身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ

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そして運命の日である今日がやってきて、ゲームで見た事があるこのシーン。
見せ場のひとつである悪役令嬢『シャーロット』の断罪シーンである。

(さて、この後はお決まりのセリフかしら?)

このパーティでこの話題が出るのは知っていた。
そしてこの後のセリフも当然知っている。

「貴様のような性根の腐った者を俺の婚約者として置いておく訳にはいかない」
「そうですわね、性根の腐った方では国の代表は務まりませんわ」
「その通りだ!よって、貴様との婚約をこの場を持って破棄する!」

案の定なセリフが飛び出した。
悲鳴にも似た声があがり、ざわりと会場の騒めきが増す。

(良かったわ、ちゃんと彼の口から言ってくれて)

エリオットの口から婚約破棄の言質を取ってニヤリと笑ってしまう口元を扇子で覆い隠す。

ああいけない、嬉しさの余りに笑いが堪えきれないわ。

高笑いしそうな自分を抑えた為に震える肩を、どうやらエリオットとジュリ並びにジュリに虜になった面々は、私が悲しみ泣いているのだと都合良く誤解したようだ。

「今更泣いたところでこの決定が覆る事はない。父上、今申した通りです、シャーロットとの婚約を破棄していただきたい!」

卒業パーティなので当然エリオットの父でありこの国王である陛下もこの場にいる。

「わかった。後ほど席を設けよう。この場は皆の卒業を祝う場だ。めでたい場に水を差すこともなかろう」
「いいえ!この場で、皆の前でシャーロットの罪を暴き身の程を知って貰わなければ!」
「……本当にそれで良いのか?」
「もちろんです!」

威風堂々意気揚々声高々とそう告げるのを溜め息を噛み殺して問い返す陛下に何を思っているのか、エリオットははっきりと頷いた。

「そうか……」

ふう、と今度は噛み殺せなかったらしい溜め息が聞こえる。
豪華な椅子に肩肘を付き、額に手を当て一瞬目を瞑る陛下。
隣では皇后陛下が、陛下の背にそっと手を添えている。
すぐに開かれた瞳はエリオットと同じ碧で、開いたそのままにこちらをしっかりと見据えている。

「シャーロット嬢」
「はい、陛下」

エリオットとジュリ、おまけの取り巻き達はきっとこう思っているだろう。
陛下がエリオットの言う通りに私との婚約を破棄させ、そして私の家にまで責任を求め、私の大切な物を根こそぎ奪い、王太子に婚約破棄された傷物として残りの生を惨めに過ごすよう取り計らうと。
そう思っているに違いない。

ゲーム内では確かにそんな展開だった。
公爵家の権力で罪を揉み消すのも簡単だが、そこらの小娘に足をすくわれるようでは未来の国母としての立ち回りが……とかなんとか言われて、罪云々はともかくとして婚約破棄され悔しそうに衛兵達に連れて行かれていた。

でもここはゲームの世界じゃない。
ゲームとは似て非なる、別の世界なのだ。

「そなたもそれで良いか?」
「構いません」

まっすぐにこちらを見下ろす陛下に即座に答える。

この場だろうがどこだろうが私に異論はない。
どこをどう取っても冤罪だし、私は何も悪い事はしていない。
償うべき罪など犯していないのだから。
むしろみんなの前で潔白が証明出来るのなら好都合。

それに王太子の婚約者なんて立場に未練はこれっぽっちもない。
無理矢理婚約させられた挙句に未来の王太子妃だからと息吐く暇もない勉強の嵐。
どれだけ優秀な成績を収めても満足せず、もっともっと高みを目指せと言うばかり。
ほんの少しのミスでも鬼の首を取ったとばかりに責められ、時には叩かれ、こんな事も出来ないのかと蔑まれる毎日。
婚約者として顧みられる事もなく、むしろ邪魔者扱い。

『俺の手を煩わせるな』
『俺の顔に泥を塗るような真似はするな』
『俺の心が手に入るなどと期待するな』
『貴様を愛する事など生涯ありえない』

などなどまあ言ってくれるわ言ってくれるわ。
誰がお前なんかの愛を欲しがるかクソッタレと令嬢にあるまじき悪態をつきそうになったのをお愛想100パーセントの笑顔で対処したのは我ながら褒めてあげたい。

