12 / 12
守るべきもの(アーノルド視点)
しおりを挟む※アーノルド視点
最初はただの『守るべき対象』だった。
同時期にやってきた二人の聖女。
一人はその場にいたほとんどの視線を独り占めしていながらも堂々とした振る舞いの聖女リーア。
そしてもう一人はリーアに比べると地味ではあるが凛とした佇まいの聖女シルク。
聖力は瞳の色の濃さに反映され、能力で言えば格段にシルクの方が上。
それなのに周囲はさもリーアの方が優秀だと言わんばかりの態度でシルクを蔑ろにしていた。
『はずれ』という言葉が耳に入ってきたのは数年前。
聖女に当たりもはずれもないというのに口さがない連中はこぞってシルクを『はずれ』と罵り始めた。
聖女としての仕事を真面目にミスなくきっちりとこなしている彼女に対しての暴言に腹が立った。
その都度否定して注意して不名誉極まりない噂を払拭しようともがいたが所詮は一騎士団の一団長にすぎない俺に出来る事は限られていた。
当のシルクはというと、確実に噂は耳に入っているはずだし直接心無い事言われているのに職務への影響は皆無だった。
きっと傷付いているのに。
やるせないと感じているはずなのに。
理不尽な噂に胸を痛めているはずなのに。
それなのに普段と何ら変わらない姿勢で職務を全うするその姿に、尊敬の念を抱くのは当たり前の事だった。
気が付けばいつも彼女の姿を探し、声を求め、会えば頬は緩み話せば心は弾み見つめられれば有頂天になる程彼女に惚れ込んでしまっていた。
(ただ守るべき対象というだけだったはずなのに)
可愛い。
可愛すぎる。
何をしていても、何ならたまに毒を吐く姿すら可愛い。
遠征の打ち合わせにかこつけて少しでも共にいられる時間を捻出しているなど、きっとシルクは想像もしていないだろう。
彼女が自分をどう思っているのかはわからない。
ただの仕事仲間としか思われていない可能性が高いが、たくさんの時間を共有したくさんの言葉を交わせば、いつかほんの少しでもこちらを意識してくれるかもしれない。
そんな下心を抱きながらずっとシルクと接してきた。
そして今年、いつもは警備に回されていたパーティー当日が非番になった。
さりげなく誰と行くのか訊ねてみると。
「毎年弟と参加していたんですけど、今年はダメなんですよね」
「都合が悪いのか?」
「恋人が出来たんですよ」
「ああ、なるほど」
はあ、と大きな溜め息を吐くシルク。
「あーーーどうしよう、やっぱり一人で行くのはダメですよね?」
「一応パートナー必須ではあるな」
「ですよね……はあ、どうしよう」
この様子だと弟の他に共に参加してくれそうな心当たりはないのだろう。
これはチャンスだ。
(俺が誘ったら、シルクは受け入れてくれるだろうか)
一夜の夢で終わっても良い。
いや、本音を言うならずっと続いて欲しいがこればかりは自分一人の意思では続けられない。
柄にもなくシルクの雰囲気にあった花を買い、何度もシミュレーションした通りにシルクを誘った。
一度は断られ絶望し、ちょっとした騒動に巻き込まれたがその後誤解が解け無事にシルクを手に入れられた。
パーティーに共に参加するだけで良かったのに嬉しい誤算だ。
うるさい小蠅がいたからとんとん拍子で進んだようにも思うが、小蠅は所詮小蠅。
以前からシルクに関しての不名誉な噂の出所が奴だと報告があがっていたのだが親が権力者で決定的な証拠を得るまで虎視眈々と奴を破滅させる機会を伺っていた。
その証拠が集まると同時にシルクへの暴言暴力を目の当たりにし、俺は全身の血液が沸き上がるのを感じた。
俺のシルクを精神的にも肉体的にも傷付けたのだ、徹底的に潰してやる。
その場で再起不能に陥るまで殴らなかった自分を褒めてやりたい。
同時に、あんな展開を招いてしまった自分の愚鈍さに腹が立った。
シルクは助けてくれて感謝していると言っていたが、やはり自分を許せそうにない。
決心の通りに奴を徹底的に潰し、二度とシルクの目の前に現れないよう追放を命じた。
欲を言えば処刑してしまいたかったが、処刑されるよりも過酷な運命が待っていると思えば多少の溜飲は下がる。
その更に後でリーアとの一悶着もあったのだが、まさか俺がリーアを好いていると勘違いしているとは思ってもみなかった。
俺はいつだってシルクしか見ていないのに。
「アーノルド、大好きです」
想いを確かめ合い、念願通りにシルクを独り占め出来たパーティーの夜。
パーティーが終わってからも、これから先も共にいてくれると誓ったあの日は人生で最良の日であり最高の日だった。
はにかみながら愛を告白してくるシルクの可愛らしさといったらない。
同じ聖女ならリーアの方が良いのに何故という声もかけられたが、笑止千万。
シルクの魅力がわからない奴に何を説明したところでわかりはしないだろう。
それで良い。
シルクの魅力はわかる奴だけがわかれば良いのだ。
パーティーで見せたシルクの嬉しそうな柔らかな笑みと態度にライバルが増えた気もするが、すでに彼女は俺のものだ。
俺だけのものだ。
今更彼女の魅力に気付くなんて遅過ぎる。
彼女を手放すつもりはない。
彼女にも俺を手放して欲しくない。
