【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
121 / 141
SS・IF・パロディー

【SS】国王陛下の溺愛(2)

 

 ───と、いうのが一時間程前の出来事。
 
 
 今はまるで、意中の相手を口説くかのように無駄に整った顔をこれでもかというほどキメ、甘々な声でジェイドに向かってアホな戯言を繰り広げている。
 「こいつは何を言っているんだ…?」と、そろそろ呆れはじめた僕は、クオーツを追いかけ共に部屋までやって来ていたトールに、何コレ、と視線を向けた。
 
 
「ねぇトール…僕の番はとうとう頭がおかしくなったのかな…?」
「……大変ストレスがお溜りのようです」
「また会議で何か言われてんの?」
「まぁ…そうですね、ですがそろそろ次の予定もございますので───」
「ひぇっ」
 
 
 すぅ…という一呼吸の後、いい加減仕事に戻れ、と無言の圧力で背中に般若を背負うトールの凄まじい迫力に共に様子を眺めていたマリンと、ひえぇぇ…と身を寄せあい怯えた。
 
 
「ク、クオーツさんやぁい……そろそろ仕事戻った方が良さそうだぞー……」
「ん?なぁに、ラズ」
 
 
 静かに怒るトールの気配に全く気付いていないのか、あえて無視を決め込んでいるのか、どちらかわからないクオーツ。外野のこちらがその雰囲気に耐えかねそっと背中に声をかければ、ジェイドへ向けていた爽やか笑顔をそのまま携え振り返ってきた。
 
 
「うっ…眩しっ」
「目がぁぁっ」
「……二人とも楽しそうだね?」
 
 
 くそっ、キョトンってされた。
 何をしているんだい?とでも言いたそうな顔で見てくるクオーツにそれはこっちのセリフだと言ってやりたいのをぐっと堪え、トールの方へ意識が向くよう言葉を続ける。
 
 
「はぁ…クオーツ、何があったか知らないけどジェイドに構うのもそれくらいにして仕事戻りなよ。トールが待ちくたびれてるよ」
「トールが?」
 
 
 そう言う僕の言葉で初めてトールの方へチラッと視線をやるクオーツ。
 ふーん、といった表情が嫌な予感しかしない。
 
 
「トール」
「はい」
「午後の予定は全てキャンセルにしておいて」
 
「お前は馬鹿かーーー!」
「あなたは馬鹿ですか」
 
 
 僕の発狂とトールの冷静なツッコミがユニゾンのようにピッタリ重なる。

 トールがはっきり物言う側近でよかった。
 こんな上司に振り回されるトールマジ可哀想…と心から同情しつつ、止まぬため息を零しながらクオーツの元まで近寄ると静かに振り上げた手で問答無用で頭をベシッとはたいた。
 これまた周りからは息を呑む気配が感じ取れたが気にしない。
 
 目の前の人物が例え国王陛下だろうと誰かが注意しないとダメだろ。
 
 
「……痛いよラズ」
「痛くしたんだ馬鹿クオーツ」
 
 
 さすがに赤子の力とは別物。痛っとリアクションするクオーツをチラッと視界に入れたきりそのままジェイドを抱き上げる。
 あー…と名残惜しそうに追いかけてくる鬱陶しい視線を完全に無視すると、きゃっきゃ笑うジェイドににぃっと笑みを送りながら「そろそろお昼寝しような~」と宥めながらマリンに引渡し、すぐそこのジェイドのベッドへ連れていってもらった。
 
 
「はい、ジェイドタイム終了!ほら、トールも待ってるよ、さっさと行け。我が子を可愛がるのもいいけど色々疎かにするのはダメ親まっしぐらだぞ」
「そうだよね」
「おぉ…珍しく物分りがい──」
「ごめんね、ジェイドにばかり構ってラズを疎かにしてしまった…寂しい思いをさせてごめん」
 
 
 突然目の前にそびえ立ったクオーツの胸筋にぶつかるほっぺがむにゅっと潰れるくらい、クオーツの腕に囲い込まれる。
 
 
 シーンと落ちる沈黙。
 

 クオーツ以外のその場にいる全員が思ったことだろう。
 
 あぁこれは雷が落ちるやつだ……と。
 
 
「~~~さっさと仕事に戻れぇぇぇぇっ!!」
「わぁ」
 
 
 常にスマートかつ王としての器量の観点からもずば抜けて支持率の高い国王クオーツの、番に怒鳴られ部屋から追い出される情けない姿を国民達は想像すらしないだろう。
 そんな嵐吹き荒れる騒々しい現場で、ただひとりすやすや眠るジェイドの寝息だけが平和な日々の象徴だった。

 

 
 
【親バカ】END
 
 
感想 43

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」