ジュリがやってきてからはご存知の通りそれが顕著で、まあ出るわ出るわ不貞の数々。

『あいつは名ばかりの婚約者だ。愛情なんてない。俺にはジュリだけだ。生涯、ジュリだけにこの愛を捧げると誓う』

うっかりそんなセリフを聞いてしまったのは記憶に新しい。
愛情なんて求めていなかったけれど、婚約者のいる身で他の女を口説くなんて頭がお花畑なのかしら。
この国では一夫多妻は認められていない。
堂々と浮気、そして不倫宣言をするエリオットに呆れを通り越して笑みすら浮かんできた。

「そうか、ならば仕方がないな」
「父上、では……!」
「ああ、そなたとシャーロット嬢の婚約は破棄しよう」
「ありがとうございます!」

それ見た事かと勝ち誇った顔でこちらを見るぼんくらとその他諸々。
しかしその表情は次の陛下のお言葉により一瞬で凍り付いた。

「エリオット」
「はい、父上」
「そなたを王太子の座から降ろす」
「……は?」
「シャーロット嬢、これまですまなかったな」
「いえ、とんでもございません」

陛下のお言葉にエリオットが思わずといったように間抜けな声をあげた。
周囲は私との婚約を破棄した時点で、というよりもこれまでの経緯を把握しているからか驚きの声はない。
わかっていないのはぼんくら達だけである。

「な、何故ですか!?何故!?それに何故こんな女に謝罪など……!」
「わからないのか?」
「わかりません!シャーロットは聖女であるジュリを虐げ害したのですよ!?罰を受けこそすれ、謝罪など必要ないではありませんか!」
「本当にそう思っているのか?」
「もちろんです!」
「……はあ」
「……父上?」
「……私は何度、そなたに告げれば良いのだろうな」
「え?」

呆れたように呟く陛下。
次にエリオットを見る目にはいつになく厳しさが浮かんでいる。

「父、上?」
「今この場ではそなたの父ではない。公の場では陛下と呼ぶようにと何度も何度も伝えたはずだが?」
「!あ、へ、陛下、申し訳ありません」
「それだけならまだしも、何の罪もないシャーロット嬢をこのような場で辱めるなどありえない。せめてもの温情をかけ別の場を設けようとしたのも拒否する始末……情けない」
「な、何の罪もない訳ないでしょう!?こいつは……!」
「誰に向かってこいつと吐き捨てておるのだ?」
「っ、あ、も、申し訳ありません」

あのぼんくらの父親だから同じくぼんくらだと思うでしょう?
これが違うんですよ。
陛下はとても素晴らしい人なんです。
普段は優しいおじ様といった雰囲気なのにこうして威厳を示す姿はまさにこの世の最上。
本当に、何故この方をもってして息子があんなぼんくらになってしまったのか不思議なくらい。

ジュリはというと、項垂れるエリオットを放置している。
いや放置しないでポーズだけでも良いから寄り添ってあげなさいよ可哀想に。
まあエリオットを除く三人がわれ先にとジュリに寄り添ってるからそんな暇なかったんだろうけど、たった今自分が原因で婚約破棄された人を目の前に他の男にしなだれかかるその図太さと厚顔無恥さ加減にむしろ感心する。
エリオットはきっと私と婚約破棄してからジュリと婚約するつもりだったんでしょうけど、あら残念、ジュリにその気はなさそうね。
ジュリが自分に寄り添わない事に愕然としているもの。
本当にお馬鹿さんなんだから。

「その調子ではシャーロット嬢のおかげで王太子になれていた事をすっかり忘れているようだな」
「え?」
「やはりか……」
「ま、待って下さい、俺が、こい……シャーロットのおかげで……?」

