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「随分と浅はかね」
「あ、浅はかああ!?」
思わずぽつりと漏れた一言にジュリが反応する。
「だってそうでしょう?放っておいてあの瘴気がどんどん辺りに広がっていったらどうするつもりだったの?貴女、まさか今の実力で簡単に浄化出来るとでも?」
「当たり前でしょ!だって私は聖女なんだから!」
「ではその為の努力はしたの?」
「え」
えって何なのかしらこの子ったら。
そんな事言われると思ってもみなかったという表情。
「ど、努力?そんなの」
「努力なしに浄化の力を増やす事は出来ないのよ。最初に説明されたはずでしょう?」
代々浄化の力を持つ人には全員、予め説明がされているはずだ。
私もされた。
浄化の力は最初は小さいけれど、訓練する事によって力は強まり浄化出来る範囲も速さも増していく。
もちろん持って生まれた才能にもよるけれど、何もしなければ力は小さいまま、元から大きな力を持っていたとしてもそこで止まってしまうのだ。
主人公で聖女たるジュリであれば、確かに訓練さえしていればこの国の誰よりも強い力を持てただろう。
しかし彼女は何もしなかった。
元からある力を過信し、これで良いのだと思い込んでいたのだ。
彼女が何の訓練もせず、取り巻きの彼らと遊び呆けていたのも報告にあがっている。
「そ、そんな、でも私は」
「聖女だから無条件に、無制限に、どんな物でも浄化出来ると?」
「そうよ!だって聖女なんだから!聖女ってそういうものでしょ!?」
叫ぶように言うジュリに溜め息が漏れる。
「あなた、何か履き違えていない?ああ、あなただけではなく、そこの方々もですが」
「何を履き違えてるってのよ!?」
「聖女だから浄化出来るのではなく、浄化が出来るから聖女なのよ」
「……は?」
私のセリフに驚いたのはジュリと取り巻き達だけ。
やはり勘違いしていたようだ。
「ま、待ってよ、じゃあ、何のために聖女を召喚するのよ!?浄化出来るのならわざわざ召喚する必要ないじゃない!!」
「本来ならば、誰よりも強い浄化の力を持つあなたがしっかりと修行をして浄化するのが最善なの。力のある聖女の浄化は数百年、あるいはそれ以上保たれるはすなのだから」
そう、私が浄化してもほんの一ヶ月、良くて数ヶ月しか持たない。
今の所私の浄化の力がこの国では一番優れているが、それでも持って数ヶ月。
定期的に確認する必要があるのだ。
とはいえ定期的に確認する必要があると言うことは、定期的に確認さえしていれば大丈夫なのだ。
瘴気を見つけ次第その都度浄化し、私がいなくなった後は後進に任せれば良いだけ。
そもそも勝手に召喚しておいて見知らぬ国為に努力しろだなんて随分身勝手で酷い話だと思わない?
だから聖女召喚の儀は慎重に行うべきだと、むしろ必要ないのではないかと何度も何度も何度も何度も話し合ってきたというのに、我が公爵家と敵対する古参の頭でっかちの古狸連中が暴走し神官を買収し無理矢理に聖女召喚の儀を行った。
『シャーロットがいなくなった後、それに今よりも更に強い瘴気が発生した時の為』と最もらしい事を名目としていたが本人の預かり知らぬ所で名前を利用されこちらとしても猛抗議した。
呼んでしまえば普通の力しかない私などすぐにお役御免、公爵家の面目を潰せるばかりか聖女を召喚した立役者として大きい顔するつもりだったようだ。
森の泉を着地点にしたのはあくまでも天の導きだと示す為。
しかしジュリに修行をするつもりなど欠片もなく、男漁りに全神経を注いでしまっていたのだから彼らにとっては大誤算。
この断罪劇の裏ではきっと今頃古狸連中も拘束されているだろう。
「何それ、じゃあ私を排除しようとするなんておかしいじゃない!今からでも頑張れば……!」
「今から?頑張れると?」
「も、もちろんよ!処罰されるくらいなら……!」
「と、言ってますが……」
「無理だな」
「え?」
ライがすっぱりと言い切る。
「貴様は穢れている。もういくら鍛錬しようが聖女としての本来の力は発揮出来まい」
「け、穢れ……!?」
「そのように色欲に溺れ他者を蔑む歪んだ魂ではな、まず無理だろう」
かあっとジュリの頬が屈辱に染まる。
そりゃあこんな大勢の前で色欲に溺れたとか言われたら嫌よね。
さっき映像を見せた時よりも今の方が反応が大きいのは大好きなライに言われたからかしら?
