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薔薇の毒(5)
番以外の人に縋りかけ、その場面を見られたかもしれないとビビって動けずにいたはずなのに、ちょっと優しく呼びかけてもらえただけでなんて現金なヤツって思われるかもしれない。
それでも、番契約を交わした相手――ましてや運命の番であれば尚更、その存在が自分だけを見ているという安心感はその場を一歩も動かなかった足の呪いを簡単に解いてしまう。
「ラズ、ほらおいで」
「っ、」
唖然と立ち尽くすローズ様の脇を通り越し、広げて待つクオーツの腕の中めがけて自らばふんっと飛び込んだ瞬間香るフェロモンと、すかさずギュッと包み込んでくれるクオーツの体温がバクバク暴れていた心臓を鎮めていく。
「大丈夫?遅くなってごめんね」
「……」
絶対に忙しいはずなのに、優先してここまで来てくれたことに対する謝罪とお礼を言わなくちゃいけないのはわかってる。
ちらっと見えたクオーツの後ろには焦った表情のトールが慌てて追いかけてくる姿も捕らえ、あまり時間が無い事は読み取れた。
そこまでわかっていても、すっかり頑固に凝り固まった僕の口は素直に言葉を紡がず、代わりにせめてもの表現としてクオーツの背中に回した手にギュッと力を込める。
そんな全くもって可愛げの欠けらも無い僕にこの男はとことん甘い。
ふっと笑う吐息も、頭を撫でるその手つきも、何もかもがゲロ甘だ。
「部屋に戻ろう。抱き上げてもいい?」
「……好きにすれば」
「ふふ、ありがとう」
何がありがとうなんだ、バカクオーツ……
嬉しそうな顔して大事に大事に抱き上げてくれるクオーツと目が合うのが照れくさく、さっと首に腕を回した拍子にフェロモンが一番色濃く香る目の前の首筋に誘われるまま顔を埋めたものの、やってからハッと気付いたが今更顔は上げられない。
なんだかんだ番のフェロモンを感じていたいという本能的な行動と共に、色んな人の視線からも逃れようとした無意識の行動。
とりわけ見られたくないのが、ラルド様―――
決して今この場でその存在を忘れた訳では無い。
ゆえに、この光景をどう思われているかわからないが、情けない姿をこれ以上晒したくなかった。
そんな僕の行動すらも全てお見通しなのか身体の向きをうまく変え死角に隠してくれるクオーツのさり気ない気遣いにまたもや、ぐぬぬぬ…と素直になれず歯がゆい気持ちが込み上げ、無言でクオーツの肩口の服をギュッと強く握りしめればクスッと小さく笑われる。
そんな静かな攻防を交わしている間にも僕達を見つめるラルド様の視線と表情に、少なくとも僕は全く気付いていなかった。
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