身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ

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ジュリだけではない、周りにいた誰もが驚き目も口も大きく開いてしまっている。

「もう戻っても良いんだな?」
「ええ、ありがとうございます」
「何、シャーロットの頼みとあれば断れまい」

真っ黒なもじゃもじゃ髪は長い銀色の絹糸のような髪に、茶色の瞳は緑色の宝石のように、ぼんやりとして見えた顔は彫刻のような完璧な配置の顔立ちに、ひょろひょろと見えた体は完璧に整った体躯へと変わっていく。
私の頭ひとつ分は大きいその人……いやその精霊は元の姿に戻り、私に寄り添うように隣に立った。

「なっ、あ、ら、ライ様!?!?!?」

何を隠そう彼は精霊樹の主にて精霊の王であるライリオン、通称ライ。
古い文献に名前が載っているくらいで実際に姿を見た人は少ない。
変装している時の彼は背こそ高いもののもじゃもじゃ頭で冴えない風を装っていたのでジュリの歯牙にはかけられなかった。
代わりにこき下ろされてしまったが、変装していた時の彼も悪くないと思う。

そしてライを知っているということは、やはりジュリもこのゲームの内容を最初から知っていたのだろう。
ライは全キャラクターを攻略した後に現れる最後の攻略対象なのだ。

「嘘、どうして、やだカッコイイ、え、待って、まだ早い、まだ私は浄化してないのに……!」

そして今の反応で、彼女の目的がライだと確信した。

ゲームでは精霊樹の瘴気を祓うとライが出てきて、弱っていた彼は自らを癒してくれた事に感謝し、その無垢で優しく献身的な彼女に惚れ込み、それを受け入れてくれた彼女と精霊の国でいつまでも幸せに暮らすという展開だ。
ライの件については偶然が重なり、ゲームの流れをうっかり私がしてしまった。
ヒロインの出る幕をなくしてしまったと、これには若干申し訳なさを感じてはいたが肝心のヒロインがこの調子なのでその申し訳なさは割と早い段階で塵と消えた。

「陛下、こちらのライリオン様が誰もが信用するに足る証人ですわ」

改めてする必要もないが、一応紹介する。
精霊信仰の強いこの国において最上の精霊であるライならばこれ以上ないくらいの証人だ。
そもそも当事者だし。

陛下もこの場にずっとライがいたという事実に驚いているだろうに、表情に出さないのはさすがだ。

「まさか精霊王様にお越しいただけるとは……!お目にかかれて光栄です」
「良い、面を上げよ」
「は!」

陛下が立ち上がり頭を下げるのと同時に周りのみんなも同じように頭を下げる。
下げなかったのはジュリと私だけだ。
ぽやーっとライに見惚れているようだが、ライは視線をちらりとも向けようともせず、陛下に倣い頭を下げようとした私の肩を抱き寄せている。

「なんで、どうして?どうしてライ様が……!」
「森の中を少しばかりお散歩していたところで出会いましたの」
「そんなんで出会えるはずないでしょ!?ありえない!私じゃなくてアンタがライ様の隣にいるなんて……!ライ様に優しくしてもらえるなんて……!」
「ありえないと仰られましても……ねえ?」

先述の通り、森の中をお散歩している時に会ったのは本当だ。
森の浄化に成功した時に初めて出会い、それからは森に行く度に交流し、こうして変装して学園内で共に過ごす事もあった。
そして自惚れではなくライは私に、いや私だけに優しい。

(これって多分、というか確実にジュリのポジションを私が奪った事になるのよね)

ゲームでライが恋したのは『精霊樹の瘴気を祓ってくれた人間』だもの。
とはいえかなりの特別扱いはされているが、所謂お付き合いというものをしている訳ではない。
愛を囁かれはしているものの、婚約者のいる立場で受け入れられるはずもなかった。
ちなみにもうおわかりだろうが塵芥達が私を愛人だの貸してくださいだの話していた時に傍にいたのもライだ。
あの時は本当に彼を抑えるのに苦労した。
止めていなければ部屋どころか建物毎吹っ飛んで彼らの下半身はぼろぼろになっていたでしょうね。
下半身というか、まあその、ごく一部だけね。

「話を戻してもよろしいかしら?貴女は彼らを唆し、精霊の森へと入った。そして精霊樹の根元に瘴気を生み出す核の入った箱を埋めた。そうですよね?」
「ああ、あの夜にやってきたのはこの女とそこの男どもだ。間違いない」
「……っ」
「ひ……っ」

精霊を傷付けたギャレットを特に強く睨み付けているからか、ギャレットが小さく悲鳴をあげた。
彼に睨まれたらもう終わりだとわかっているから、他の皆さんも何も言えず震えている。

「……精霊王様が仰るのなら間違いないだろう。シャーロット嬢、その例の箱とやらはどうしたんだ?」
「もちろん取り除いてあります。核の浄化も行い、埋められた核と箱はこちらに。調べるまでもないでしょうが、出所を突き止めれば彼らが犯人だと確固たる証拠になるはずです」
「何から何まで、流石だな」
「恐れ入ります」

一週間も前の事をすぐに報告しなかったからお咎めがあるかと思ったが、どうやら大丈夫のようだ。
良かった。
まあ精霊の森の浄化に関しては一任されているのでお咎めがあるとしてももっと早く報せてくれといった類のものだ。
そもそもライがいれば誰であっても、例え陛下であっても強くは言えないのだが。

「お主達には相応の罰を下す。衛兵、連れて行け」

陛下の命で衛兵達がエリオットその他を拘束。
意気消沈し、素直に従う面々の中で、やはりジュリだけはまだどこか納得していないようだ。

「そんな、そんな……!待って、待ってよ!だって、何で?ありえない、だってあんなに苦労して作ったのに、何で?どうして?」

囚われそうになっているのに真っ先に気にするのはあの核の事なのね。

陛下に目配せをすると、もう少しだけ話しても良いと頷かれる。

「貴女方がきちんと管理をしていれば浄化された事などすぐにわかったはずよ?」

便利な魔道具がたくさんあるのだから、浄化に限らずどの程度瘴気を放っているのかを管理し知らせる魔道具を付けて置けばよかったのに。
それと追跡装置も。
後から自分が全て浄化すれば良いのだから放っておいても良いと思っていたのだろうか。

それにしても私が瘴気を祓えると彼らも知っていたはずなのに、何故対策をしていなかったのかしら。
彼らは私を下に見ていたから私では出来ないと油断していたのか、はたまた恋に溺れ判断が鈍っていたのか、単に忘れていただけなのか、そのいずれともなのか。

何にせよ、彼らは、ジュリは私を馬鹿にしすぎだ。
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