8 / 11
8
ジュリだけではない、周りにいた誰もが驚き目も口も大きく開いてしまっている。
「もう戻っても良いんだな?」
「ええ、ありがとうございます」
「何、シャーロットの頼みとあれば断れまい」
真っ黒なもじゃもじゃ髪は長い銀色の絹糸のような髪に、茶色の瞳は緑色の宝石のように、ぼんやりとして見えた顔は彫刻のような完璧な配置の顔立ちに、ひょろひょろと見えた体は完璧に整った体躯へと変わっていく。
私の頭ひとつ分は大きいその人……いやその精霊は元の姿に戻り、私に寄り添うように隣に立った。
「なっ、あ、ら、ライ様!?!?!?」
何を隠そう彼は精霊樹の主にて精霊の王であるライリオン、通称ライ。
古い文献に名前が載っているくらいで実際に姿を見た人は少ない。
変装している時の彼は背こそ高いもののもじゃもじゃ頭で冴えない風を装っていたのでジュリの歯牙にはかけられなかった。
代わりにこき下ろされてしまったが、変装していた時の彼も悪くないと思う。
そしてライを知っているということは、やはりジュリもこのゲームの内容を最初から知っていたのだろう。
ライは全キャラクターを攻略した後に現れる最後の攻略対象なのだ。
「嘘、どうして、やだカッコイイ、え、待って、まだ早い、まだ私は浄化してないのに……!」
そして今の反応で、彼女の目的がライだと確信した。
ゲームでは精霊樹の瘴気を祓うとライが出てきて、弱っていた彼は自らを癒してくれた事に感謝し、その無垢で優しく献身的な彼女に惚れ込み、それを受け入れてくれた彼女と精霊の国でいつまでも幸せに暮らすという展開だ。
ライの件については偶然が重なり、ゲームの流れをうっかり私がしてしまった。
ヒロインの出る幕をなくしてしまったと、これには若干申し訳なさを感じてはいたが肝心のヒロインがこの調子なのでその申し訳なさは割と早い段階で塵と消えた。
「陛下、こちらのライリオン様が誰もが信用するに足る証人ですわ」
改めてする必要もないが、一応紹介する。
精霊信仰の強いこの国において最上の精霊であるライならばこれ以上ないくらいの証人だ。
そもそも当事者だし。
陛下もこの場にずっとライがいたという事実に驚いているだろうに、表情に出さないのはさすがだ。
「まさか精霊王様にお越しいただけるとは……!お目にかかれて光栄です」
「良い、面を上げよ」
「は!」
陛下が立ち上がり頭を下げるのと同時に周りのみんなも同じように頭を下げる。
下げなかったのはジュリと私だけだ。
ぽやーっとライに見惚れているようだが、ライは視線をちらりとも向けようともせず、陛下に倣い頭を下げようとした私の肩を抱き寄せている。
「なんで、どうして?どうしてライ様が……!」
「森の中を少しばかりお散歩していたところで出会いましたの」
「そんなんで出会えるはずないでしょ!?ありえない!私じゃなくてアンタがライ様の隣にいるなんて……!ライ様に優しくしてもらえるなんて……!」
「ありえないと仰られましても……ねえ?」
先述の通り、森の中をお散歩している時に会ったのは本当だ。
森の浄化に成功した時に初めて出会い、それからは森に行く度に交流し、こうして変装して学園内で共に過ごす事もあった。
そして自惚れではなくライは私に、いや私だけに優しい。
(これって多分、というか確実にジュリのポジションを私が奪った事になるのよね)
ゲームでライが恋したのは『精霊樹の瘴気を祓ってくれた人間』だもの。
とはいえかなりの特別扱いはされているが、所謂お付き合いというものをしている訳ではない。
愛を囁かれはしているものの、婚約者のいる立場で受け入れられるはずもなかった。
ちなみにもうおわかりだろうが塵芥達が私を愛人だの貸してくださいだの話していた時に傍にいたのもライだ。
あの時は本当に彼を抑えるのに苦労した。
止めていなければ部屋どころか建物毎吹っ飛んで彼らの下半身はぼろぼろになっていたでしょうね。
下半身というか、まあその、ごく一部だけね。
「話を戻してもよろしいかしら?貴女は彼らを唆し、精霊の森へと入った。そして精霊樹の根元に瘴気を生み出す核の入った箱を埋めた。そうですよね?」
「ああ、あの夜にやってきたのはこの女とそこの男どもだ。間違いない」
「……っ」
「ひ……っ」
精霊を傷付けたギャレットを特に強く睨み付けているからか、ギャレットが小さく悲鳴をあげた。
彼に睨まれたらもう終わりだとわかっているから、他の皆さんも何も言えず震えている。
「……精霊王様が仰るのなら間違いないだろう。シャーロット嬢、その例の箱とやらはどうしたんだ?」
「もちろん取り除いてあります。核の浄化も行い、埋められた核と箱はこちらに。調べるまでもないでしょうが、出所を突き止めれば彼らが犯人だと確固たる証拠になるはずです」
「何から何まで、流石だな」
「恐れ入ります」
