92 / 141
動き出す刻(1)sideラルド
私が作った物を完食していただけた。
その後の夕食時も顔色良さそうに食事をされるラズ様を見届け、良かった、と胸をなでおろしながら本日の業務を終え自室へ戻ろうとしていたそんな時───
「ラルド様、クオーツ様がお呼びです」
「……承知した」
不意に、クオーツ様の従者トール殿に呼び止められた。それは間もなく日付が変わろうとする深夜の事だった。
◆◇◆◇◆
指定されたのは、主寝室の隣に位置する書斎。
深夜ということもあり誰ともすれ違わず辿り着いた目的地の扉をノックする。
程なくして中から聞こえた返事を確認し、重厚感のある扉をゆっくりと押し開いた。
「───失礼いたします」
「いらっしゃい。遅くに呼び出して悪いね」
「いえ、ご用件とは……」
「うん、まぁ座って」
促されるままクオーツ様が座る正面のソファへ歩み寄り腰を下ろす。
就寝間際なのか、普段のきっちりとした服装とは違いシルク製の上質な寝間着にナイトガウンを羽織られたラフな格好。それもそのはず、先程入ってきた扉とは別の、奥にある扉がすぐ隣の主寝室と繋がっており、おそらくそこで今もラズ様は眠られている。
「なにか飲む?ワインでも開けようか」
「いえ、私は」
「そ」
次の日も早いからと断ると、肩をすくめ食い下がるクオーツ様は早速本題に入るのか足を組みじっと私を眺めてくる。
すっと細まるその眼差しは、全てを見透かし一切誤魔化しは通用しない、そんな鋭さを有していた。
「……ラズから聞いた。とうとう打ち明けたんだってね、前世の記憶のこと」
「えぇ」
出された話題は予想していた通り、昼間ラズ様に明かした前世の記憶について。
ラズ様から聞いたと前置きしておきながら、実はあの時クオーツ様も壁の向こうにいらっしゃった事は初めから気付いていた。
とっくに全て把握しているにも関わらず、しれっと聞いてくるこの喰えない人物の視線を正面から受け止め、じっと見据え返す。
クオーツ様が聞きたいのはその先の事だろう───
「まぁ、あの時その場に私もいた事はお前にはバレバレだと思っていたけどね。案の定ラズは気付いてなかった。鈍感だねぇあの子は。そこが可愛い」
ラズ様を想い、ふふ、と笑うクオーツ様。かと思えば、再びこちらを見据えるその表情の切り替えは恐ろしく温度差が激しい。
「……で?このタイミングで打ち明けようと思ったのは何故?ラズが記憶を持っていると気付いた?」
「……それもあります。ですが、日に日に弱っていくラズ様をこれ以上見ていられず、前世で体調を崩された時決まってコレなら口にしてくれるという食べ物があったので、今回も、といちかばちか望みをかけました。事前にクオーツ様に相談をせず、勝手をして申し訳ありません」
「───お前は、どこまでもラズの為だな」
「はい?」
勝手をした事への謝罪で頭を下げていると、不意に降ってきた言葉は独り言なのか、どこか遠い目をしてぼそりと呟かれたクオーツ様の言葉。それはまさにその通りだった。自分の言動は全てラズ様の為。
今更、私利私欲は二の次だった。
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました
こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」