【完結】今日も推しに辿り着く前に嫉妬が激しい番に連れ戻されます

カニ蒲鉾

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【SS】慣れない王城での暮らし(5)



 ラルド様の家系は代々、公爵家であるうちのお抱え騎士として何代にもわたって勤めてくださっていた。
 長男であるラルド様も次期家長として現騎士長のお父様から受継ぐ立場にあり、昔から鍛錬を怠らず努力する姿を陰ながらずっと見てきた。
 そんな彼がこれからの立場を全て捨て、来月からこの王城に勤める騎士団に入団すると聞き驚愕で開いた口が塞がらなかった。

 いつの日か、剣を振りながらうちの騎士になることは名誉な事だと話してくださったラルド様のお姿が頭をよぎる。
 
 
「な、んで……ずっと、家の…我が家の騎士になるって言ってたじゃないですか…なんで、突然、王宮騎士団なんて……」
「守るべき存在がそこには無いからです」


 迷いのない眼差しでキッパリ返ってきた答えに余計頭の中はハテナがぐるぐる巡り回った。


「守る……?」
「ラズ様、私はあなたのそばに居てこそ存在意義があります。必ず、お守りできる立場まで自力で上り詰めます。ですから、そばにいる事をお許しください」
「っ、ラルド様」
 
 
 今世こそ蒼唯──ラルド様が幸せな人生を送れますようにと、影ながらその姿を追いかけていたのはいつだって僕の方。王城に連れられ、もう日常的にはその姿を眺めることは叶わないのだと諦めていた僕に思いもよらない新たな希望を見せてくれる。
 相変わらず……元付き人と同じ魂を持つこの人は僕を喜ばせる天才だった。
 
 
「お待ちしております……ラルド様」
「必ず、お傍に」
 
 
 ふにゃりと笑った心からの笑み。
 王城に連れられ過ごした一ヶ月、すっかり乏しくなっていた表情筋が家族やラルド様に会えた喜びで活発に動いていく。
 
 すっかり注目を浴び、目立っている状況を忘れかける程にこの時の僕はラルド様だけに夢中になっていた。


 だから、
 
 
「───ラズ」
 
 
 不意に背後から呼ばれるその声に一気に現実へと引き戻された。

 別に悪いことをしている訳では無いのに、反射的にビクッと揺れる肩。さすがにひと目もあるこの場で無視する訳にもいかず、振り返っている間にも、父や母を筆頭にこの場にいる誰もがクオーツに敬意を示す略式のポーズを取っていく。
 僕とクオーツ以外が揃って頭を下げる異様な光景のホール内、その中心に立つクオーツは周りには一切目もくれず慣れた様子で颯爽とこちらへ歩み寄ってきた。

 あっという間に目の前まで来ると自然な動作で腰を抱かれる。まるですぐそばに居るラルド様に見せつけるかのように。
 
 
「ラズ、ここに居たんだね、もう気分は平気?」
「……大丈夫です、ご心配をおかけしました」
「よかった、御家族とは十分話せたかな?」
「はい、この会に家族を招待して下さったクオーツ様の御心遣いに感謝致します」
 
 
 口調も呼び方も、大衆向けのよそ行きの態度。
 一切敬語を崩さない僕の態度にクオーツは気に入らなさそうにピクっと眉を動かすが、僕も譲る気はさらさらなかった。ここで普段の口調で話そうものなら周りからなんて言われるか想像するだけで気が滅入ってしまう。
 肩を竦め諦めたクオーツの視線は家族に移り、にこりと微笑みを浮かべる姿に更に頭を下げる家族を僕も視界に入れつつその様子を見守っていると、次に移動するクオーツの視線はラルド様で止まった。
 
 
「やぁラルド」
「ご無沙汰しておりますクオーツ様。本日はお招きいただきありがとうございます」
「ラズが随分と寂しがっていたからね、点数稼ぎさ。それはそうと、確か来月からだったか?お前の活躍を楽しみにしている」
「は、精一杯務めさせていただきます」
 
 
 それらの会話でラルド様の入団をクオーツは知っていたのだと察すれば、何故教えてくれなかったのか、と不満の視線を送るも、瞬時にここが何処だか思い出すと瞬きで誤魔化す。そんな僕に対し、文句なら後でいくらでも聞くよとでも言いたげなクオーツの余裕の表情がムカついた。


 
「ラズ、そろそろ」
「……はい。母様たち、また近々会いに帰ります」
「くれぐれも体には気をつけるのよ。よく食べてよくお眠りなさい。クオーツ様、ラズをどうかよろしくお願いいたします」
「お任せ下さい」
 
 
 小さな子供に言い聞かせるような母様の言葉にクオーツの表情にも笑みが浮かぶ。
 そんな僕らを一歩下がった後ろからじっと見つめるラルド様の視線を感じながら、クオーツに腰を抱かれ導かれるまま家族たちに別れを告げ歩き出した。
 
 
 
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