コルセットがきつすぎて食べられずにいたら婚約破棄されました

おこめ

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前編

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「婚約を破棄して欲しい」
「……」

久しぶりに誘われ、久しぶりに二人きりで会えた婚約者に大事な話があると言われて告げられたのはそんなセリフだった。

「どうして?」

声の震えに気付かれないよう気を張る。
内心衝撃で動揺が止まらず、きつく締められたコルセットがなければ大声で喚き散らしているところだ。

私、クリスと彼、ティムの婚約は親同士が決めたものだ。
初めて出会ったのが物心つくまえだったから兄妹のように接し、物心がついてからも仲違いする事なく良い関係を築けていたと思う。
恋心を抱けはしなかったけれど情はあり、結婚するのならいずれ愛情を抱けるかもしれない。
そう思っていた。

それが変化したのは私達が15歳になり、学園に入学してからだっただろうか。
私達が通う学園は全寮制で、親元を離れても彼がいるから寂しくなかったし勉強も頑張れた。
なのに入学してから半年が過ぎた頃から会える回数が極端に減った。

それまでは週に何度か待ち合わせて二人きり時間を作っていたのに、一年が過ぎた今はそれがぱったりとなくなったのだ。

「心変わりでもしたの?他に好きな子でも出来た?」
「それは……」
「理由を教えて。理由も聞かずにこんな大事な事は決められないわ。お父様達に説明も出来ないし」
「……わかった、言うよ」

繰り返すが私達の婚約は親同士が決めたものだ。
私達当人同士で『破棄しよう』『わかりました』では済まされない。
まあ、父は私に甘いから私の気持ちを優先してく!るだろうけれど。

ティムはもごもごと口篭った後で、意を決したように口を開いた。

「僕はたくさん食べる君を見るのが好きだったんだ」
「は?」

言われたのは予想外のセリフだった。
え?たくさん食べる私が好きだった?

「なのに学園に入ってからはどんどん食べなくなって……今日だって見てよ!こんな小さいサンドイッチしか食べないで!前の君ならセットのひとつはぺろりと平らげてデザートまで食べてたじゃないか!」
「いや、それは……」
「そんな少量をもたもたと食べる君に愛想が尽きたんだよ。それに、実は僕は理想の彼女を見つけたんだ!」
「……はあ?」

食べられない理由を説明しようとする私の言葉を遮りティムは更に続ける。

「それってつまり、結局は私以外に気になる人が出来たって事よね?」
「君が僕の理想から外れたのがいけないんだろう?」

(はああああああああ!?!?!?!?)

そう大声で叫び出さなかった私を誰か褒めて欲しい。
一年に及ぶ淑女教育が染み付いており、こんな時でも私は淑女の仮面を被れているようだ。


「そういう事だから、僕はもう君と婚約を続ける気はないんだ。親にはもう伝えてあるから、君の家にもすぐに連絡がいくはずだよ。多分すぐに婚約は破棄されると思うからよろしくね」
「な……っ」

ティムは自分の言いたい事だけを言ってそそくさとこの場から立ち去って行く。
残された私は突然の要望と言い訳すらもさせてくれない彼に対し、悲しみよりも怒りが沸いてきて……











「冗っっっっっ談じゃないわ!!!!あんな男こっちから願い下げよ!!!!!」

ダン!とテーブルに空のジョッキを置き、そう叫ぶ。

ここは学園近くの街にある食堂の中。
平民の方々達御用達なので少し変装はしているが、ここでは学園内で厳しく指導されている淑女教育なんて関係なしに好きなように振る舞えるのが好きでもう何度も通っている。
ちなみにジョッキの中身はお茶だ。

「ははっ、大荒れだな」
「荒れるに決まってるじゃない!」

私の正面に座っているのはひょんな事からこの食堂で出会い、それからここに来る時にはたまに一緒に来ているレイトという男。
実はこの国の王子様で同じ学園に通う仲間でもあるのだが、ここにいる間は無礼講だと乱雑な言葉も態度も特別に許されている。

「よりにもよって理由が『たくさん食べなくなったから』よ!?さすがのお父様も呆れて絶句してたわ」

あれから私達の婚約は驚く程早く破棄された。
父も母も、あんな理由で婚約破棄だの言い出す男だとは思わなかったと呆れ、彼の父母も息子の発言にそんな理由で破棄するのはと少し渋っていたが、その後『気になる人がいる、まだ話した事はないが彼女も絶対僕を受け入れてくれるはずだ』というお花畑の発言に、こいつではない方が幸せになれるはずだと最終的に了承してくれた。

