【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

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何よりも大切な存在(1)sideクオーツ


 
 目の前の人影がスローモーションのようにゆっくりと崩れ落ちていく。
 
 
「ラ……ズ…?」
 
「っ!?ラズ様!!」
「ひっ───」
 
 
 足を止めかけた私を叱咤するように、背後から遅れてやってきたラルドのラズを呼ぶ鋭い声とマリンの声にならない悲鳴、それらにハッと我に返り、再び走り出した自分の体は完全に崩れ落ちる寸前のラズを抱きとめる事に成功すると、硬い地面に膝をつき強く腕に抱きしめた。
 
 
「ラ、ラズ…ラズ……?」
「は……は…っ」
 
 
 全身水に濡れ、青ざめる顔色と相反するように脇腹から流れる真っ赤な鮮血が元々白かったはずのワンピースを染めていく。
 
 
「駄目、駄目だ、いかないで、目を覚まして…ラズ、私をひとりにしないで───」
 
 
 ラズの感触、体温、息遣い諸々が今にも消えてしまいそうな程頼りないそれら全てを手繰り寄せるかのように、必死だった。
 必死に呼び続けた。
 
 
「ラズ……ラズ…っ!」
「クオー…ツ」
「ラズ!遅くなってごめんもう大丈夫、大丈夫だよ」
「僕…は、後でい、から……この子、助け……」
「っ……二人とも助ける、必ず───」
「ん……」
 
 
 最後の力を振り絞るかのように、ふへ、と笑おうとして失敗したラズはそのまま意識を手放してしまった。
 ガクッと落ちる首を肩で抱きとめ、強く抱きしめるその後ろを騎士団員達が通り過ぎ、奥で倒れるローズを取り囲んでいく。
 
 
 一瞬見えたローズの最後。
 鬼の形相でラズに切りかかろうとしたその切っ先が無我夢中で抵抗するラズの足蹴に当たり自分の腹へつき刺さる光景。
 実に呆気ない最後。
 
 元騎士団長としてこの場を取仕切るラルドがローズの様子を確認し報告に来るのを背中で聞く。
 
 
「クオーツ様、辛うじて息はあります。如何致しま」
「お前が消せラルド。確実に」
「……は」
 
 
 考える余地もなかった。
 二度見逃した結果がこれだ。三度目は無い。
 
 
 ラルドもまた、過去数々のローズによるラズへの仕打ちを目撃しては立場上何も出来なかったしこりがあったのだろう。私の即答に対して何も言わず一礼すると腰に提げた剣をスラリと抜き、取り囲む騎士団員の元へ戻っていく。その後ろ姿を尻目に再びラズへ視線を戻すと、不意に私を呼ぶ虫の息を耳が拾った。
 
 
「ク…オーツ……様……」
「……」
「わたく…しが……悪魔から救ってさしあげ…ます…」
 
 
 馬鹿な妄想に取り憑かれた哀れなローズ。
 
 ローズの父に強く出れなかった今は亡き前王──無能な私の父が勝手に交した婚姻関係。
 しかしそれも幼い頃の一時的なもの。
 
 そんなまやかしに踊らされたお前もまた可哀想な被害者だったのかもしれない。
 だが、それとこれとは話は別。
 私の大切な存在に危害を加えたらそれまで。
 
 
「ローズ」
「クオー…ツ、さま…」
 
 
 名を呼べば、瞬時に空間を空ける騎士団員達の隙間から血を流すローズに視線を向ける。
 
 その姿を哀れに思っても、微塵も情は生まれない。
 
 
「お前が悪魔だよ、ローズ。さよならだ」
「───っ」
 
 
 そう最後に言い捨て視線を逸らすのが合図となり、剣を振りかざすラルドの姿はザッと隙間を埋める騎士団員達の壁で消えていった。
 
 
 
 大切な私のラズに害なす者は何びとたりとも容赦しない。
 慈悲もない。
 こんな姿をラズに知られたら嫌われてしまうかもしれない──それでも、君を守るためなら私は進んで鬼となる。腕の中で青ざめ気を失うラズを抱き締めながらいま一度そう誓うのだった。
 
 
 
 
「陛下!ラズ様!───っ、なんて事…っ今すぐ暖と輸血の準備!急ぐのだ!」
「はい!」
 
 
 ほどなくして、狭い地下の備蓄庫へ老先生をはじめ、その助手や増員の騎士団員達が怒涛の勢いで駆け込んでくる。
 
 
「陛下、一旦この場で応急処置を施してから清潔な場所へ運びますのでそこをお代わりください」
「……頼む、必ず、ラズを助けて」
「必ず、ラズ様もお腹のお子様も助けます」
 

 医療のすべがない無力な私は、ただ老先生に全てを委ねるしかできなかった。
 
 
 
 
 
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