48 / 141
王の側近
「……」
「トール、どうかしたかい?」
立場上、常に周囲に気を張る私の主――クオーツ様は、腕利きの騎士にも全く引けを取らない察知能力を持ち合わせている。
今も、私の動きがワンテンポ遅れただけで書類を書く手を止め、そう尋ねてきた。
本当に、よく周りを見ていらっしゃる。
◆◇◆◇◆
本日のクオーツ様のスケジュールからして、朝から一日執務室にこもりっきり。
その為、丁度事務作業にも飽きてきた頃だったのだろう。
完全にペンを置き、すっかり話を聞く体勢のクオーツ様の様子からこれは言わなければ先に進まないとすぐさま察する。
さっさと報告して作業に戻ってもらわなくては――その手元と横に積み上げられた書類たちは今日中に王のサインが必要なものばかりだった。
顔を青ざめさせた臣下たちが扉の外で待っているのが目に浮かぶ。
「ほら、話してごらん」
机に頬杖をつき、にこにこ待っていらっしゃる。
そんな大層なことでは無いのに……。
はぁ、と一息を吐くと今さっき飛んできたことを報告した。
「――マリンが、ラズ様に話したそうです、私たちの力のことを」
「あぁ、なるほど」
それだけです、で話を終えようとしたがクオーツ様はそれだけでは終わらせてくれなかった。
頬杖はそのままに、何もかも見透かしたような落ち着いた笑みを向けてくる。
「心配?」
「何が、でしょうか」
不意の質問に答えが見つからなかった。
「おや、無意識?難しそうな顔をしてるけど」
「それは――無意識でした」
「そっか。いつにも増して表情硬いから、マッサージしなさい」
ほら笑って~と伸びてきたクオーツ様の指が無理やり口角を上げてくる。
「……やめてくらひゃい」
「無表情だなぁ、トールの表情筋はマリンが持ってったんだね」
「ですね、同じ顔なのに不思議です」
「あははっ自分で言う?」
そんなに面白かったのか、しばらく笑い続けたクオーツ様は目に浮かべた涙を拭いながら「で?」と話を戻してくる。どうやら終わってなかったらしい。
「ラズに知られた事がそんなに心配なのかい?」
「何でしょう……心配、とは違うのですが……あの方に嫌われたく無いな、と私もマリンも思いはします。それもあってこれまで知らせずにいました」
「ふふ、ラズはみんなに愛されているなぁ妬けてしまうよ」
そうクオーツ様に言われてから今の自分の発言は大分不遜な発言であったと気付く。
「あ、いえ、そういう訳では――申し訳ありません」
「いい、いい。大丈夫。お前達双子にはラズを大好きでいてもらった方が安心して任せられる」
「……はい、ラズ様には常に笑顔でいていただきたいです」
自分がラズ様と関わることは稀だが、マリンからよく伝わってくる。顔を合わせば「聞いてよトール、今日もラズ様――」とマリンの口からラズ様の名前が出ない日は無いくらい、楽しそうに話している瓜二つの双子の弟。
そんな明るい弟のいまの性格はラズ様のおかげ。
そして、そんなラズ様と出会わせてくださったクオーツ様のおかげ。
思い出したくもない幼少期。
双子は不吉という古い考えが根強く残る村の集落で散々な目にあいながら、気付いた頃には親に捨てられ私とマリンの二人だった。
生きるのもやっと、明日を迎えれるかどうかの瀬戸際、そんな人生だった私達双子が、巡り巡って今では王の側近トールと、王妃の世話係マリンとして今日を生きている。生きる意味を与えてくれる、太陽そのものみたいな方達の元で。
「決してラズはお前達のことを気味悪がったりしない。お前もマリンも、傷付くようなことはしない優しい子だよ」
「……はい」
ラズ様の事を語る時、必ずクオーツ様の口調はいつにも増して優しさを帯びる。その声を近くで聞けるのが密かな私の幸せ。
お二人の幸せが私達双子の幸せ。
「だから気に病むことは無い。今まで通り普通に接しなさい。もちろん、私にも。お前の力はとても役に立つからね」
「ふふ、はい」
ふっと自然に漏れた笑みをこぼしながら、心の底から返事を返した。
私達双子は、クオーツ様とラズ様に一生尽くして生きていく。
返しても返しきれない恩がいつの日か返し切れるその時まで―――
「―――あ、クオーツ様、ラズ様から伝言があるそうです」
「ふふ、早速あの子は面白がってマリンに力を使わせているんだね。なんだって?」
「アホバカクオーツ外出禁止解除しろ――との事です。申し訳ありません、ありのままをお伝えする為不遜な言葉を吐きました」
「……いいよ、トールは悪くない。そうだな、返事は――私の帰りをいい子で大人しく待ってなさい、と伝えて」
「……承知いたしました」
王の側近 -END-
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」