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妊娠の予兆(1)
その期間の事は記憶がだいぶ曖昧だった。
いつの間にか始まっていた発情期
これまたいつの間にか戻ってきていたクオーツ
そんな状況下でも激しい交わりを繰り返した形跡は体の節々から感じ取り、正気を取り戻した時にはまるまる一週間二人で籠って過ごしていたらしい。
しばらくはまともに歩けないほど足腰が使い物にならない僕を久しぶりに会ったマリンはいつも以上に甲斐甲斐しくお世話をしてくれて、
ラルド様もいつも通り変わらず一定の距離を保ち見守ってくれている。
クオーツが不在の間、トールにはだいぶ迷惑をかけてしまった。
たくさんの人に支えられ、予想外のタイミングで突入してしまった発情期はなんとか終わり、いつも通りの日常がまた始まった───
と、思われた。
◆◇◆◇◆
それは自室で過ごしていた時のこと。
「ラルド様?おーい、ラルド様!」
「……っ!あ、すみませんラズ様、何でしたか」
いつものように壁際で待機するラルド様に用事があり話しかけたのだが全く返事がなく、マリンとはてなマークを浮かべながら目を合わせ、目の前まで行って至近距離で手を振って始めてその存在に気付いたかのようにビックリする姿が珍しく、こちらまでビックリしてしまった。
「特に大したことでは無いんですけど…大丈夫ですか?最近お疲れですか?」
「いえ、……少し考え事をしておりました、業務中に申し訳ありません」
「?体調悪いとかじゃなければいいんですけど、何かあればなんでも言ってくださいね、クオーツが嫌な事してくるとかだったらすぐ言ってください殴りに行きます」
握り拳を下から突き上げる動作でそう言えば、後ろのマリンから「どうせ何倍にもなって返り討ちにされますよ~」と冷やかされる。
すぐさまばっと振り返り、「なにを~」と憤慨しながら素振りの動作でマリンに詰め寄った。
そんな僕とマリンのいつも通りのやり取りを見守るラルド様の様子はやはりどこか変に感じる。
言うならば、心ここに在らず。
だからと言ってラルド様が僕に何か相談してくれる訳でもないし、チラッと盗み見ながらわけも分からず小首を傾げるのだった。
*****
そしてこれはまた別の日の夜のこと。
「ラズ、なんか最近またフェロモン漏れてる?いい匂い」
「え~マジか…なんでだろ」
就寝時刻、広いベッドにゴソゴソ乗り上げると先に横になり本を読んでいたクオーツが布団を捲り迎え入れてくれる。
素直に隣に潜り込むと、無意識でぴとっとクオーツの懐の居心地がいいポジションに収まっていた。
「……」
「なんだよ」
「いや、珍しいなぁと思って。素直でかわいいね」
「……!?~~っ、う、うるさい!これはだな、ほら最近寒くなってきたから無意識で、温かいものに引き寄せられたというか、その、」
「そうだね、最近夜は冷えるからね。もっとくっ付いていいよ」
「うるさぁぁい!!寝るぞ!!」
「はいはい」
ふふ、と笑うクオーツに抱き込まれるのをふんっとされるがまま受け入れる。
僅かに香るクオーツのフェロモンをスンっと吸い込み、番の香りと体温になぜかいつも以上に安心しながら速効眠りに落ちていた。
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