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SS・IF・パロディー
【SS】前世の記憶side婚約者(2)
*****
「あらお兄様、どなたかへの贈り物?」
そう声をかけてきたのは妹の野薔薇だった。
「あぁ、翡翠殿への点数稼ぎ」
「……ふーん、お兄様にしては珍しくご熱心だこと」
「まぁね」
相手は中々に手強かった。
初めて顔合わせをしてからも何度か会う回数を重ねてきたが、いまだどこか緊張した様子は解けず、常に後ろに付き従うお付の男に度々助けの視線を送っている翡翠殿。
その翡翠殿の視線の先にいる男の名は蒼唯。二度目に会った時から付いてくるようになったこの男の値踏みするように俺を見る目はただの付き人とは到底思えなかった。
長年翡翠殿と共に過ごしてきた彼の翡翠殿を見つめる目と翡翠殿が彼を見つめる目は……一目瞭然だった。
二人がどのような関係かはあえて聞きはしないが、家の繋がりという拒めないこの状況をとことん利用する気でいる。
囲いこんでさえしまえば気持ちは後からどうとでもなる。今までだってそうだった。ゆっくりゆっくり俺色に染めていけばいい。
「でもお兄様のことですもの、すぐに飽きてしまうんでしょ?いつもそうだもの」
「それは……どうかな」
「え……」
「ふふ、じゃ、この後翡翠殿と約束があるから行くね。野薔薇もいつまでも兄の後ろを付いてないで、さっさといい男を捕まえなさい」
「お兄様!」
強く俺を呼ぶ声を無視し、選んだ贈り物片手に部屋を後にする。
この時、妹の秘めた気持ちにもっと真剣に向き合っておくべきだったと後悔することになるとは、露ほども思わなかった───。
*****
全てを知った頃にはとっくに火葬も終わり、最期に顔を拝むことすら叶わなかった。
心から打ち解けてくれるとまではいかずとも、粘り強くアタックし続けたおかげか、少しずつ距離が縮んできていると思えていた頃だった。
不意に視界に入った包み紙。長期不在にした旅先で見つけ購入した翡翠殿へのお土産はデスクの上に置いたきり贈り主の元へは一生届かない物となってしまった。
『───水晶様』
慎ましやかに俺の名を呼ぶ声を表情を、もう見聞きすることは、一生出来ない。
「……翡翠…殿」
せめて、記憶の中の婚約者の姿が消えてしまわないよう、レコードを再生するように何度も何度も繰り返し思い出していた。
襲撃事件の生き残った実行犯は素人集団だったらしく我が家が介入した途端、そう時間が経つことなく捕まった。
その口から誰に支持を受けたのかも、すぐに明るみに出た。
「お兄様っ、お許しくださいごめんなさい……っ、少し痛い目にあえばいいくらいの気持ちだったんですっですがっ、このような事になるなんてわたくし…っ」
両脇を固められ地面にひれ伏すボロボロの妹の泣き顔を冷めた目で見下す。
犯人が捕まったらどうしてやろうか、どうすればこのマグマのように煮え滾った自分の怒りは沈まるのかずっと考えていた。
考えても考えても、結局答えは出なかったが。
しかし、それがまさかこんな身近な人物が出てくるとは予想外だったが───
「……お前を殺しても、翡翠殿は戻ってこない」
「おにい…さま……?」
「翡翠殿のいないこの世界に生きている意味など…」
手を伸ばしたのはデスクにあった何の変哲もないただのペーパーナイフ。
しかし、首を掻っ切るには十分だった。
「っ!?」
「水晶様!?おやめください!!」
「お兄様!?いやぁぁぁぁっ───」
一瞬で目の前は真っ暗になった。
翡翠殿もきっと怖かっただろう、痛かっただろう。
せめて最期は少しでも痛い思いをせず天へといけていたら……
そう願いながら水晶としての意識はここでプツン、と途絶えた。
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