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SS・IF・パロディー
【SS】納涼イベント(2)
「へ……ぁ、あっ!?お目汚しごめんなさいっ」
「……いえ」
慌てて自分でも強くタオルをかき抱き、申し訳なくそろそろとラルド様を見上げれば、その視線は斜め上を向き、全く目が合わない。
「ラルド様?」
「……風邪を引いてはいけません、早く室内へ」
「でも、天気いいしこんなのすぐ乾きますよ。なんならこのまま僕もまぜてほしい「ダメです」……え」
被せるように食い気味な答えは完全なる拒絶。
一向に目も合わせてもらえないこの状況から、もしかしてあまたの迷惑をかけた事によりラルド様に呆れられてしまった、そう絶望に陥る五秒前のワナワナ震える僕の様子にはっと気付いたラルド様が慌てて呼びかける声と、何故かここに居るはずの無い番の落ち着いた声が綺麗に重なって僕の耳に届いた。
「───ラズ様」
「───ラズ」
バッと振り返った先には残念ながら想像通りの姿。
どうしてこう、いつもいつも間が悪く的確にやって来るのか、この男は。
従者であるトールと、恐らくこの事をチクった本人マリンを引き連れ、このクソ暑い中、全く暑さを感じさせない涼しい表情でこちらへやって来るクオーツにげんなりした表情を微塵も隠さずじとーっと見やる。
そんな僕とは裏腹に、背後ではザッと姿勢を正す騎士達の緊張した気配を感じ、チラッと盗み見たラルド様も同様に小さく目礼を送っていた。
しかしそんな緊張の根幹である主はというと騎士達には目もくれず一目散に僕めがけて距離を縮め、あっという間に目の前にやってきてしまった。
……圧が強い。
「やぁラズ、どうしたのかなそんなに濡れて」
「……暑かったからすこぉし水遊び」
「ふぅん…誘ってくれれば専用のプールで私が遊んであげたのに。かわいい水着もすぐに用意するよ?」
「そういうのじゃないし」
素っ気なく答える僕を一体どんな表情で見つめているのかはわからないが、ただじろじろと頭からつま先まで刺さる視線を感じる。
より一層クオーツの目を正面から見る事が出来ず視線は足元に固定され、タオルをぎゅっと手繰り寄せた。
「はぁ……濡れた姿を部下たちに見せつけて、そんなにも私との情事を知らしめたかったのかな?」
「ぇ、何言って───ひゃっ!?」
タオルの隙間から入り込んだクオーツの手が、濡れた布が張り付いて主張する胸の尖りをピンッと弾く。
不意打ちのことにもろ声を上げてしまった。
「ふふ、まだぷっくり腫れてる。昨夜強く吸いすぎてしまったね」
「~~~っ」
わざと周りに聞こえるように言うクオーツをキッと睨む僕の視線を涼しい顔で受け止めたかと思えば、チラッとラルド様に視線をやり、その後ろの騎士たちへと言葉を投げる。
「お前たち、私の番が邪魔をして悪かった。休憩を続けてくれ」
「「「はっ」」」
「ラルドも、戻っていいよ」
「……はい」
隣に立つラルド様の場所がするりと入れ替わり、当然のように腰を抱くクオーツの腕が進行方向を城の方へと誘導していく。
まだラルド様に挨拶もしていないのに、とこのままここを去る訳にも行かず、ぐぬぬ…と足を踏ん張り行ってなるものかと抵抗を示すも悲しきかな力の差はわかりきっていた。
「無駄な抵抗は疲れるだけだよ、あぁ、それとも抱いて運んで欲しいのかな?」
「いーりーまーせーんんん!僕はまだ戻らないっ、戻るならクオーツおひとりでどうぞっ」
そう主張するも、着々と湖から離れていく。
「丁度この後の予定も空いた事だし、水浴びの続きは私とやろうか」
「はぁー?嘘だっトールの顔を見ろ、仕事残ってるんでしょ僕なんかに構ってないで仕事しろっ!いいです、いーって!ねーぇっ、求めてません、大丈夫です!」
「ふふ、遠慮しないで。濡れて張り付く着衣プレイがしたかったのなら言ってくれればよかったのに」
そう言いながら腰を抱く腕が際どい箇所をするりと撫でるその行為は濡れた服効果か、普段より敏感に感覚を伝え、ドキッと肩が跳ねてしまう。
そんな自分の反応にカッと羞恥を覚え、振り切るように声を上げて誤魔化すしかできない。
「へ、変な風に触るな!変態っ変態ーーーっ」
「服って不思議だよね、このシャツだって元を正せばただの布一枚が体を覆ってるだけで人前に出ても何ら問題は無いようになるのに、一度濡れてしまうとあら不思議、体のラインがわかるくらいピタッと張り付いて、火照った地肌が濡れたシャツ越しに透ける姿はよりセクシーだろうね。あぁ、そうだ、どうせなら絵師を呼んで描かせようかな……」
「ばっ、、、ばっかじゃないの!?」
「うーん、でも、絵を描くためとはいえそんなラズの姿を他人が見るのは嫉妬でどうにかなってしまいそう……」
あまりにもくだらない事を真剣に悩む一国の王をドン引きした目で見てしまうのも無理は無い。
そして───導き出したクオーツの答えは聞かずもがな……
「うん、やっぱり私と二人きりでじっくり楽しもうね」
にっこりと綺麗に微笑む姿は誰もが見惚れる甘いマスク。その裏に見える悪魔の笑顔に果たして何人の人が気付くことが出来るのだろうか……。
相も変わらず暑さを加速させる大合唱が耳を刺激する中、暑いと感じていた感覚はいつの間にかどこかへ吹き飛び、ゾクリと背筋が震えて堪らない。
そんな僕を逃がさないとでも言うかのように、がっちりホールドされた腰を抱く腕。わざわざ耳元でねっとり囁く言葉がより一層、体感感覚を麻痺させていく。
「早く涼しい室内で熱々のラズの中にずっぷり入りたいな」
「~~~っ、えろクオーツ……っ」
「ふふ、でも想像して期待しちゃったでしょ」
「だ、誰がするか馬鹿ぁぁぁぁぁっっっ」
ミーンミーンとうるさい喧騒が鳴り止まない昼下がり、そんな大合唱に負けないくらいの悲痛な叫び声が虚しくこだました。
-END-
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