19 / 141
とある騎士の話
◆◇◆◇◆
「立てーー!へばるなへばるなっ」
「いけるぞー!団長から一本取れるまで休憩無しだーー!」
国内一厳しいと言っても過言では無い王国騎士団。
その中でもトップ級に厳しい騎士団長ラルド様が率いる第一騎士団は本日も王城内の訓練所で日々の鍛錬を積んでいた。
「今日も来てますね、ラズ様」
「毎日よく飽きないよな」
団長の目が光る訓練所内、常に集中し気を抜く事が許されないそんな場で、騎士達の気を散らす異様な存在がいた。
「~~~っ」
少し離れた場所に植わる木々の中の一本。必ず決まった大木の陰からこちらを覗き見て、内容までは聞こえて来ないが何かしら一人で狂ったように叫び胸を押え蹲る、見ていて心配になる行動をする人物。
通常だったら不審者邪魔者は即排除対象だが、その人物だけは例外だった。
なぜならそれがこの国の王妃―――性別上は男でも国王陛下の運命の番として妃に迎えられた、ラズ様なのだから。
「あの、先輩方……俺の認識が間違ってなければあの木の陰からこっちを覗いてる怪しい人は王妃様かと思われるのですが……」
「あぁ…そうかお前新入りか」
「はいっ昨日より配属致しました!」
初々しさ全開にビシッと敬礼する新人を若いなぁと思ってしまうくらいには自分も歳をとった…としみじみすると同時に、この騎士団に所属したからには知っておくべきことを伝承する。
「王国騎士団に入団した時の誓いは覚えているか?」
「はっ、ここで見聞きしたことを外部に漏らさない、です!」
「そうだ、その誓いを絶対に忘れず、今から言うことをよーく聞け」
「は!」
「あの方は正真正銘この国の王妃、ラズ様であり……我らが団長、ラルド様の追っかけだ」
「……は?」
何を言っているんだ、という新入り団員のリアクションをこれまで何度も見てきた。しかし、数日もすれば皆理解しいつもの光景と化するのだった。
「今は理解できずとも、じきに分かる。それを踏まえて我々はラズ様の邪魔をせず、訓練にだけ集中すればいい。そっちに気を取られていると団長にしごかれるぞ」
「……はぁ」
頭にはてなを複数浮かべながらもとにかく返事をする新入りの言葉を遮るようにして、一段と大きな声が飛んできた。
「ぎぃやぁぁぁぁぁっラルド様ぁぁぁっっがっごいぃぃぃぃぃっ」
「「……」」
「あ、陛下が回収しに来た」
「離せっクソクオーツっ離せぇぇぇっ」
「ラズの視線がうるさいって苦情が入ってるよ」
「っ!?そんな、ラルド様のご迷惑に……」
「そうだね、迷惑になるからラルドじゃなくて私を見ていなさい」
「うぅ…ラルド様ごめんなさいぃぃ…」
民の前に立つ表向きのお二人しか見た事のない者が初めて見たら唖然としてしまう光景。
国王陛下をクソと言う王妃。王妃に全く相手にされない国王陛下。
王国騎士団が守る対象は多岐にわたる。情報も然り、だ。
それにしても今日のは一段と激しかった。
「……い、いいか、新入り。ここで見聞きしたことは門外不出だ。絶対に漏らすなよ」
「……漏らしません」
これで、入城時に印を押した誓約書の真の意味を理解したことだろう。国民が抱く、国の象徴のイメージを決して損ねてはいけない。
陛下に担がれ小さくなっていく王妃の姿を口を固く閉ざし見送った。
「そこ、何をしている集中しろ」
「「はっ!」」
訓練中、常に隅々まで目を走らせる団長にまんまと談笑が見つかり、鋭い注意が飛んできては慌てて姿勢を正す。
その視線が別へ移ったことを確認するやいなやそそくさと自分の持ち場に戻っていく新入りの背中を見送りながらまだ伝えていなかった事柄があったと思い出す。
しかしこれは騎士団内で過ごしていくうちに自ずと気付くことだろう。
あそこまで熱心に見つめられるラズ様の視線と声援に一切動じない、団長の精神力の凄さとスルースキルの高さ。
そして、自然に動く団長の視線の先は遠ざかっていく担がれた背中へと向かうが、長年共に過ごしてきた自分までも気付かせない団長のスキル。
とにかく、うちの団長は凄い人なのだ。
とある騎士の話-END-
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」