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後日談(3)sideラルド
「失礼致します」
トール殿に見送られ、クオーツ様が待つ執務室にひとり入室すると、普段書類作業をしていらっしゃる書斎には姿が見えない。
一体、どこへ―――
「こっちだ」
声がした方へ誘われ進んだ先、窓際に立つ後ろ姿が逆光となり出迎えた。
こちらを見向きもせず、眺め続ける窓の外から見える景色にはたと思い当たる―――
「私の番との逢瀬は楽しめたか?」
「……見ていらっしゃいましたか」
肩越しに振り返ったかと思えば、意味深に微笑みを残し、「まぁ座れ」と近くのソファを顎で指し示す。
クオーツ様が座るのを待ち、続いて腰を下ろした。
改まって対面したこの場で何を言われるのか――
言葉を待つこと数分、出てきたのは、はぁ…、という重いため息だった。
「番ってしまえば私のモノになると思っていたのだがな……」
ぽつりと零すクオーツ様は肘掛けに頬杖をつき、遠く窓の外を眺めている。
「お前が羨ましい」
「何を…仰りますか……」
番という絶対の関係性を築いてもなお、何を求めるのか―――
驚愕、という表情を浮かべる私に流し目を寄越し、ふっと笑ったクオーツ様は「そう怒るな」といなしてくる。
「わかっている。自由なあの子を勝手に縛ったのは私。ラズの心まで求めるのは贅沢だな」
「……ラズ様は十分クオーツ様を想っていらっしゃいますよ」
「ふっ、だといいが」
クオーツ様との関係は国王陛下に即位されるずっと前、幼少期からの長い付き合いとなるが、常に自信とカリスマ性溢れるクオーツ様のこの様な姿は調子が狂う。これならまだ罵られた方が何倍もマシだった。
うまく言葉をかけることが出来ず、どうしたものか、と戸惑っていると、再び、ふっと笑ったクオーツ様は「悪い、困らせてしまったな」と空気を変える。
憂いを帯びた表情から一変、まっすぐ私を見据えた鋭い目は、見慣れた国王陛下の表情だった。
「今日呼んだのはそんな愚痴を聞かせる為じゃない。ラルド、お前から名誉ある騎士団長の称号を解く」
「……今回の処罰、ですか」
何かしらの処罰が下ることは覚悟していた。
しかし、それが騎士団長解任とは思ってもみなかっただけに戸惑いは大きく、素直にはいと言えない未練がましい姿を晒してしまう。
そんな私をふっと笑ったクオーツ様に「まぁ落ち着け」と続きを聞くよう諭された。
「騎士団長はクビだが、代わりに王妃付きの護衛騎士に任命する、と言ったら、どうだ?引き受けるか?」
「……は?」
突然の事に頭が追いつかない。
私が、王妃――ラズ様付きの騎士?
現在ラズ様にはお世話係としてマリン殿がついているだけで、護衛騎士は不在だった。それはクオーツ様が不用意にラズ様の近くに人を置くのを許さなかったため。
そのポジションが私にいただける―――
「昨日の一件で痛感した。あんな無茶をしてまでお前に会いに行こうとするくらいなら、お前を近くに置いた方がマシかと」
「いいの、ですか……?」
「もちろん、ラズに手を出したら容赦なく、殺す」
首をスパンっと切るジェスチャーをするクオーツ様に黙って頷いた。
「すぐにとは言わない。心が決まり次第――」
「お受けいたします」
「ふっ、即答か」
こんなまたとない機会断るはずもなかった。
どんな立場だろうと、ラズ様のお近くにいれるだけで満足だ。
「決まりだな。今後ラズに傷一つ付けることは許されない。一層、心して守り抜くように」
「御意」
クオーツ様の言う“傷”という言葉に、つい先程見えてしまった“痕”が連想される。
そんな邪な考えすらも抱いてはいけない。
再び巡ってきた直接的にラズ様をお守りできるチャンスを無駄にしない。
その為に自分の気持ちに蓋をするなど容易な事だった。
「ラズには私から話しておこう。もう下がっていいぞ。荷物をまとめ今日中にこちらに移り住め」
「承知致しました」
明日から頼んだぞ、という言葉で見送られながら執務室を後にする。廊下で待機していたトール殿と軽く会釈を交し、騎士団の宿舎へと向かう。
その足取りは正直複雑なものだった。
今より一層お近くで見守ることが出来る喜びと共に、ラズ様とクオーツ様、番同士のやり取りを目のあたりにする機会は増えることだろう。
私がするのは何事にも動じず、無に徹することが出来るよう、最善を尽くすのみ。
太陽みたいなラズ様の笑顔を守るため、明日には気持ちを切り替えるべく、気持ちの整理にいそしんだ。
後日談 -END-
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