「今日も可愛いな、シルク」
「っ、アーノルドも素敵、です」
顔を真っ赤に染めて言い返してくる彼女が愛おしくて仕方がない。
可愛い。
愛おしい。
頭の先からつま先まで、俺にとっては全てが完璧な俺の聖女。
髪の毛の一本、視線のひとつすら他の誰かに寄越すつもりはない。
(シルクも厄介な奴に捕まったものだ)
我ながら厄介な奴だと喉の奥を鳴らしつつ、今日も愛しの彼女へキスの嵐をお見舞いするのであった。
終わり
82
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
婚約者の愛した人が聖女ではないと、私は知っています
天宮有
恋愛
私アイラは、3人いる聖女候補の1人だった。
数ヶ月後の儀式を経て聖女が決まるようで、婚約者ルグドは聖女候補のシェムが好きになったと話す。
シェムは間違いなく自分が聖女になると確信して、ルグドも同じ考えのようだ。
そして数日後、儀式の前に私は「アイラ様が聖女です」と報告を受けていた。
元恋人が届けた、断りたい縁談
待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。
手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。
「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」
そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?
【完結】悪役令嬢は折られたフラグに気が付かない〜王子たちは悪役令嬢の平穏を守れるのか!?〜【全23話+おまけ2話】
早奈恵
恋愛
エドウィン王子から婚約破棄されて、修道院でいじめ抜かれて死んでしまう予知夢を見た公爵令嬢アデリアーナは、男爵令嬢のパナピーアに誘惑されてしまうはずの攻略対象者との出会いを邪魔して、予知夢を回避できるのか試そうとする。
婚約破棄への道を自分で潰すつもりなのに、現実は何だか予知夢の内容とどんどんかけ離れて、知らないうちに話が進んでいき……。
宰相インテリ子息、騎士団長の脳筋子息、実家を継ぐために養子になったわんこ系義弟、そして婚約者の王太子エドウィンが頑張る話。
*リハビリに短編を書く予定が中編くらいになってしまいましたが、すでにラストまで書き終えている完結確約作品です。全23話+おまけ2話、よろしくお願いします。
*短い期間ですがHOTランキング1位に到達した作品です。
王太子妃の器ではないと言われましたが、帝国の未来そのものでした
鍛高譚
恋愛
「お前は王太子妃の器ではない」――そう言われて婚約破棄された公爵令嬢フローラ。
冷酷な王太子と家族に捨てられた彼女に用意されたのは、敵国ラグナ帝国の皇太子への政略結婚だった。
『虐げられる未来しかない』と誰もが思っていたが――
「お前は俺の妃だ。誰にも馬鹿にはさせない」
迎えに来た皇太子クラウスは、初対面でまさかの溺愛宣言!?
今まで冷遇されてきたフローラは、クラウスの優しさに戸惑いながらも、
彼のもとで新たな人生を歩み始める。
一方、フローラを捨てた王国は思わぬ危機に陥り、
彼女を見下していた者たちは後悔に苛まれていく――。
【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
義妹に苛められているらしいのですが・・・
天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。
その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。
彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。
それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。
儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。
そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
あっまい〜♪
素適な物語を有難うございました。努力する頑張りやさんが報われる話は大好きですし、聖女ちゃん二人が仲良しなのもよかったです。😄
こちらこそ素敵な感想ありがとうございます(^^)
女の子が仲良くわちゃわちゃしているのが好きなのでああなりました笑
努力は報われてなんぼですからね(^^)
ありがとうございました!
もう最後まで…ご馳走さまでした!!!!!♡
お粗末さまです♡
ありがとうございます!
こんにちは♪
全話楽しく読みました(≡^∇^≡)
団長とシルクのラブラブっぷりが糖度計での測定が不能になるくらい甘すぎて、糖尿病になってしまいそうです(≡^∇^≡)
こんにちは(^^)
読んでいただきありがとうございます!
糖尿病ww
そこまでの糖分受け取っていただいて嬉しいです!
ありがとうございました(^^)