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SS・IF・パロディー
【SS】嫉妬
しおりを挟む「ラァズ」
「……」
「ラズさん~」
先程から何度も呼ばれる呼びかけに完全無視を決め込んでいると、突如人差し指でぶにっと潰される頬っぺたに苛立ちは加速する。
ジロっと睨みつければ、頬杖をついて僕を眺めていた指の持ち主の表情がパッと華やいだ。
「あ、やっとこっち向いた」
「……」
そう言って嬉しそうに何度もツンツンしてくるクオーツの手をベシッとたたき落とし、それすらもシャットアウトするためテーブルに突っ伏せば、「おや…」と漏れるつぶやきと共に頭上に感じる視線がひしひしと伝わった。
「ふぅ…私のかわいいラズは何に腹を立てているのかな?」
一国の王に対し不敬罪だ、と咎められてもおかしくない態度を取り続ける僕に怒るどころか心配混じりの声で頭を撫でてくる。
優しくされればされるほど、うまくコントロールできない自分の感情が情けなく、顔を埋めた両腕が自然と溢れる涙でじわっと濡れていった。
「ラズ、言ってくれないとさすがの私もわからないよ。どうしたの?」
きっとクオーツはいつまでも寄り添い続けてくれる。たとえこの後に会議が控えていようが、僕のことを優先する。
そういう人なのだと、わかっているのに───…
「……い」
「ん?」
「……なに、その匂い。臭いんだけど」
クオーツから香る、どこの誰か知らないオメガの匂いが鼻について腹が立つ。
「え……あ、」
「うわっ何そのリアクション!浮気ですか!?堂々と浮気ですか!?あーそうですかそうですか!そっちがその気ならこっちも浮気す「それは許さないよ」るから……」
僕の言葉に被せるようにして発せられる強い言葉。
優しい表情を浮かべていたさっきと打って変わって真剣な顔が怖いのだが───
どの口がそれを言う!?
「はぁぁ!?自分の事は棚に上げて僕にはダメとかよく言うね!?そのオメガと仲良くしてればいいじゃん!知らないっ顔も見たくない!」
「ラズ、ラズ話を聞いて」
「いらない!言い訳不要!!」
「ラズ」
「っ、」
頑なに聞かないと主張しても、クオーツの鋭い視線に捕らわれた途端、金縛りにあったかのように体が動かなくなる。
「まず、私も浮気なんてしてないし、一切するつもりもない。私にはラズだけだよ」
「うるさい、そんな匂いつけてきて信じられるか」
「これはラズの匂いだよ」
「……は?」
は?
何を言ってんだこの男は。
「はは、すごい顔。厳密に言えば、ラズの匂いを模した香水。常にラズを感じていたくて作らせてみたけど、やっぱり本人も他人のだと勘違いするくらい違うよね、私も違うと思ってボツにしたけどこれがなかなか取れなくて…ごめんね嫌な思いをさせた」
「……オメガと密会してたんじゃ」
「そんな事しないよ、そんな時間があったらラズとイチャイチャするかな」
「……」
つまり、僕の早とちり、勘違い。
「~~っ!」
「ふふ、嫉妬してくれたの?ねぇ、ラズ私に顔を見せて?」
「やだ!い~や~だぁぁっ見るな!向こういけ!」
「それは聞けないお願いだね、そうだ、不安にさせてしまったお詫びに私がどれだけラズを求めているか教えてあげよう」
「いい!いらない!結構です!ちょっ、抱き上げるな!ねぇ!やめて、おろしてえぇぇっ」
問答無用で抱き上げられ、連れて行かれるはベッドルーム。
全力で暴れてもビクともしない。
何がそんなに嬉しいのか余裕そうに鼻歌なんか歌っていやがる!
「あぁ、それと……ないとは思うけど、浮気をしたらどうなるか、もこの機会に教えてあげる」
「い、いやだぁぁぁ───」
僕の心からの叫びが閉まり行く扉の奧に虚しく消えていった。
【嫉妬】END
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