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陛下の声色にジュリが震える。
隠そうともしない威圧にその場に立っている皆もごくりと息を呑む気配がした。
さすが陛下。
だがしかしその威圧に怖がりすぎてジュリは使い物にならない。
他の面々は誰に罪をなすりつけるか考えているのだろう、あちこち視線を彷徨わせている。
浅はかね、今更誰か一人に罪をなすりつけられるとでも思ってるのかしら。
「恐れながら陛下、その件も私から説明させていただいても?」
「ああ、かまわん。一番事情を知っているのはそなたであろう」
「では……」
実はゲームの大元でもある精霊の樹への道は既に開かれている。
この時点で本来のゲームの道筋とは大きく逸れている。
開かれているといっても、通れるのは私と瘴気を祓える数人のみだが。
前世の記憶を持っている私がその知識を使いその道を切り開いた……訳ではなく、幼少期は自他共に認める手の付けられないお転婆だった私が領地内にある森を散策していたところ偶然精霊の道を見つけたのがきっかけだ。
精霊の道は選ばれたの人間にしか見えないとされ、それは光のもやで出来た門を達と目の前に開けてくる。
道はその時によって様々で、色とりどり季節関係なしに咲き誇る花畑の時もあれば光が燦然と降り注ぐ緑豊かな木々の時もあり、その他にもどれをとっても幻想的で一度見たら忘れられない光景だ。
そんなきらきらしたものが見えたら子供ならついつい飛び込んでしまうもの。
テンションがあがってしまい即座にその光に飛び込み、見えたのは仄暗い森。
精霊の道を抜けて見えるのは素晴らしい景色だと聞いていた私は少しがっかりした。
仄暗いだけではなくどこか禍々しい何かが辺りに蠢いているのがまた不気味で、道を通った事を後悔し始めた瞬間その奥にある禍々しいものの現況を見つけた。
それが瘴気だというのはすぐにわかり、ちょうど家庭教師から浄化の方法を聞いていた私はそれを試してみたくなった。
無謀にも程がある挑戦だが、結果としてその浄化は上手くいき、途端に辺りは金色の光に包まれ立派な精霊樹が目の前に現れたのだ。
それからも度々精霊の道は行く先々で現れ、幾度となく精霊樹の元へと向かう機会が増えていった。
そんな訳で、聖女でもなんでもない私だが精霊樹の様子は常々わかる。
何故私なのだろうかと疑問はあるが、最初に浄化した時の魔力が精霊にとって心地良かったらしい。
その辺は良くわからない。
そして一番最近浄化したのが一月前。
私が浄化していなければ、確かにこの時期には既に瘴気は精霊の森に充満し街へと溢れる寸前だったはず。
「報告によると、一週間ほど前に精霊の道が禁術により強引に開かれ精霊樹の根元に小さな箱が埋められたそうです」
精霊の道を人間の都合で開くのは禁忌とされている。
それが無理矢理開かれただけでも大問題だ。
「関与した者は?」
「はい。まず、精霊の道を開いたのがフィガロ様」
魔道士協会には禁術に使う魔道具を保管している倉庫がある。
現会長の息子である彼ならばその鍵を盗むのも容易い。
息子に盗まれるような場所にそんな鍵を置いてあるなんて防犯意識に欠けている。
現会長も免職ものである。
「瘴気の根源となる箱を作ったのがマーク様」
箱には呪いの類がかけられていた。
こちらも禁術の類の魔法である。
強力な呪いは犠牲を必要とする。
一体何を犠牲にしたのか知りたくもないが、呪いの大きさを考えると動物の一匹や二匹では済まされないだろう。
「禁術書物を持ち出したのがリンデル先生」
精霊の道を開く方法や呪いに関する禁術書を提供したのは彼だ。
王国随一のこの学園で教師をしている彼は授業の資料の為王宮図書館に入る許可を得られる。
禁書の閲覧は制限されているが、目を盗んで手に入れようと思えば出来なくはない。
平和な世が続いていたから仕方がないと言えば仕方がないが、なんともあちこちの管理が杜撰すぎる。
「そして無理矢理開かれた道を渡る途中、それを止めようとした精霊をギャレット様が傷付けています」
「なんと、精霊を……!?」
精霊を傷付ける事はこの国では許されない。
どんなに小さな精霊でも敬意を払い慈しみ保護するべき対象なのだ。
件の精霊は森の中にある治癒の泉で療養中だ。
「そして彼らを唆したのがそこの彼女、ジュリさんです」
「な、な……!」
「こちらが証拠です。様々な証拠を集める為に回していた映像石に偶然入っていたものですが、全てはこちらに記録されています」
全ての証拠を提示すると彼らの顔色が青色を通り越して真っ白になった。
言い訳しようにも陛下が怖くて何の単語も出て来ないようだ。
ただ一人、ジュリを除いて。
「こんなのデタラメよ!こんな証拠、アンタならいくらでも作れるじゃない!」
「……はあ、まだ他の証拠が必要だと仰るの?」
「デタラメじゃない証拠を出しなさいよ!」
先程からたくさん被っていた猫さんが大量に逃げてしまっているわ。
往生際悪く必死の形相で叫ぶジュリを周りの男達がどんな目で見ているのか、本人ばかりがそれに気付いていない。
ああ、若干一名まだ夢の中の方もいらっしゃるわね。
こんなお馬鹿さんが婚約者だなんて嘆かわしいわ。
もう元、ですけれど。
まあこの件に関与していなかっただけ他の面々よりはまだミジンコ程はマシなのかもしれないわね。
「証拠証拠と言うのは真犯人の特徴だと思うけれど……まあ良いでしょう。誰もが信用するに足る証人においでいただきましょうか」
「誰もが信用する証人?そんなのいるはずないじゃない」
「彼がそうよ」
「……はあ?」
私が紹介したのはずっと傍らに控えていたライだ。
エスコートをすっぽかした塵芥の代わりに私をエスコートしてくれたのだ。
それからエリオットが意気揚々と声をあげる瞬間も今もずっと隣にいてくれている。
「はっ!そんなもじゃもじゃ頭のモブのどこが誰もが信用する証人なのよ?そいつ、いつもずーっとアンタの傍でぼーっと立ってただけじゃない!もしかして証拠でっちあげた?あはっ、あったまわるー……」
もう脱げる猫さんがいなくなってしまったのね。
頭悪い、と声高く嘲笑していたジュリが固まった。
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