【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
108 / 141

何よりも大切な存在(2)sideクオーツ


 
 意識を失う直前、自分よりも先にお腹の子を助けて、と訴えたラズの言葉。
 
 
 それはまるで、最悪の場合、お腹の子を優先しろ、と言われているかのようでそんなラズの願いを私は叶えることはできそうになかった。
 
 
 なぜなら、ラズのいない世界に生きる意味を私は見いだせないのだから───
 
 
 
 
 
 ◆◇◆◇◆
 
 
 
 事切れたローズを確かにこの目で確認だけすると後の処理は現騎士団長はじめ騎士団へと任せ、トールとマリン、そしてラルドを引き連れラズを医療室へと運び出す老先生率いる医療チームに付き添った。
 
 
 
 現在、この扉の向こうではラズの手当が行われている。
 
 無事終わるのを隣接した控え室で待つことしか出来ないもどかしさにやり場のない気持ちが燻っていく。
 
 
「クオーツ様、一旦お召し物をお着替えください」
「……」
 
 
 トールに言われて初めて自分のいまの格好を見下ろせば、ラズを抱きしめた際付着したのだろう、元々は白かったはずの式典服は広範囲にわたってラズの血で赤く染まっていた。
 
 
「っ、こんなにも血を流してあの子は───」
「……失礼します」
 
 
 呆然と動かない私を見兼ねたトールは、マリンと二人がかりで容赦なくジャケットを剥いでいく。そういうところは肝が据わった双子だと、されるがままシルクのシャツ姿になるが代わりに手渡された新たなジャケットを羽織る気力もわかない。
 手に持ったまま再び項垂れていると、そんなやり取りを黙って眺めていたラルドが目の前までやって来る。突如視界が影で暗くなり視線を上げれば、感情の読み取れない表情で私を見下ろし、ジャケットを取り上げていくラルドの動きをじっと眺めた。
 
 バッとジャケットを広げ、私の肩へ羽織らせてきたかと思えば次にとったラルドの行動に全員が目を見張った。
 「失礼します」の一言と共に、突如頬に走る衝撃。
 ひぇっと聞こえてくるマリンの声と息を呑むトールの反応。それらを他人事のように眺め、再び目の前のラルドに視線を戻した数秒後、やっとそこでラルドに頬をはたかれたのだと気付いた。
 
 
「しっかりなさってくださいクオーツ様。そんなお姿、ラズ様が見たら幻滅されますよ。現に私は本当にあなたにラズ様を任せていいのか甚だ疑問です。私に付け入る隙を与えないでください」
「ラルド……」
「叩いたことに関しましては後ほどいくらでも罰を」
「っ、……すまない、ありがとうラルド。相変わらずお前のビンタは効くね。目が覚めたよ」
「それは良かったです。今は信じて待ちましょう」
「───あぁ」
 
 
 ラルドの言葉で落ちていた気持ちを持ち直すと、下げていた視線を上げ、固く閉まる扉を強く見つめる。
 
 
 そんな時、長い事ビクともしなかったその扉が突如として開き、老先生が飛び出してきた。
 そのあまりに尋常ではない様子にガタッと立ち上がり待ち構える。
 
 
「陛下──ご報告、致します」
「っ……頼む」
「現在、我々医療班総動員で処置に当たっていますが通常でも貧血になりやすい妊婦の体で多くの血を流した事と、浴びせられた水で体温が下がり……母子ともに大変危険な状態です」
「「!!」」
「ひっ───」
「マリン、堪えろ」
 
 
 聞かされたラズの状態に目を見開く私とラルド。
 悲鳴をあげかけるマリンをトールが抑える。
 
 
「予定日よりだいぶ早いですが、このまま緊急帝王切開になります。……もちろん母子ともに助ける事に全力を注ぎますが、最悪の場合が、ゼロとは言い切れません」
 

 ご覚悟を、と言う老先生の声がどこか遠くに聞こえる。
 
 
『僕…は、後でい、から……この子、助け……』
『っ……二人とも助ける、必ず───』
『ん……』
 
 
 最後に交したラズとの会話。
 
 これが最後になるなんて、到底受け入れられない。
 
 
 
「……先生、もしもの時は、ラズを───」
 
 
 
 今度こそ私は自分の判断を後悔したくない。
 
 自分の事など常に二の次で、他人想いの優しいラズ。そんなラズがそばにいたから私も少しは人に優しくできてきてきたのかもしれない。
 
 けれど、ラズがいないとそんな事は無意味だ。

 誰になんと言われようと、私はラズを失いたくないというこの気持ちを突き通す。
 
 
 
 
 
感想 43

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」