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不明確な不安(2)
しおりを挟むコンコン───
「ラズ、準備は順調──……おや、浮気現場?」
「なっ!?違います!違いますからね!?クオーツ様マジの目やめてください!!ちょっとラズ様からも何か言って~!?」
頭のてっぺんからつま先まで完璧に準備を終えたクオーツがラルドを引き連れこちらの控え室へ顔を出す。……が、マリンと抱き合ったままの光景にスっと目が細まりその場には一瞬冷たい空気が流れた──かのように思われた。
焦るマリンには悪いが、あのクオーツの目はただ面白がってからかっているだけ。マジのやつではない。
ホント、人が悪い。
一人慌てるマリンが段々可哀想になってくる。
はぁと小さくため息をこぼすと、マリンから体を離しそのままクオーツの方へ手を伸ばして見せた。
「クオーツ、クオーツクオーツ。ねぇ、ぎゅ」
「……どうしたの、すごく可愛いね?」
僕の方からハグを求めると、ぽかん、と驚いた様子を見せるもすぐに大股で距離を詰め、目の前までやってくる。
真正面から見つめ合い、もう一度、ぎゅ、と求めればクスッと笑ったクオーツにふわりと抱きしめられる。その拍子にクオーツの肩に付けられた飾りのマントがバサッと靡き中に囲まれると視界はほんのり暗くなり、遅れてやってきたクオーツのフェロモンにも体全体を覆うように包まれる。
心も体もすっぽり包み込まれる感覚にほっと息をついた。
「ラズ?緊張してるの?それとも体調良くない?今からでも遅くない、無理はしないで」
「……んーん、大丈夫。ちょっとだけこうしてて」
「いくらでも」
クオーツの腰を抱き返す腕にぎゅっと力を込め、大丈夫、大丈夫……と心の中で何度も唱える。
ちょっとの時間、人前に出て笑顔で手を振るだけ、何も心配は無い。
よし、と気合いを入れ顔を上げれば、見下ろしてくるクオーツの心配そうな表情とバチッと視線が重なる。
途端、にっと笑顔を返し、「もう大丈夫」と笑うとぱっと腰を抱く手を離した。
「ありがとありがと、エネルギー充電できた!」
「……本当に、無理してない?」
「してない大丈夫!」
キッパリ答えあはは~と笑うが、納得していなさそうなクオーツの表情にあえて見て見ぬふりをする。
自分から心配かけるような真似をしておいてずるいよなぁ…なんて思うが、そこは許して欲しい。
自分でもこの胸のモヤモヤがよくわからないんだ。
なんともなしに視線をさ迷わせていると、不意にマリンと並んでこちらを見守っていたラルドと目が合う。それはもう、バチッと合ってしまった。
「……ねぇねぇ、ラルドもぎゅして」
「え……いえ、私は───」
「ラルド様!なんかラズ様、らしくもなく緊張してるらしいですよだからラルド様も抱き締めてあげてください~……ていうか、俺だけ浮気相手にされるのは癪なんで、ほらほら」
「ですが……」
「いいよ、抱き締めてあげて」
クオーツが横に立っている隣で堂々とハグを要求する。当然のように断られるがマリンのゴリ押しとすんなり下りたクオーツの許可に困ったような表情を浮かべるラルド。
もう一度、ん、と両手を広げアピールすると、確認するかのように一瞬クオーツに目配せをし、すぅ、と一拍置いた後ゆっくり歩み寄ってくる。
「───失礼します」
「ん……」
そっと遠慮気味に、触れるか触れないかのギリギリラインをゆくラルド。困らせてしまっているのは重々承知。だから、腰に回す腕にほんの一瞬力を込め、すぐに解放した。
「うん、ありがと、パワー貰った」
「……ラズ様?」
怪訝な顔をするラルドに無理やり笑みを送り、よいしょっと立ち上がる。
すぐ隣にいるクオーツに手を伸ばしエスコートを求めようとする前にさっと支えられた。
「おぉ、素早い…」
「無理だと思ったらすぐに言うんだよ」
「はいはいわかったって。頼りにしてます」
「はぁ……それじゃあ行くよ」
「ん」
丁度時間を告げに来る臣下に目配せで応えるクオーツにエスコートされながらいざ、広場を見下ろすテラスに続く部屋へと向かう。
ここまでは何事も無い。
ここからも、きっと大丈夫───
クオーツの腕を握る手に力を込めながら真っ直ぐ前を見据え一歩また一歩歩みを進めた。
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