血を引く王族の一員。
そして、かつてクオーツの婚約者だった方だ。
クオーツと同年の彼女は幼い頃から未来の国王妃になるのだと厳しく育てられローズ様ご自身も意識高く過ごしてきたのだろう。
しかし現実は、自分より身分の低いぽっと出のオメガにその地位を奪われてしまい……ローズ様は発狂した。
行き場のない怒りをクオーツに向けるはずもなく、それらは全て僕に向かってきた。
そんな事になったのも、遡ること僕とクオーツの付き合い歴――念の為注釈を入れさせてもらうが、ここで言う付き合い歴とは恋愛感情での歴ではなく、人生で関わったという意味の歴なので!くれぐれも間違えないで!――は、物心つく前から既にあの男がほぼ毎日ストーカーのようにうちの屋敷に通いつめていたから人生の大半を共に過ごしてきたと言える。
ストーカーこわ。ドン引き。
通い妻ならぬ通いストーカーから一変、あんなんでも王太子だったクオーツが本格的に表の舞台に出るようになり忙しくなるとガクンっと会う頻度が減って喜んでいたのだが、それでは嫌だとなんとあの男は権力を行使し、あれよあれよという間に僕が王城で暮らすよう家族や周りに根回しされ、問答無用で連れ込まれた。
それがこの世界での成人になる12歳を迎えた時のこと。
その当時まだ第二の性が発現していなかった僕はそれはもう……本当に大変だった。周りからの白い目に何度心が折れかけたか。まぁ、それはまた別の話。
その間もクオーツからの謎の執着は飽きる気配が無く、20歳を超えた頃、やっと正式にオメガとして発現し初めての発情期が来ると同時に番契約を結ばれ久方ぶりにベッドを抜け出せた頃にはとっくに自分の立場は王妃になっていた。
わけもわからずクオーツの隣で国民の前に立ったあの戸惑いがまだ昨日のことのように思い出せる。
そんな僕とクオーツの歩みの中に当然ローズ様もいるわけで、彼女の怒りも理解出来る。
しかし長年植え付けられた陰湿な嫌がらせの記憶はいつまで経っても薄れることなく深く根付き、出来ることなら関わりたくない僕の意向を組んだクオーツから接近禁止命令が出ていた。
……はず。
王城からはるか先の離れに住まいを移され、簡単には入城を許されていないはずのローズ様がなぜこのタイミングで現れるのか。
にっこり微笑む彼女の笑みに背筋がゾクッと震えた。
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