51 / 141
推しの休日ウォッチング作戦(3)
ポカンと間抜け面を晒し続ける僕に「ラズ様?」と呼びかけてくるラルド様の声で、はっと我に返る。
惚けている場合ではなかった。
「な、んで…ラルド様がここに……?確か今日の午後はお休みで、お休みの日は決まって城内に集まる野良猫の世話をしてる…って」
「何故あなたがそれをご存知で――じゃなくて、私の事はどうでもいいです。一体何をしていらっしゃるのですか、城内大騒ぎですよ」
「え……もしかしてラルド様の所にも……」
「退勤後に連絡を貰い、あなたを探していました」
それを聞いた瞬間、そんなぁぁぁっと大きく天を仰ぐ僕の突然の動きにビックリしたラルド様に咄嗟に強く抱き締め直される。
んわ、青筋が浮かぶ前腕最高……。
「ラズ様、危ないですから暴れないで」
「しゅみません……」
腕をチラ見して内心ふがふが興奮していると真面目に怒られ、しゅん、と謝る。
大人しくラルド様の肩に手を置いた。
ところで、僕はいつまで推しに抱き上げられているのでしょうか……?こんなご褒美シチュエーションがタダで起こるなんて有り得ない。あとから絶対何かある。
「とにかく見つかって良かったです。お怪我は――されてますね…骨に異常はありませんか」
「うーん…多分大丈夫だと思います。なんか僕、悪運強かったみたいです」
にっ、と笑った僕に対して、はぁ…と漏らしたラルド様の呟きは苦笑と共にどこか懐かしさを滲ませた。
「あなたは昔からお転婆な所は変わりませんね」
「そんなに僕、お転婆でした?」
「……そうですね、心配で目が離せませんでした」
ふっ、と笑うラルド様の貴重な微笑みを真正面の至近距離で直に浴び、ぐぬぬぬっと飛びかける。
あぶなぁ…心臓飛び出るかと思ったぁ…
暴れる心臓を必死に抑えていた僕は、その後に続いたラルド様の小声の呟きをすっかり聞き逃していた。
「―――また再び、あなたを抱き起こす事ができるなんて…」
*****
「ラズ様、僭越ながらこのままお運びさせていただいてもよろしいですか?」
「え、逆にいいんですか!……てか、どこへ?」
暫くこのままご褒美タイムが頂けるなんてっと、両手をあげて喜びかけて、はたと気付く。
一緒に猫ちゃんのお世話?
「クオーツ様が見つけ次第連れて来るようにと王命を出しておりますので」
「げっ!!!」
クオーツの命令かよ!
しかも絶対的権力を持つ王命!?
実際そういう命令方法があるというのは話でしか聞いたことが無いくらいなかなか出ることは無い最上級の王の権限。
間違いなくこんな事のためにそんな易々と発動していいやつじゃない。
「あっのバカ…こんなことで王命を出すやつがいるか!?どんだけの人を動かしてるんだよ!?」
ぷんすか怒る僕に、僭越ながら…とラルド様が口を開いた。
「三階のバルコニーから落ちたラズ様がそのまま走って逃亡した、となればそうするのも無理はないかと」
「……そんな大事?」
「私も聞いた瞬間、肝が冷えました。本当に危ないのでもう二度とおやめください。……もし万が一、ラズ様が本気でここから去りたいのであれば、その際は私が手助け致しますので、決して、おひとりで危険なことはなさらず、あなたは安全な場所で安全に幸せに生きてください」
「そんな大袈裟な――」
「大袈裟ではありません。今度こそ私はあなたの幸せを見届けてからこの命を散らせたいので――」
「絶対ダメ!」
ラルド様の言葉を遮るように放った声は、自分から出たものとは到底思えない一種の叫び声のように高く掠れ、耳にツンと痛みを残す嫌なものだった。
「ラズ…様……?」
ぽかん、と目を見張るラルド様の表情は、何故か水の膜で揺れてよく見えない。それでも、口から出る言葉は止まらなかった。
「絶対、ダメ……今度は僕が、あなたの幸せを見届けるんだから……」
「……ラズ様、何故そんなにも私を───」
「あぁぁっラズ様!いたっ!!!クオーツ様っラズ様見つけました――!!」
何かを言いかけたラルド様の言葉は、遠くの方で響くマリンのよく通る声によってすっかり掻き消されてしまった。
数人分の足音が近付いてくる。
ラルド様が言いかけた言葉を聞き返すタイミングは完全に失っていた。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」