一週間も前の事をすぐに報告しなかったからお咎めがあるかと思ったが、どうやら大丈夫のようだ。
良かった。
まあ精霊の森の浄化に関しては一任されているのでお咎めがあるとしてももっと早く報せてくれといった類のものだ。
そもそもライがいれば誰であっても、例え陛下であっても強くは言えないのだが。
「お主達には相応の罰を下す。衛兵、連れて行け」
陛下の命で衛兵達がエリオットその他を拘束。
意気消沈し、素直に従う面々の中で、やはりジュリだけはまだどこか納得していないようだ。
「そんな、そんな……!待って、待ってよ!だって、何で?ありえない、だってあんなに苦労して作ったのに、何で?どうして?」
囚われそうになっているのに真っ先に気にするのはあの核の事なのね。
陛下に目配せをすると、もう少しだけ話しても良いと頷かれる。
「貴女方がきちんと管理をしていれば浄化された事などすぐにわかったはずよ?」
便利な魔道具がたくさんあるのだから、浄化に限らずどの程度瘴気を放っているのかを管理し知らせる魔道具を付けて置けばよかったのに。
それと追跡装置も。
後から自分が全て浄化すれば良いのだから放っておいても良いと思っていたのだろうか。
それにしても私が瘴気を祓えると彼らも知っていたはずなのに、何故対策をしていなかったのかしら。
彼らは私を下に見ていたから私では出来ないと油断していたのか、はたまた恋に溺れ判断が鈍っていたのか、単に忘れていただけなのか、そのいずれともなのか。
何にせよ、彼らは、ジュリは私を馬鹿にしすぎだ。
あなたにおすすめの小説
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました
菱沼あゆ
ファンタジー
妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。
残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。
何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。
後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。
(小説家になろうでも掲載しています)
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
【完結】金で買われた婚約者と壊れた魔力の器
miniko
恋愛
子爵家の令嬢であるメリッサは、公爵家嫡男のサミュエルと婚約している。
2人はお互いに一目惚れし、その仲を公爵家が認めて婚約が成立。
本当にあったシンデレラストーリーと噂されていた。
ところが、結婚を目前に控えたある日、サミュエルが隣国の聖女と恋に落ち、メリッサは捨てられてしまう。
社交界で嘲笑の対象となるメリッサだが、実はこの婚約には裏があって・・・
※全体的に設定に緩い部分が有りますが「仕方ないな」と広い心で許して頂けると有り難いです。
※恋が動き始めるまで、少々時間がかかります。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
【完結】お前が悪役令嬢だと王子が叫ぶ
咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)
恋愛
ガリブルラ王立学園の卒業式。
男爵令嬢のリアは突然、第二王子のオーブリーに断罪されてしまう。
「貴様への嫌がらせなど存在しない。全ては自作自演。自ら本を破り、池に落ち、階段を転がった。さながら喜劇役者のよう。残飯をかぶる様は見事であったが、それも今日まで」
リアを助けてくれた優しいオーブリーの姿はそこにはなく、身に覚えのない罪をリアに着せていく。
理解できないまま国外追放を言い渡され、倒れそうになっていたリアに手を差し伸べたのは――?
*小説家になろう様にも掲載します。
義妹に苛められているらしいのですが・・・
天海月
恋愛
穏やかだった男爵令嬢エレーヌの日常は、崩れ去ってしまった。
その原因は、最近屋敷にやってきた義妹のカノンだった。
彼女は遠縁の娘で、両親を亡くした後、親類中をたらい回しにされていたという。
それを不憫に思ったエレーヌの父が、彼女を引き取ると申し出たらしい。
儚げな美しさを持ち、常に柔和な笑みを湛えているカノンに、いつしか皆エレーヌのことなど忘れ、夢中になってしまい、気が付くと、婚約者までも彼女の虜だった。
そして、エレーヌが持っていた高価なドレスや宝飾品の殆どもカノンのものになってしまい、彼女の侍女だけはあんな義妹は許せないと憤慨するが・・・。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。