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番不在の発情期(3)sideラルド
「それじゃあラズ様…俺たち隣の部屋にいるから、何か必要だったらすぐ言ってね」
「ん……ありがと」
「ぐっすり寝ていい夢見てね」
「おやすみなさいラズ様」
ぼやっとした様子のままゆっくり目を閉じるラズ様を見届けるとマリンと目配せを交わし、最低限息を潜めながら主寝室を退出する。
明かりを落とした月明かりのみの部屋から一変、手狭ながらも電気を灯した明るい控え室に出た途端、どちらともなく無意識に詰めていた息をはっと吐き出した。
「はぁ~…あんなに元気だったのに、突然どうしたんだろラズ様…気持ち悪いとかどこかが悪いとかではないみたいですけど…」
「……心配だな」
クオーツ様を見送った朝。
そして昼過ぎまでは元気にしておられたラズ様の様子がどこか変だと気付いたのは夕食の準備が整った頃あたりのことだった。
呼んでも反応は鈍く、普段クオーツ様と共に囲う卓に一人で座るがなかなか食が進まず、しまいには半分以上残される姿に疑問を持たない者はいない。
作ったシェフに対して「ごめんね…」と申し訳なさそうに謝ることを忘れない姿はラズ様らしかったが、その声はとても弱々しい物だった。
その後、簡単に湯浴みを済ませると、普段の就寝時刻よりだいぶ早くから自らベッドへ潜るその姿をしばらくマリンと共に見守ったが、なかなか寝付く様子は無く、我々の存在が邪魔なのかもしれないと一時退出を余儀なくされた。
大丈夫かと聞いてもあの方は大丈夫としか答えない。
確実に不調を訴えている姿を目の前に、何も出来ない自分の不甲斐なさに腹が立つ―――。
「……やっぱり発情期の影響始まってしまっているんですかねぇ…念の為主治医に処方してもらった抑制剤で和らげばいいんですけど」
「その可能性は大いにあるな…今まではどうなんだ」
私の知るラズ様がご自宅で過ごされていた12歳頃まではまだ第二の性が発現前のこと。当然、発情期の経験はなく、その後の王城内での出来事を私は詳しくは知らない。
生後から見守ってきた私より、入城当時から仕えているマリンの方がとっくにラズ様に関して知ることが多いのだろう。
「そうですねぇ…いつもは全然予兆もない時くらいからクオーツ様が的確に察知して、早々に専用部屋へ強制的に引きずり込むので……思い返せば俺たちがラズ様のそういう姿を見ることもないんですよね~…」
「……なるほど」
そんな抜かりないクオーツ様が大丈夫と判断し遠征に出かけたというのなら、今この事態はかなり緊急性が高いのかもしれない。
「確かラズ様は第二の性が発現したと同時にクオーツ様と番になっているんだったな」
「ですです」
「それから常に発情期はクオーツ様が傍におられた……もしかしなくとも、ラズ様にとって番不在の発情期はこれが初めて、という事か」
「あ――確かにそうかも…」
考えついた可能性が、ラズ様にとってどれくらいの不安要素となりうるのか計り知れない。
私達に出来ることは少しでもラズ様が楽になるよう薬を処方する事と見守る事。
それ以上は番であるクオーツ様のみがなせる事。
「この事、クオーツ様にお知らせしていいですよね」
「そうだな、知らせなかった時の方がのちのち恐ろしい。万が一の場合、公務の尻拭いは他の者に当たってもらえばいい」
「……なんか、ラルド様も大概ラズ様最優先ですよね、ちょっと意外でした」
マリンの呟きにはた、と動きが止まる。
「そうか?」
「国との天秤にかけた時、クオーツ様は間違いなくラズ様を取ると思ってますけど、元とはいえ騎士団長まで担ったラルド様は―――」
「……ふ、誤解するな。私が忠誠を誓っているのはこの国でもなければクオーツ様でもない。私の忠誠はラズ様に捧げている」
「わぉ…」
目を見開くマリンに苦笑を送り、これ以上踏み込ませないよう話題を変える。
「夜間は私が見ているから、クオーツ様に知らせたらマリンも休んで構わない。何かあればすぐに伝える」
「……はぁい、よろしくお願いします」
何か言いたそうなマリンを控室から続く自室に強制送還しパタンと閉まる扉を見送ると、途端シーンと静まり返る一人の空間。
どこかへ座るでもなくとんっと主寝室に続く扉に背を預け、腕を組みながら目を閉じ少しの物音も聞き逃さないよう耳をすませる。
ラズ様のそばでこのように過ごす夜をどこか懐かしく思いながら―――
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