それはそれで良いのだが。

「まだ理由に納得いってないの?」
「納得出来ないわよ!食べなくなったから婚約破棄だなんて!」

そりゃ確かに学園に入ってからティムと一緒に食事をする時に食べる量は以前と比べてかなり減った。
でもそれは……

「食べたくてもコルセットがきつくて何も食べられないんだから仕方がないじゃない!!!」

そう、そんな理由があるのだ。

「コルセットなあ、確かにあれは辛そうだ」
「辛いなんてものじゃないわよあんなものやりたい人だけやれば良いのよあんなのただの拷問よ」

学園で人前に立つ時、女生徒はコルセットの着用を義務付けられている。
馬鹿げた義務だと思うだろう。
私もそう思うが、常に淑女として気品のある態度を取る為に云々とかいう誰が言い出したのかわからない決まりがあるのだ。
細身の女性が好まれるという風潮もあるのだろう。
おまけに人前で大口を開けるのもたくさん食べるのもはしたないとされている。
スタイルも良く見えるから好んで着けている子もいるが、私はごめんだ。

私だって食べたくなくて食べていないのではない。
食べたいけれど締め付けが強すぎて何もお腹に入っ
ていかなかっただけだ。

だからこうしてたまにコルセットを脱ぎ捨て平民の格好をして好きな物を好きなだけ食べて日頃のストレスを発散しているのだ。

「大体コルセット着けてるってわかってるんだから食べられないのもわかっているはずでしょう!?それに食べるところが好きだって言うのなら外に連れ出して一緒に食事してくれれば良いだけなのにそれもないし!」

会うのは学園内でのみ。
外でのデートなんて一度もした事がない。
プレゼントなんて、幼馴染で気心知れているから今更贈らなくても良いだろうなんて言われて一度も貰っていない。
こちらが義理で渡してもそんな態度だから私からも渡さなくなったけど。

もぐもぐとご飯を食べつつぐちぐちと元婚約者の不満をここぞとばかりにぶち撒ける。

「それに私が一方的にフラれたみたいになっているのがまた納得いかないわ。私だって大して好きじゃなかったわよあんなナルシスト!バカなところはあるけど小さい頃からの婚約者だしおじさまもおばさまも良い方だから多少は仲良く出来ると思ってたのにあの男ーーー!!!食べなきゃやってられないわ!」
「うんうん、そりゃやってられないよな。俺の肉も食うか?」
「食べる!」
「ははっ、相変わらず凄い量食べるよな。ほらどうぞ」
「ありがとう!だって女将さんの料理はどれも美味しいんだもの」

お皿に肉を取り分けてくれるレイトにお礼を言いつつぱくりと一口。
やっぱり女将さんのお肉の焼き加減最高。
柔らかいしジューシーだし味付けも最高。

「まあでも、クリスの食べてる姿が好きだっていうのはわかる気がする」
「そうなの?」
「ああ、だってめちゃくちゃ美味しそうに食べてるからこっちも腹減ってくる」
「!」

くすくすと笑いながら私の口の端についたソースを指で拭い、それをぺろりと舐める。

「ちょ……!」
「付いてた。ちょっとだけど」
「あ、ありがとう」
「減点だな」
「いやー!ここであそこを思い出させないで!」

一瞬彼の仕草にどきりとしたが、その次に言われたセリフに淑女教育の担当教師を思い出してぞっとする。

(はあ、もう、無駄にどきどきしてしまうわ)

レイトはこういう事をいつもさらりとする男なのだ。
出会ってから何度どきどきしたかわからない。

けれど私が彼とどうこうなるなんてありえない。
こうしてここでは仲良く過ごしているけれど、学園ではほとんど接点もなく話す事もほぼない。
学園内で私達が知り合いだと知っている人はいないと思う。
私は彼の学園での姿を知っているけど、私は変装しているからきっとレイトは学園での私を知らない。
すれ違っても気付かれないだろうな。

「あ、悪い。ちょっと席外す」
「わかった、行ってらっしゃい」

彼の従者らしき人が呼びにきてレイトが席を立つ。
いつもの事なのですぐに戻るだろう。

(はあああそれにしても本当に美味しいわ女将さんの料理。肉最高。こっちのサラダも美味しい!ドレッシングも女将さんの手作りって言ってたわよね?すごいなあ)

ぱくぱくと学園では食べられない絶品料理達を思う存分堪能していると。

「あの」
「?」

声を掛けられた。
その声に振り向き、その相手を見て料理を吹き出しそうになってしまった。

だってそこに立っていたのは私の元婚約者ティムだったのだから。

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