100 / 131
3【招待という名の呼び出し】
3-18暴君(8)
しおりを挟む代表は今、僕になんと言った……?
引き抜き……?
僕を一柳の長男――つまり次期後継者である真樹彦さんのメイン秘書に……?
そんなまさか……
さすがに自分の耳が正常に機能しているのか本気で疑ってしまった。
なぜならここまで呼び出された理由として頭の中で思い浮かべていたのは、楓真くんに相応しくない、御門の品質が落ちる、そんなレベルのことを言われるのだろう…そう覚悟を持ってやってきていたから。
たが、今言われたのはまるで真逆のこと――
インプットされた事を頭の中で必死に処理を回すが到底追いつかず脳がアウトプットの司令を出すことに遅れを生じさせている。
そんなフリーズ状態の僕の腕を突如強く引っ張る力が加わった。
「!?」
「考えるまでもなく無理すね。以上。帰るぞ」
「え、あのっ、水嶋さんっ」
引っ張られるがまま立ち上がりソファを回って出入口である唯一の扉の方へ問答無用で連れて行かれる。
慌てて水嶋さんと代表を交互に見やるが、その間代表は優雅にコーヒーカップを傾け愉快そうに眺めるだけで止めもしない。
だが、何も言わずこのまま帰るのは失礼に値するかつ、何も言えないのはさすがに情けなさすぎる。
「あ、あのっ水嶋さん!少しだけ、すみません」
「……一瞬だぞ」
「ありがとうございます」
僕の必死な呼び掛けに渋々立ち止まってくださった水嶋さんにぺこりと頭を下げ一柳代表を振り返る。
ずっと僕たちを眺めていたのかすぐに目が合い、なんでも言ってみろと言うように眉を上げ発言を促す素振りに甘え小さく息を吐き出すとここに来てやっと自分の言葉を口にした。
「……一柳代表、身に余るお誘いをありがとうございます。ですが、私は一生御門に尽くし番をそばで支えると決めております。この想いは変わりません。ですので今回のお話は無かったことにしてください」
怯まず最後まではっきり言い切った次の瞬間、シーンと静寂が訪れる。
ソファに座り僕を眺めるその表情は何を思っているのか全く読めない。
心臓がバクバクと高鳴り、周りに聞こえてしまうのではないかというくらい激しく脈を打っていた。
それでもじっと一柳代表を見据え、根気強く反応を待てば、ついにふっと笑う反応が返ってきた。
「……私は今キッパリと振られてしまったな。まぁ、はじめから答えはわかっていた。だからイエスと言うまで帰さないつもりだったのだが……」
「え――」
「水嶋がくっついてきた時点でそれも不可能だと悟ったよ」
「うわ…監禁かよ…えげつな」
笑いながら恐ろしいことをサラッと口にする代表に背筋がヒヤッとし、こちらは全く笑える状況ではなかった。
「とりあえず承知した。今日のところは一柳の考えを伝えたところで終わらせておこう」
「え、いえ、お断りを――」
「車を手配するから乗っていきなさい」
有無を言わさず言葉を遮られあやふやにされてしまう。
ここで完全に断っておきたかったのだが一柳代表の目がそれを許さない。ぐっと言葉に詰まっているとさらに帰宅を促される。
「それじゃあつかさくん、また楓真の就任パーティで」
「……行くぞ橘」
「っ、失礼します」
扉を開け出ていく水嶋さんの後に続き、体感長いようで実際は短い時間の滞在だった応接室を退出する。扉を閉める際、一瞬見えた時には既に一柳代表の視線は手元のタブレットに向き片手では仕事の電話に出る姿を捉え、その多忙さに無言で頭を下げその場を後にした。
願わくば、もう二度とここへ訪れる機会がないことを願って――
322
あなたにおすすめの小説
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる