66 / 141
番不在の発情期(1)
「ラズ様ぁ~早く起きて支度してくださいな!クオーツ様とっくに準備整ってますよ」
「……誰のせいで起き上がれないと」
「何か言いました~?」
うるさいマリンの小言は朝から全く優雅じゃない。
とっくに目は覚め覚醒していたものの、昨夜のクオーツのしつこいアレのせいで全身筋肉痛が激しく動けないでいた僕にマリンの容赦ない催促は続く。
「ラズ様ぁ~早く!」
「~~っ、はぁい!!」
覚悟を決め、気合いで無理やり上体を起こしその勢いのままぎこちない動きでベッドから床に足をおろそうとして――案の定ガクガク震える下半身は自分の体を支えることは出来なかった。
べちゃぁっと床に崩れ落ちる情けない僕に差し伸べられる大きな手。
「ラズ様、大丈夫ですか?お手を」
「……すみません」
朝からラルド様に情けない姿を見られてしまった。
「ラズ様、遊んでないで早く準備してくださぁい」
くっそぉぉぉぉっっ―――!
◆◇◆◇◆
クオーツが今日から二泊三日で城を空ける。
この予定は急遽決まったものだった。
「ラズ、見送りありがとう。身体は大丈夫かい?」
「……おかげさまで朝イチベッドから落ちましたわい」
なんとか人前に出れる格好に身なりを整え王城前の庭で行われる出立式に間に合うと、よろよろ歩く僕をいち早く見つけたクオーツは打ち合わせで囲まれた集団から抜け出し、支えにやって来てくれた。
ちなみに、直前まではラルド様に抱き上げ運んでもらいました、なんて口が裂けても言えない。
「ふふ、無理はしないで今日明日ゆっくりお過ごし。スケジュールが終わり次第なるべく早く帰るけど、もし何かあったら遠慮なくマリン経由で飛ばして。すぐ駆け付ける」
僕の世話係マリンとクオーツの側近トール。双子の不思議な力を知ったのは最近のこと。
何か話しているのか珍しく共にいる二人にチラッと視線をやれば、いつも通り無表情で軽くお辞儀をするトールと、にっと笑顔で手を振ってくるマリン。
同じ顔でここまで雰囲気が違うから、不思議だ。
「本当にごめんね、発情期が近いのに城を空けてしまう事になって……前もってスケジュールはあれほど調整したのに…使えないクソ老害共…」
「それはもう何回も聞いたっつーの。僕は大丈夫だから、人を殺す目つきやめろ。仕事なんだから仕方ないだろ、しっかり外交してきてくださいな」
「……数日間もラズと会えないの寂しい」
「お前は赤ちゃんかよ」
呆れたツッコミに、「だってぇ」と頬を膨らませながらところ構わず抱きしめてくるのはさすがに国王の威厳が損なわれるから人前ではやめてほしい。周りが微笑ましそうに見てくれるうちが花だぞ。
ぎゅうぎゅう抱きしめてくる腕にぐいぃんっと海老反りで対抗していると、不意に項を撫でる手つきにビクッと反応してしまう。
「ひょあっ!?な、なにさっ」
「……やっぱりいつもよりフェロモン濃いね」
「えー…まじかぁ…」
くんくん、と自分で匂ってみてもよくわからず、代わりに至近距離で首筋をすんっと嗅いでくるクオーツから漂うクオーツのフェロモンを深く吸い込んでしまった。
番持ちとなった僕が唯一認識できるフェロモン。
いつ嗅いでも落ち着く、いい香り。
「あ、また濃くなった」
「~~っ、ま、まぁ予定ではまだ1週間は余裕があるし、最悪なんかあったらあの部屋に籠るから大丈夫大丈夫」
「本当?はぁー…心配」
うりうり抱き締めてくる腹に、なんでだよっとパンチをお見舞いしていると、クオーツ様、と呼ぶトールの声で出発の準備が整ったことを知らされる。
「ほら呼んでるぞ!」
「……だね。それじゃあ、ラズ、行ってくるね」
「ん」
名残惜しそうに馬車に乗り込むクオーツに早く行けとジェスチャーを送る。
パタン、と扉が閉まって間もなく、綺麗に隊列が組まれた騎士の馬とそれらに囲まれたクオーツが乗る馬車が動き出し、遠く小さくなっていくのをしばらく見届けた。
如何なる時も、フラグというものは回収される為に存在する。
今回これが、僕が初めて迎える番不在の発情期となる――が、この時はまだ何も知らない。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!