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1【職場復帰】
1-20黒 side楓珠
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長年使い慣れた部屋の場所はそのままに、社長室から会長室へとこの春名称を変えた自分専用の仕事部屋で処理待ちの書類に目を通していると、控えめな力加減でコンコンとノックされる扉に「はい」と短く返事を返す。
開かれた扉から顔を覗かせ入ってくるのは、同じく長年連れ添ったビジネスパートナー水嶋くんだった。
「悪い遅くなった」
「問題ないよ、私の方こそ忙しいのに呼び寄せて悪かったね。そこ座って」
秘書課へ赴く楓真くんに水嶋くんを呼ぶよう頼んだのはとある件の調査結果が今朝方やっと上がってきたためだった。
その報告はいま私が手に持つ封筒の中にあり、一旦先に見て秘書課の長である水嶋くんにも共有すべきだと判断し呼んだ。
ソファへの誘導に素直に腰を下ろした水嶋くんは、まだ何も伝えてはいないというのにさすが長年のビジネスパートナー。その察しの良さから、で?とさっそく本題を促してくる。
そんな彼の様子に満足気に頷き対面側に腰を下ろすと、一旦これを見て、と持ってきた封筒をそのまま水嶋くんに手渡した。すぐに中身を取り出し上から下までざっと目を通し終わるのをじっと待つ。
そして―――全て読み終わったと同時に、はぁ……と盛大にため息を漏らした水嶋くんは、手に持っていた数枚の資料を目の前のテーブルに投げやりに放り出すのだった。
「わかるよ、君のその気持ち」
「あーくそ……めんどくさいの送り込みやがって…なんかあるだろうなとは思ってたんだが…コイツかよ…」
「さすがに人事担当者も、これには気付けなかったみたいだね」
「はぁ…もっと身辺調査を徹底するよう伝えとく…」
「そうだね、今後のためにもお願い」
そして再び沈黙が二人の間に流れ、数秒後には同時にため息をつき頭を抱えてしまう。
視線は自然と投げ出された資料へと向かっていた。
そこには今回新たに秘書課チームへと加わった新メンバー松野翔吾と湖西要、この2名の選考時の履歴書の原本と、今回上がってきた報告書が広がっている。
一方は『特記事項なし』のみが明記され白が証明されたが、もう一方には『一柳家次男との接点あり』という見出しと共に詳しく記載され、完全なる黒だった。
「一柳家――しかも次男、美樹彦くんの方となると目的は……」
「楓真…だな。それか橘を狙ってくるという線も無くはない」
「私もそう思う」
『一柳家』この業界最王手のIT企業を営む財閥だ。
その代表とは個人的にも取引的にも古くから付き合いがあり、お互い偶然にも息子同士の年齢が近かった。その為楓真くんの海外留学では大変お世話になったのだが、どうやら次男美樹彦くんはその留学時代から楓真くんに恋心を抱いてくれているようで、去年の年末に招待された一柳家主催のパーティーで見聞きした様子から今も尚、何かしら想ってくれているようだった。
だが、それをこのような形で具現化されても困る。
「当然明確な違反がない限りこちらから一方的に辞めさせることはできないし、だったら遠ざけるべきだろうが、こっちも残念だが配属数ヶ月は経たないと部署異動の発令は不可能に近い」
「……だね。はぁ、楓真くんには伝えるべきかな、どう思う?」
「うんんん…あいつ地頭はいいのにバカな所あるからなぁ…変に伝えて、バレて相手を刺激してもな……ここは一旦俺たちの中だけで留めて様子見とするのがいいんじゃないか?」
「……そうだね、それがいいかな」
とりあえずはこの問題に対する水嶋くんとの意見のすり合わせは整った。
楓真くんが社長となり新スタートした御門ホールディングス。不安要素がこうして浮上してはきたが、まずは来月の就任パーティーで何事もなく無事終わることを祈るばかりである。
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