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何よりも大切な存在(2)sideクオーツ
意識を失う直前、自分よりも先にお腹の子を助けて、と訴えたラズの言葉。
それはまるで、最悪の場合、お腹の子を優先しろ、と言われているかのようでそんなラズの願いを私は叶えることはできそうになかった。
なぜなら、ラズのいない世界に生きる意味を私は見いだせないのだから───
◆◇◆◇◆
事切れたローズを確かにこの目で確認だけすると後の処理は現騎士団長はじめ騎士団へと任せ、トールとマリン、そしてラルドを引き連れラズを医療室へと運び出す老先生率いる医療チームに付き添った。
現在、この扉の向こうではラズの手当が行われている。
無事終わるのを隣接した控え室で待つことしか出来ないもどかしさにやり場のない気持ちが燻っていく。
「クオーツ様、一旦お召し物をお着替えください」
「……」
トールに言われて初めて自分のいまの格好を見下ろせば、ラズを抱きしめた際付着したのだろう、元々は白かったはずの式典服は広範囲にわたってラズの血で赤く染まっていた。
「っ、こんなにも血を流してあの子は───」
「……失礼します」
呆然と動かない私を見兼ねたトールは、マリンと二人がかりで容赦なくジャケットを剥いでいく。そういうところは肝が据わった双子だと、されるがままシルクのシャツ姿になるが代わりに手渡された新たなジャケットを羽織る気力もわかない。
手に持ったまま再び項垂れていると、そんなやり取りを黙って眺めていたラルドが目の前までやって来る。突如視界が影で暗くなり視線を上げれば、感情の読み取れない表情で私を見下ろし、ジャケットを取り上げていくラルドの動きをじっと眺めた。
バッとジャケットを広げ、私の肩へ羽織らせてきたかと思えば次にとったラルドの行動に全員が目を見張った。
「失礼します」の一言と共に、突如頬に走る衝撃。
ひぇっと聞こえてくるマリンの声と息を呑むトールの反応。それらを他人事のように眺め、再び目の前のラルドに視線を戻した数秒後、やっとそこでラルドに頬を叩かれたのだと気付いた。
「しっかりなさってくださいクオーツ様。そんなお姿、ラズ様が見たら幻滅されますよ。現に私は本当にあなたにラズ様を任せていいのか甚だ疑問です。私に付け入る隙を与えないでください」
「ラルド……」
「叩いたことに関しましては後ほどいくらでも罰を」
「っ、……すまない、ありがとうラルド。相変わらずお前のビンタは効くね。目が覚めたよ」
「それは良かったです。今は信じて待ちましょう」
「───あぁ」
ラルドの言葉で落ちていた気持ちを持ち直すと、下げていた視線を上げ、固く閉まる扉を強く見つめる。
そんな時、長い事ビクともしなかったその扉が突如として開き、老先生が飛び出してきた。
そのあまりに尋常ではない様子にガタッと立ち上がり待ち構える。
「陛下──ご報告、致します」
「っ……頼む」
「現在、我々医療班総動員で処置に当たっていますが通常でも貧血になりやすい妊婦の体で多くの血を流した事と、浴びせられた水で体温が下がり……母子ともに大変危険な状態です」
「「!!」」
「ひっ───」
「マリン、堪えろ」
聞かされたラズの状態に目を見開く私とラルド。
悲鳴をあげかけるマリンをトールが抑える。
「予定日よりだいぶ早いですが、このまま緊急帝王切開になります。……もちろん母子ともに助ける事に全力を注ぎますが、最悪の場合が、ゼロとは言い切れません」
ご覚悟を、と言う老先生の声がどこか遠くに聞こえる。
『僕…は、後でい、から……この子、助け……』
『っ……二人とも助ける、必ず───』
『ん……』
最後に交したラズとの会話。
これが最後になるなんて、到底受け入れられない。
「……先生、もしもの時は、ラズを───」
今度こそ私は自分の判断を後悔したくない。
自分の事など常に二の次で、他人想いの優しいラズ。そんなラズがそばにいたから私も少しは人に優しくできてきてきたのかもしれない。
けれど、ラズがいないとそんな事は無意味だ。
誰になんと言われようと、私はラズを失いたくないというこの気持ちを突き通す。
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