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催促
日に日に大きくなるお腹。
前まで履いていたズボンはとっくの昔にサイズが合わなくなり、気付けばワンピースタイプの服ばかり。
寝起きも一人でままならず移動も一苦労。
これも全てお腹の中の子が元気に育っているという証拠。
そう老先生に言われ、日々増していく重みの喜びを噛み締める。
「元気に生まれておいで~」
「早く会いたいよ~」
そんな周りの声掛けに応えるように、ポコポコお腹を蹴る我が子は相当元気な子なのかもしれない。
安定した月日は流れ、あっという間に臨月に突入しようとしていた。
◆◇◆◇◆
「よっこらせ……ふぅ……常に米俵担いでる気分」
転倒防止のため、両脇をマリンとラルドに支えられながらの移動。その間わずか十歩足らず。それだけで貧弱度が更に加速した僕の体力はひぃひぃと悲鳴を上げていた。
「米俵て……そこまでは重くないでしょぉ~ラズ様ホント貧弱なんだから。もうちょっとラルド様に鍛えてもらうべきでしたね~」
「くうぅ…悔しきかななんも言い返せん……ラルド、出産落ち着いたらまた筋トレ見て……」
「承知致しました。ご無理はなさらず少しずつ再開しましょう」
「師匠、お願いいたします!」
騎士団の敬礼を真似、ビシッとポーズを取れば、くすっと笑ってくれるラルドの笑顔に嬉しくなる。
「でたでた、ラルド様もクオーツ様も、みんなラズ様に甘すぎ~」
「まぁ、過保護の自覚は大いにある。ラズ様から目が離せませんね」
「頼もしい護衛騎士さんですこと~くれぐれも俺の仕事まで奪わないでくださいね!ラズ様の世話係は俺なので!」
「奪われないよう気をつけろ」
「二人とも、僕のために争わないデェ~」
「「……」」
わざとらしいセリフ口調とうるうるおめめの大根演技で辺りは水を打ったかのようにシーンと静まり返る。
そして、一瞬の間を置いて、誰からともなくあはははっと笑いが巻き起こった。
今日も僕の周りはとても平和だ。
「楽しそうだね」
「クオーツ!お疲れ~」
そこに一日の公務を終えたクオーツが戻ってくるなり、サッと一歩下がる従者たちと場所を入れ替わるように僕の隣に腰を下ろすと、自然な流れで引き寄せられ腰を抱かれる。いちいち顔のどこかへ落ちてくるキスをぬーん、と受け止め、その表情に笑われるまでが一連の流れだった。
「今日も変わりなく過ごしてた?」
「元気元気、この子もポコポコ暴れまくってる!」
「ラズに似てお転婆な子だね」
「僕なんかい!」
マリンが淹れてくれたお茶を受け取りながらなんともない会話を交わしていると、不意に見逃してしまいそうなほど一瞬見せたクオーツの曇った表情に、何かあるな、と感じ取る。
「ねぇ、なんかあった?」
「───ホントこういう時、ラズって目ざといよね」
「こういう時以外はなんじゃい!で?話でもある?」
「……はぁ、前言ってた国民の前に姿を見てろってやつ、そろそろいいかって声がうるさい」
「あー…あれからだいぶ経っちゃったもんな~」
安定期に入ってから、と言ったものの、つわりが落ち着いてからも度々起こる貧血や体力の無さでなかなか老先生やクオーツの良しが出ず、とうとう臨月間近まで来てしまっていた。
「今度はいつお産が~ってなるかもわかんないし、今のうちにやっといた方がいいよね、いいよ、ちょっとくらい大丈夫頑張れる」
「……無理だけはしないで」
「だいじょーぶだって!準備は任せてい?」
「もちろん。衣装の採寸とかだけ少しの間協力してあげて」
「りょーかい」
申し訳なさそうに見つめてくるクオーツに「そんな顔すんな」と笑いながら、内心久しぶりの公務に少し緊張する。
体調もそうだが、どうか何事も起きず無事にその日を終えれますように───
そんな僕のささやかな願いは、どうやら神様には届かなかったらしい。
どうして、こんな事に───……
久々の公務。
熱狂的な民衆の力強い歓声を浴びたわずか数刻後、冷たい床に横たわり、じわじわ広がっていく赤い鮮血を遠のく意識の中見つめていた。
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