【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
79 / 141

最優先事項(1)sideクオーツ


 
 
「クオーツ様、ラズ様が───」
 
 
 王城の広間で玉座の上から臣下の報告を順に聞いている最中のこと。
 珍しく焦った表情のトールが話を遮り報告しに来た緊急事態に、瞬時に嫌な予感がよぎった。
 
 
 
 ◆◇◆◇◆
 
 
 
 ラズに関することであればどんな些細なことでも最優先事項、その事をよく理解している側近トールはいままでも重鎮が集う会議中や遠征中、如何なる状況でも割って入ってきては直接報告をしにやって来た。
 重鎮からの苦言以上に報告をしなかった時の方が幾分も恐ろしいという事を身をもって知っているからだ。

 しかし今回の様子はいままでの比では無い。
 一言の断りもなしに本題を告げてくるのはよっぽどの事。
 

 この嫌な胸騒ぎが杞憂であって欲しい、そう願いながらトールに話の続きを促した。
 
 
「ラズ様が、お茶会の最中、突如口を押え吐き気をもよおされました。毒の可能性は…まだ否定できません…」
「!?」
 
 
 考え得る予想の遥か上を行く事態に目を見開き、脳が完全に理解するより先に口と体が動き出していた。
 
 
「早急に主治医を向かわせろ、私は先に行く」
「クオーツ様!」
 
 
 簡単に指示を出すだけだすと、臣下たちのざわめきを背にお茶会が開かれる庭園へ足早に向かった。
 
 
 
 
 普通に行けば十分近くかかる庭園への道のりも、ものの数分で辿り着くと、ある場所を囲うようにして、わっと人垣ができているのを発見した。
 衛兵は何をしている、と出かけた舌打ちを噛み殺し、構わずその中へ突き進めば、一人がこちらに気が付くと途端自然と道が開けていく。
 
 
 やがて見えてきた騒ぎの中心。
 
 
 初めは地面に座り込むマリンの後ろ姿と、傍らに立つラルドの姿しか確認できなかった。しかし、少し角度を変えればすぐにマリンの腕の中で気を失うラズが目に入った。
 
 
「ラズ!」
「クオーツ様───」
 
「まぁっクオーツ様よ!」
「なんてこと、お召し物が!」
 
 
 マリンの声をかき消すくらいの周りの声。それらは今この瞬間心底どうでもいい、私の服に地面の砂が付く事を気にする無数の野次馬たち。
 
 
「静まれ」
 
 
 呆れてため息も出ない雑音を一声で黙らせると、片膝をついてラズに手を伸ばす。
 
 
「……状況は」
「ラズ様のご様子と一通りの飲食物を調べたところ、毒の可能性は極めて低いと思われます。原因は不明ですが突如気持ち悪いと仰り、ほんの数分前に気を失われました」

 
 マリンの腕の中からラズを引き受け、ラルドの報告を聞く。
 簡単に腕の中に収まってしまうほど小柄なラズを用心深くじっと見つめ観察すると、確かに顔色はどこか青ざめているように見えた。
 
 
「……毒では無いんだな」
「はい、毒ではありません」
 
 
 それを聞き一旦のところホッと胸を撫で下ろす。
 
 詳しい原因が分からない今、依然として油断ならない状況には変わらないが、トールから一報を受けたあの瞬間、脳裏に過ぎり今も尚思考をちらつく忌々しい幻覚───血を流し倒れるラズの姿を頭の中からかき消した。


「ラズ…」

 
 固く瞳を閉じ、か細い呼吸を繰り返すラズを胸に抱き、主治医の到着を待った───
 
 
 
感想 43

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」