1 / 11
1
「シャーロット・ノックス!我が婚約者という立場でありながらジュリへの数々の非道な振る舞い、見損なったぞ!これ以上は許さん!」
卒業パーティーの最中、ダンスフロアの中央で声を張りあげたのはこの国の王太子であるエリオット・ハウンド。
金髪碧眼の美青年だ。
その影に隠れるように数人の子息に囲まれているのがジュリという少女。
どこぞの異世界から突如この国に降り立った『聖女』で、肩につくほどの真っ黒で艶やかな髪、同じく黒い瞳は涙で潤み、怯えたようにこちらを見つめている。
そしてそれに対峙している私がシャーロット・ノックス。
長い金髪は緩くウェーブを描き、瞳は同じく金色。
ノックス公爵家の長女として生まれ、王太子の婚約者となったのは記憶に新しい三年前、貴族の子女達が通うこの学園への入学が決まった頃だった。
「非道な振る舞い、ですか」
ふむ、と頬に手を当てエリオットから告げられた自らの振る舞いを思い出す。
……が、とんと身に覚えがない。
「何の事でしょう?」
「とぼけるつもりか!?証拠がここにあるんだぞ!?」
「証拠と言われましても、身に覚えがないものはないのです」
「貴様……っ」
忌々しそうにこちらを睨まれ、同時にジュリの周りを取り囲んでいた子息達からも同じような視線を受けるが知らないものは知らない。
(やれやれ、悪役令嬢からの眺めってこんな感じなのね)
そう、私は『悪役令嬢』だ。
憎悪に満ちた視線を受けても尚余裕を持っていられるのは、単に私がこの展開を知っていたから。
普通の気の弱いご令嬢ならエリオットからの最初の一言で震えていただろう。
けれど生憎、私はそんなか弱いご令嬢ではない。
所謂転生者というやつだ。
ここは『黒の聖女様』というゲームの世界。
聖女であるジュリが黒髪だから黒の聖女様になったというなんとも単純なタイトルだ。
ゲームの登場人物達が現実として目の前に現れるのは少し違和感があるかと思ったけれど、見目の麗しい方達はどんな髪色でもどんな髪型でも麗しいらしい。
主な舞台はこの学園で、王太子を始めとする貴族の子息達の心を掴みその中の誰かと恋に落ちる。
ルートは全部で六つ。
攻略対象は王太子エリオットを筆頭に宰相の次男マーク、騎士団長の長男ギャレット、魔導士協会現会長の三男フィガロ、そして精霊学の教師リンデル、そして隠れキャラの六人だ。
それぞれ家柄よし顔よし心に逸物抱えた人達ばかりである。
様々なキャラクター達と交流している内に、聖女としての力をしっかりと把握した彼女がこの国の森の奥深くにある瘴気に侵されてしまった太古の精霊の樹を浄化する旅に出るというものだ。
精霊の樹を浄化するのはラストシーン。
浄化が成功して、攻略対象と結婚式を挙げてハッピーエンドになるのだ。
隠しルートもあり、全ての攻略対象と結ばれた後で精霊樹の浄化を終えると最後の攻略対象が現れるという仕組み。
ちなみに婚約者の『シャーロット』つまり私はエリオットを心から愛しており、彼に近付こうとするジュリをあの手この手で追い払い接触させないようにして、時には犯罪すれすれの事までやって二人を邪魔しまくる役所。
実際の私はエリオットを愛してなどおらず、つかず離れず、一般的な婚約者同士がどのようなものかはわからないがかなり冷めた関係だと言える。
それぞれに婚約者や近しい女性がルート毎に出てくるが、一番邪魔で鬱陶しくて苛ついたのが『シャーロット』である。
そんな『シャーロット』にもジュリは優しく接してくれていた。
シャーロットは悪くない、婚約者の立場から見たら嫌がられるのは当然だと身を引こうともしていた。
(まあ、顔だけは可愛いわよね)
聖女様、もといジュリは可愛らしい顔立ちをしている。
今現在エリオットの影に隠れ怯えて震える様も庇護欲をそそり随分と可愛らしい。
異世界から突然やってきたにも関わらず健気に頑張り、浄化の為の聖女のしての勉学にも余念がないという『設定』だ。
だがしかし、所詮設定は設定。
みんなに優しいのも勤勉なのも頑張り屋さんなのも健気で良い子なのも全部ゲームの中の『ジュリ』の話。
実際にやってきた彼女は聖女としての勉学どころかこの世界の常識すら学ぼうとせず、好き勝手に色々とやらかしてくれていた。
「まあ、あの方達ったら」
「このような晴れの日になんて事を……」
「こんな喜ばしい場で婚約破棄だなんて」
「それもあんなに声高に……酷いわ」
ひそひそと囁く声があちらこちらから聞こえる。
私のすぐ傍ではいつも傍らに控えている彼、ライから怒りの気配が醸し出されている。
「あいつら……今すぐ消してやろうか」
「もう少し待って下さい」
今すぐという言葉の通り瞬時に彼らを消してしまいそうなライ。
彼は常に私の傍らに付いてくれており、見た目はもっさりだが頼りになる男だ。
彼を静かに制し、改めて彼らをしっかりと見据える。
(それにしても、大した演技力だこと)
彼女が実際に怯えても震えてもいないのなどわかりきっている。
常々わかっていたが、男に媚びるのが上手いのだジュリは。
(でもそれも今日で終わりよ)
これまで長かった。
たった一年の事がとてつもなく長く感じられた。
妙な言いがかりをつけるぼんくら達にそれを笠に着て女王のように振る舞う彼女とも今日でお別れ。
こんなに嬉しい事ってないわ。
ふつふつと湧き上がる歓喜。
思えば色々とあったなあとしみじみと当時を思い出した。
あなたにおすすめの小説
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
【完結】お前が悪役令嬢だと王子が叫ぶ
咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)
恋愛
ガリブルラ王立学園の卒業式。
男爵令嬢のリアは突然、第二王子のオーブリーに断罪されてしまう。
「貴様への嫌がらせなど存在しない。全ては自作自演。自ら本を破り、池に落ち、階段を転がった。さながら喜劇役者のよう。残飯をかぶる様は見事であったが、それも今日まで」
リアを助けてくれた優しいオーブリーの姿はそこにはなく、身に覚えのない罪をリアに着せていく。
理解できないまま国外追放を言い渡され、倒れそうになっていたリアに手を差し伸べたのは――?
*小説家になろう様にも掲載します。
義妹に苛められているらしいのですが・・・
天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。
その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。
彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。
それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。
儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。
そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。
婚約破棄を求められました。私は嬉しいですが、貴方はそれでいいのですね?
ゆるり
恋愛
アリシエラは聖女であり、婚約者と結婚して王太子妃になる筈だった。しかし、ある少女の登場により、未来が狂いだす。婚約破棄を求める彼にアリシエラは答えた。「はい、喜んで」と。
醜貌の聖女と呼ばれ、婚約破棄されましたが、実は本物の聖女でした
きまま
恋愛
王国の夜会で、第一王子のレオンハルトから婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リリエル・アルヴァリア。
顔を銀の仮面で隠していることから『醜貌の聖女』と嘲られ、不要と切り捨てられた彼女は、そのまま王城を追われることになる。
しかし、その後に待ち受ける国の運命は滅亡へと向かっていた——
敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜
六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。
極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた!
コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。
和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」
これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。
悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい
花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。
仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!