57 / 141
後日談(2)sideラルド
「びっくりしたぁ…こんにちはラルド様、こんな所でどうしたんですか?」
「ラズ様こそ…そんなに走ってお身体は無事なのですか?」
「全然大丈夫です!ピンピンしてますよ~」
ほら、とぴょんぴょん飛び跳ねて見せてくださるお姿が可愛らしい。
心配していたよりも元気そうなご様子に密かにホッとしたのもつかの間、何かが響いたのか突然ピキっと固まる身体に咄嗟に手を伸ばす。
相当痛みを感じたのか、ぐぬぬと悶絶する表情で私の手を取りよろよろ掴まるラズ様を「ご無理はなさらず」と苦笑しながら支えていると、不意に上から見えてしまった―――首筋の痕跡。
よくよく観察すれば、痛みを訴えているのも腰付近の下半身だと推定できた。
「っ」
瞬間、頭をよぎるのは遠征訓練でのあの一夜。
私の腕の中でクオーツ様と交わりながら果てたあのラズ様の妖艶なお姿。
―――ひゅっ、と乱れかける呼吸を必死に押し殺す。
あの日、クオーツ様から下がっていいとの許しが出るやいなや、声をかけてくる部下を振り切り一人野営地から離れた森の奥深くまで駆け、隠れるように息を潜めて行った行為。
脳裏に焼き付いて離れないラズ様のお姿とほのかに残るリアルな体温。その二つで、存在を主張する張り詰めた己の性を処理したあの時間は、後に残った強い罪悪感と共に墓場まで持っていくのだと心に秘めた。
誓って、ラズ様で致したのはあの一度きり。
それ以来、忘れようと記憶の奥底に追いやったあのお姿がいま突如、フラッシュバックした。
ラズ様には悟られないよう、慎重に深呼吸を繰り返し気を落ち着かせる。
そんな黙りこくる私に「ラルド様?」と無邪気に見上げてくるその上目遣いが今はただただ目に毒だった。
無理やり咳払いで誤魔化す。
「……どちらへ向かう予定ですか?このままお連れ致します」
「いやいや大丈夫ですよ!お忙しいラルド様を引き止めるわけにはいきません!今は貴重な休憩時間のはずなのにこんな所にいるってことは何かご用事ですよね!すみません長々と」
何故スケジュールを把握しているのか、という疑問はさておき、頑なに大丈夫だというラズ様のお言葉を尊重する。
「……わかりました。ですが、決してご無理なさらないでくださいね何かあればすぐ近くの者に声をかけてください」
「はい、わかってます」
騎士の真似か、ビシッと敬礼をしてみせる姿もいちいち可愛らしいと思ってしまう。
にししっと笑うその小さな頭を撫でる権利は私には無い。伸ばしそうになった手をギリっと強く握りしめた。
「あ、それとラルド様、昨日は本当にお騒がせしました。もう少し自分の立場と陛下のお気持ちを考えて行動するようにします」
「……ご立派です、ラズ様」
「へへ、褒められた」
……本当に、ご立派になられた。
近くで見てきた生後10数年のラズ様と、前世の己が死ぬ間際までそばで仕えた翡翠様。そのどちらとも違う洗礼されたお顔付きは一国の王妃として今後より一層輝くことだろう。
そんな尊いお姿を陰ながら見守り、時に身を呈してお守りする為、いまの騎士団長という立場まで登りつめた。
「あ、でもでもラルド様の邪魔にならないよう陰ながらお姿を追いかけるのは変わらずなので、そこだけはお許しください!推し活は辞めません!息を潜めて眺めてます!」
無邪気な笑顔を惜しみなく向けてくださる。
太陽みたいなお人。
「どこにいても、私はあなたを見守っています」
「ひゃぁ~っこれぞまさに公式認知~!超絶特大ファンサもらっちゃったぁ~」
ぐふふっと笑いながらそれでは、と去っていくラズ様に、前を見て、という声は届いただろうか。
角を曲がりその姿が見えなくなってもなお、しばらくその場に留まり、かの人の痕跡を名残惜しく見届けた。
「ラルド様、クオーツ様がお待ちです」
「――承知した」
そんな時間は、痺れを切らしたトール殿が呼びに来るまで続いた。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」