【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

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推しの休日ウォッチング作戦(5)


 
 
「……」
 
 
 誰も口を開くことなくあっという間に王城まで辿り着くと後ろを着いていた大勢の人たちは各自持ち場へと戻っていく。
 城内に入ってからはクオーツとクオーツに抱かれた僕、その後ろに続くマリンとトールの四人で進んだ。
 
 
 ―――いまだ無言は続く。
 
 それどころか、横抱きで抱かれる至近距離にいながら一度もクオーツと目が合わない。普段なら何かと気を配る声がけと、隙あらば僕を眺めているクオーツが、こちらを見ようともしない。
 
 いままで何度も何度も暴走して怒られてはきたが、こういう対応をされるのは初めてだった。
 
 なんだろ、心臓がズキズキ痛い、かもしれない…。
 
 
「―――っ、」
「ラズ?どこか痛む?」
 
 
 俯きがちだった顔がより沈み、服の上からギュッと胸を押さえ小さく息を吐き出す僕の様子に気付いたクオーツの声が頭上から聞こえた。それだけでぶわっと涙腺が緩みそうになるのをギュッと唇をかみしめ堪えると恐る恐る顔を上げる。

 その瞬間、交わった視線の温度感が想像していたものより幾分も温かく、安堵に似た感情がどっと溢れ出た。
 
 
「三階から落ちれば痛くて当然だよ自業自得。部屋までもう少し辛抱なさい」
「……うぅ、違―――」
 
 
 ポロポロ溢れる涙は決して、身体が痛いから出てくるものではない。番に無視される行為がこんなにも恐怖と緊張に繋がるなんて思いもしなかった。
 温度のあるクオーツの視線と交われば、極限まで感じていた負の感情もみるみるうちに弛緩し、涙は余計止まらなくなる。
 
 
「ラズ?」
 
 
 泣き続ける僕に困惑の表情を見せるクオーツの顔を見ていたら気付けば身体が勝手に動いていた。
 横向きに抱かれた姿勢から自力で上体を持ち上げ、クオーツの首に腕を回すとギュッと抱きつく。
 いままで止まること無かった歩みがピタッと止まった。
 
 
「心配かけて、ごめんなさい」
「……はぁ――さすがにしばらく灸を据えようと思っていたのに……。ラズ、顔を上げて」
 
 
 そう言われ、埋めていた首筋から恐る恐る顔を上げるとクオーツのおでこがコツン、と降ってくる。
 
 
「……怒ってる?」
「当然怒ってる。頼むから、あまり心配させないでおくれ。バルコニーから落ちたと聞いて心臓が止まるかと思ったよ」
 
 
 クオーツに抱かれたまま、額同士を重ね合わせた至近距離で見つめ合う。
 だから余計、真剣さが伝わってきた。
 
 
「何度だって言う。きみが死ぬ時が私の最後。私を置いて一人でいかないで」
「うぅぅ…ごめんなさいぃ」
「もういいよ、ラズが無事で良かった」
「~~っ、」
 
 
 自分の身勝手な行動で多くの人に迷惑と心配をかけた。軽いかすり傷で済んだものの、下手すれば命を落としていた可能性だって大いにある。
 僕の命はこんなところで終われない。
 先程ラルド様に言ったように推しの幸せを見守ると豪語して、その道中でうっかり死ぬなんて本末転倒。
 それに―――番を失った片割れのその先は、僕なんかでは安易に想像もできないくらいの悲劇が起こる気がしてならない。
 ちょっと考えただけで背筋がゾクッと震えた。
 
 
「クオーツより、絶対長生きします」
「そうして」
 
 
 今世の僕の役目は、ラルド様の幸せを見守ること――そして、僕のことを死んでも離さないこの国で一番の権力を持った番様が馬鹿な選択を取らない為に長生きすること。
 
 ゲームのようにリセットが効かないこの人生を精一杯生きていく。
 今日みたいな失敗はもうしないと固く誓った。
 


 
「あぁ、だけどお仕置はするから覚悟しなさい」
「……へ?」

 
 そこで初めて気が付いた。

 ニッコリ微笑むクオーツが向かった部屋はいつもの寝室とは違う、発情期の時にだけ使用する二人きりで籠るための部屋だということに。
 

「え…ちょ、クオーツ…待っ―――」
「しばらく誰も近寄らせるな」
「「承知致しました」」
 

 マリンとトールに見送られながら簡単には開かない厳重な扉が重い音を立て閉まっていった。
 
 
 

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