こいつと言いかけて直したのは良いけれど、呼び捨てはいただけないわ。
もう婚約者じゃないんだからきちんと家名か敬称を付けて呼んでくれるかしら。

「シャーロット嬢との婚約がなければそなたは王太子にはなり得なかった。何故なのか、これ以上は言わずともわかるだろう?」
「……っ」

ハッとするエリオット。
今更ながら自分の立場をやっと理解したようだ。

そう、彼が王太子でいられたのは私の生家のおかげ。
能力の足りないエリオットが王太子になるには強力な後ろ盾が必要で、そこで選ばれたのが王家に代々仕えてきた我が家、ノックス公爵家だっただけの話。
婚約が決まった時もエリオットが王太子に選ばれた時も周りから散々言われてきていたはずなのに、おめでたい頭では覚えていられなかったみたいね。
我が家の後ろ盾がなければエリオットに王太子としての資格はない。
こんな場所で声高々と婚約破棄をするような人だもの、その能力もお察しだし、何よりエリオットには三つ違いの優秀な弟がいる。
何も無理してエリオットを王太子の座に据えておく必要はこれっぽっちもないのだ。

「さあ、そなたもシャーロット嬢に謝罪をすべきではないか?」
「しかし、こいつは……!」

あらまたこいつに戻ってしまったわ。
私、こいつとかお前とか呼ばれるの嫌いなのよね。

「シャーロット嬢に関しては全てこちらに報告があがっておる。彼女は何もしていない」
「そんなはずは……!」
「私の言う事が虚偽だと?」
「い、いえ、そのような事は……ですが、この場でなど……!」
「良いか、彼女は何もしていない。そしてそなたがこの場でと申したのだろう?シャーロット嬢を辱める事は出来ても自分の頭は下げられないとでも申すのか?」
「……っ」

そうだよね、自分でこの場が良い!って言ったんだもんね。
陛下はちゃんと気を遣って後でって言ってくれたのに自分からここが良いって言っちゃったんだもんね。
男に二言はないよね。

陛下の『彼女は何もしていない』は言葉の通りだ。
例え何かをしていたとしても、陛下がしていないと言えば私は何もしていない。
実際何もしていないしね。

エリオットは嫌そうにこちらに向き直り、もの凄く嫌そうな表情で口を開いた。

「………………シャーロット」
「……」
「……シャーロット?」
「……」

名を呼ばれるがつんとそっぽを向き無視する。

「何故返事をしない?」
「あら、私に声をかけていらしたの?もう貴方の婚約者ではありませんので、そんなに馴れ馴れしく呼ぶ事の出来る他の『シャーロット』がいらっしゃるのかと思いました」
「ぐっ……貴様……!」
「貴様だなんて、怖いわ」

これっぽっちも怖くないけど怖がり震えるフリをする。

「……っ、シャーロット嬢」
「まあ、遠慮なさらず家名でお呼び下さいな」
「っ、の、ノックス公爵令嬢」
「何でしょう?」
「…………………………すまなかった」
「何がです?」
「言わないとわからないのか!?」
「何についての謝罪なのか聞くのがいけませんか?口だけの謝罪に意味はございませんもの」
「……っ」

謝罪の言葉を口にするのも嫌々だったのに更に何についての物なのかを説明するなどエリオットにとっては屈辱でしかないのだろう。
いやでも謝罪が屈辱とか意味がわからない。
悪い事をしたのは自分なんだから謝るのは当然だし、どう見てもとりあえず謝罪の言葉を言っておけば良いだろうという考えが透けて見えたから追及しているだけ。
王子様だから簡単に頭を下げてはいけないという声もあるが、明らかに向こうに非があるし他ならぬ陛下に促されたのだからここはきちんと反省の弁を述べていただきましょう。

「だから、その、このような場で婚約破棄を申し出て、ノックス公爵令嬢を辱め、すまなかった」
「それだけですか?」
「……謂れのない罪を被せて、悪かった」
「……」
「…………そなたの言い分を聞かず、これまでずっと蔑ろにしてすまなかった」
「……わかりました」

謝罪を受け入れるとも入れずとも言わずにひとまず頷く。
エリオットは謝罪を受け入れられたと思っているみたいだけど、違いますからね。
嫌だな、もしかして『俺の事が好きだから拗ねているだけか、後で機嫌を取っておけば良いだろう』なんて思ってないでしょうね。
貴方に取ってもらって上がる機嫌なんてないから余計な事考えずに項垂れていていただきたい。
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