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妊娠の予兆(3)
「ラズ様!?」
突然口を押さえ込み、ガチャンっと茶器がぶつかり合う派手な音を立てる僕の一番近くにいたラルド様が瞬時に反応を見せた。
地面に膝をつき、深く俯く僕の顔を覗き込みながら注意深く様子を伺ってくる。
その間にも騒ぎに気付いた奥様方の甲高い悲鳴が庭園に鳴り響き、更にそれを聞き付けた衛兵達が次から次へと駆けつける足音、ざわつき、全ての音が波となり気持ち悪いに拍車をかけた。
周囲は毒の疑いを持ったのか、騒ぎがどんどん大きくなっていく。そうではない、と騒ぎを止めたいのに、声を出す余裕が全く無かった。
「みな落ち着け!騒ぐな!衛兵すぐに全ての飲み物の確認を」
「は!」
「他に異常を感じた方はいらっしゃいませんか」
「私達はなんとも…」
「普通の紅茶でした」
的確な指示で騒ぎをおさめ状況を確認しつつ、同時進行でしきりに何か言葉をかけてくださるラルド様。その肩によろよろと手を置き、ギュッと握りしめる。
もしかしたら服の上から爪を立ててしまっているかもしれない。それくらい強い力を出さないと吐き気に耐えられなかった。
「ラズ様!苦しいのですか!?」
苦しいかと問われる声に首を振る。
「き、気持ち…悪……」
「気持ち悪いのですね!?」
小さく絞り出した僕の声に耳をすませ、懸命に聞き取ってくれるラルド様にこくこくと頷くも目に涙が浮かび顔をあげられない。
とにかく、伝えることは出来たと肩の力を抜く。
一通り僕の様子を確認したラルド様はその僅かなやり取りだけで正確に状況を把握するとマリンを呼び寄せる。
「見たところ毒の可能性は低い。マリン、主治医の手配は」
「トールに伝えこちらに向かわせてます。併せてクオーツ様にも第一報は届いてます」
「……本当に便利だなお前たち双子の力は」
二人の会話が頭上で聞こえる。
普段のマリンであれば、えっへんと胸を張っていただろう場面が、そんな隙もないくらい心配そうに僕に寄り添ってくれているのが申し訳ない。
じっとしている内に一番初めの強い吐き気は治まってはいたが、じわじわ続く不快感にイヤな脂汗が額に滲む。
浅い呼吸をふぅ、ふぅ繰り返し椅子に座ったまま背中を丸め丸まっているとマリンまでも正面に座り込み様子を伺ってくる。その長年共に過ごした慣れた存在によろよろと手を伸ばせば、無言の要求を正しく汲み取ってくれたマリンにそっと正面から抱きしめられた。
肩口に額を擦り付けシャツをギュッと握りしめ縋り付けば、すかさずぽんぽん頭を撫でてくれる。
なんだかんだ、僕にとってマリンは、番であるクオーツと産み育ててくれた両親の次に安心出来る存在だった。
「ラズ様、大丈夫、大丈夫ですよ~クオーツ様もこちらに向かっているそうです、もう少しの辛抱ですよ」
マリン特有のゆったりした喋り方に安心する。
こくこく頷きながら、ゆっくり呼吸を繰り返しているうちに浅かった呼吸はいつの間にか正常に戻りつつあり、気持ち悪さも今ではだいぶ引いていた。
「……マリンありがと…落ち着いた、かも」
「よかったぁ…でも、クオーツ様が来るまでこうしてましょうね、もし怒られる時はラズ様が庇ってくださいよ?」
「ん」
謎の吐き気は何だったんだろ、とぼんやり思いながら吐き気で疲れた脱力する体をマリンに預けているうちに、気付けばそのまま意識を失っていた。
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