【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
80 / 141

最優先事項(2)sideクオーツ

 
 
 
 その後間もなく、数人の助手を引き連れ駆けつけたラズの主治医である老先生は、さっとラズの様子を確認すると「ここは人の目が多いのぅ」と呟くと場所を寝室へ移すよう指示を出し、それにすぐさま頷くと揺らさないよう慎重に抱き上げた。
 
 
 
 今朝方、久々の開催となるお茶会ゆえ憂鬱な表情を浮かべるラズと別れた寝室にこのような形で再び戻ってくると、さっと先回りしてベッドを整えに行くマリンの後ろ姿を見送った。
 寝室手前の待合ホールでラズを抱えたままソファに腰掛け待機していると、背後ではカチャカチャと忙しなく助手達が走り回る。
 
 
「クオーツ様、お待たせしました」
 
 
 程なくして完了の合図を受けるとすぐさま立ち上がりそちらへ向かい、綺麗に整えられたベッドの中心へそっとラズを横たえた。
 苦しくないよう衣服を緩めると、離れ難い気持ちの表れか、いまだ閉じられた目元から頬にかけ何往復も撫で続けていると「クオーツ様」という控えめな呼びかけに視線だけを寄越す。
 白眉に覆われほぼ見えない目で私を見つめる老先生がどこか困った雰囲気で背後に立っていた。
 
 
「クオーツ様、ラズ様が心配なお気持ちもわかりますが、原因を探るため少しの間我々にお任せ下さいな」
「……お願い」
 
 
 何倍もの人生経験を積んでいる老先生の穏やかな貫禄に今は全てを委ねるしかない。
 一歩下がった途端、老先生率いる医療チームに場所を奪われるようにしてあっという間にベッド周りを固められると、すぐそこの壁際に身を置いた。
 その間、共に庭園から移動してきたラルド、マリン、トールは老先生に指示をもらい各自必要なものを求め足早に寝室から出ていくのを見送った。
 
 
 ラズの周りを様々な道具が取り囲んでいく。
 
 その過程をじっと見守った。
 
 
 ここにいて何か出来る事があるわけではない私に老先生からは「若い助手が緊張するから」と一時的な退室を乞い願われたが、そこは頑として譲らなかった。
 
 どちらかというとラズは、病弱な傾向にあるオメガ性には珍しく身体がすこぶる強い子で、王城で暮らし始めてからいままでの間あまり病気をすることの無い健康体であった。
 だから今こうして、青ざめた顔色で目を閉じるラズの状況を嗅ぎつけた天からの使者がそのままラズを連れて行ってしまうのでは無いか──そう本気で思ってしまうほど、表に出さない不安から片時も傍を離れたくなかった。
 
 
 そんな私の固い意思に折れた老先生は肩をぽんとひとつ叩き、「お好きになされ」と戻っていく。
 無意識のうちに張っていた緊張を見透かされたようでバツが悪い。
 これだからラズの主治医は老先生に任せられる。
 昔から私に物怖じしない、数少ない内の一人だった。
 
 
 
 一通りの検査が終わったのか、ひとつ頷いた老先生は聴診器を外すとこちらへやってくる。
 
 
「クオーツ様、お待たせいたしました」
「……何かわかった?」
「えぇ。説明致しますので、どうぞこちらへ」
 
 
 老先生に連れられ再びラズの枕元へ立つと、入れ替わるようにして助手達が全員退出していく。
 
 気付けば室内には老先生と私、そして意識のないラズの3人だけ。
 シン…と静まり返る空間でその時を待った。
 
 
 そして───
 
 
 
「陛下、おめでとうございます、ご懐妊です」
 
「……あ」
 
 
 ふわりと微笑む老先生の笑みを見て初めて、言われた言葉の意味を理解すると、途端、肩の憑き物がどっと落ちたような、そんな急激に襲いくる脱力感で足元から崩れ落ちそうになるのを堪えるので精一杯。

 
 こんな情けない姿は後にも先にもこれきりだった。
 

感想 43

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」