【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

文字の大きさ
124 / 141
SS・IF・パロディー

【SS】慣れない王城での暮らし(3)



 *****

 
 弦楽器の優雅な演奏が僅かに聞こえてくる中、大勢の人から織り成されるザワザワとした喧騒がだだっ広いホール内に木霊していた。
 シャンデリアや装飾品だけでも煌びやかな空間に更に色とりどりのドレスやタキシードで目がチカチカする。
 そんな人々を見下ろせる一段上がった場所に用意された王族の席にいま僕は一人腰を下ろしていた。
 


 遡ること半刻程前───

 
 あぁでもないこうでもないと着せ替え人形よろしくマリンに言われるがまま何着も袖を通してやっとのこと決まった晩餐会用の衣装に着替え終わった頃、別の部屋で準備を終えやって来てきたクオーツはいつも以上にオシャレにカッコよく着飾った姿で登場すると、同じように着飾った僕に思いつく限りの賛辞を述べてきた。
 後ろに控えたクオーツの従者による「クオーツ様、そろそろお時間です…」という声かけが無い限り永遠に続くのではと思われた僕鑑賞会はようやく終わりを迎え、そのまま共に晩餐会が催される王城内の広間へと移動した。
 
 
 王太子然とした堂々たるクオーツにエスコートされ並んで入場した扉から続くのはホール全体を見下ろせる王族専用の大階段。そこから下る一歩一歩をジッと下から見つめてくる無数の視線視線視線。
 覚悟はしていたが、その何十倍も押し寄せてくる重圧に脚は竦み少しでも気を抜けば階段を踏み外してしまいそうだった。
 
 隣にクオーツが居て、腰を抱いてくれていなければ今にもその場に崩れ落ちてしまいそうなほどの緊張感。社交界デビューも日が浅い公爵家三男坊にはこのプレッシャーはそう長くは耐えられなかった。
 
 
「ラズ?」
「……」
「あまり顔色が良くないね……こうして姿は見せたことだし、しばらく座って休憩していて」
「ごめん…ありがと。大人しく座ってるから、クオーツは行ってきて」
「……そばに居てあげられなくてごめんね、マリンを付けるから何かあったらすぐ言うんだよ」
「ん」
 
 
 すぐに僕の様子に気付いてくれたクオーツの計らいにより注目を浴びた入場後、そのままホールに降り立つのではなく、一段上の王族席へ直で向かいよろよろと腰掛ける。最後まで気遣う視線を寄越すクオーツを無理やり送り出し、一人になった空間でふぅ…と息を吐き出した。
 
 
「息苦しい…」
 
 
 マリンが選んだ衣装の袖をフリっと揺らし数秒見つめた後、視界から追い出すとソファへ深く沈み込む。形的には晩餐会に出席しているとはいえ、これで意味があるのだろうか───。
 
 僕のために作られた煌びやかな衣装。
 シャツの襟にも袖にも繊細なレースのフリルがあしらわれた華やかな白を基調とした淡いローズクォーツ色のタキシード。ネクタイの代わりに巻く大きなリボンや、ハーフパンツのズボンが中性的なデザインで、マリンからは「とてもよく似合っていますラズ様かわいぃ~っ」と絶賛されながら袖を通した。
 それに合うように施されたふわふわのヘアスタイルで完成した姿を鏡の前で確認した時、わかってはいたが、想像以上の自分の幼さにこれで大勢の前でクオーツの隣に立ち並ぶ事を想像すると、げんなりしてしまったのは誰にも言えない。
 
 出会った頃は幼さの残った美少年だったクオーツも今ではすっかり大人の男性に成長しつつある一方でいまだ第二の性すら発現しないやや発達遅れの僕。
 12歳と19歳という7歳の年の差は今が一番大きく目立つタイミングであり、将来、一国を背負う立場にあるクオーツの隣に僕なんかが立つのが心底恥ずかしかった。
 
 そんな僕の心の内なんて気付かないクオーツは、相変わらず僕を見て「綺麗だね、ラズ」と嬉しそうに笑い手を差し伸べてくる。その微笑みと言葉は疑う余地もないくらい心からの本心な事がさらにいたたまれなかった。
 
 
 王城に連れ込まれ共に暮らすようになった今も尚、僕だけがこの状況についていけていない。当事者なのに、常に取り残されているかのような感覚。
 
 最近、ふとした瞬間クオーツが僕のことを好きな理由を考えてしまう時がある。
 運命の番だから好きだと勘違いしているのか──
 それとも純粋に僕自体のことを好きになってくれているのか──
 クオーツの本心がわからない。
 そしてこの感覚は、家同士で決められた前世の婚約者様に抱いていた翡翠の感情と酷似していた。
 
 長年抱えていたモヤモヤとした感情がココ最近特に大きく膨らんでいく。
 
 
 
「───様、ラズ様~、休憩のところごめんね、気分は大丈夫?たった今、会場にラズ様の御家族の方々が到着されたよ。気分転換に会っておいで」
「!」
 
 
 どんどん沈んでいく思考を引き留めてくれたのは予想だにしなかった家族に会えるという朗報。
 知らせてくれたマリンにパァっと期待の眼差しを向ければにっと笑みが返ってきた。
 
 
感想 43

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

上手に啼いて

紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。 ■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」