その大好きなライに気付かず侮辱しまくっていたのにね。
それにしても四人も相手にするなんて凄い体力だなと改めて思い返す。
四人だから週に二回じゃ割り切れないわよね。
一日に二人三人とお相手していたのかしら。
あら嫌だ私ったら下世話な想像してしまったわ。
ぼんくら達の下半身事情なんてどうでも良いじゃない。
「待って、待って、じゃあ私は何の為に?私は、私はライ様に会う為に……!それだけを楽しみにしてたのに……!」
ライに会う為にだなんて笑える。
これっぽっちも気付かなかったくせに。
「ジュリさん、先程からライに向かって馴れ馴れしいのではありません?」
「は!?ライだなんて呼び捨てにしてるアンタの方が馴れ馴れしいでしょ!?ちょっとそこどきなさいよ!ライ様の隣は私のものよ!」
ジュリがこちらに掴みかかって来ようとするが、衛兵に拘束されている為腕を伸ばす事も出来ずにいる。
「まあそうでしたの?」
「そんなはずないだろう。俺の隣はシャーロットのものだ。隣だけじゃなく、上も下も全方位シャーロットだけのものだ」
「っ、何で!?どうして!?私の方が可愛いのに!私の方がずっとずっとライ様が好きなのに!私の方が絶対ライ様を幸せに出来るのに!そもそもそこは私のいるべき場所なのに!どうしてそんな女に……!」
「そんな女、だと?」
「……っ」
ライがじろりと睨むと、ジュリばかりか周囲のみんなが寒気を覚えて恐怖に渇く喉を鳴らす。
自分に馴れ馴れしくされているのも嫌だし、私を貶めようとした事にも怒っていたのに『そんな女』呼ばわりされて堪忍袋の緒が切れそうになっている。
ずっと我慢してたものね。
「貴様、以前から俺のシャーロットに向かって狼藉が過ぎるぞ」
髪が逆立ち閉じられたダンスフロアに風が舞う。
あちらこちらから小さく悲鳴のような声が聞こえるが構っていられない。
「まだ貴方のものではありませんわ」
「すぐにそうなるだろう」
「あらどうかしら」
「相変わらずつれないな。そんな所も愛おしいが」
くるくると私の髪を指先に絡めたりキスしたりしながら楽しそうに愛おしそうに微笑むライ。
その気になれば無理矢理にでも望めるのにそうしない彼に惹かれているのは確かだし、それに彼も気付いているとわかっているがまだその時ではない。
彼はそれ以降ジュリの方に目を向けるのも穢らわしいと言わんばかりにこちらにばかり視線を寄越している。
……穴が開きそうだわ。
「そんな、そんな……ライ様が、私のライ様が……」
ライがちらりとも自分を見つめてくれない事実に愕然として膝を折るジュリ。
はらはらと涙を流す様は恐らく庇護欲を存分に誘うのだろうが、完全に自業自得だ。
他にうつつを抜かさずゲームの中の『ジュリ』のように清廉潔白に頑張っていればまだマシだっただろうに。
少なくとも視線ひとつも寄越してくれないような扱いにはならなかったはずだ。
(……あら嫌だ、私ったらこれっぽっちも可哀想だと感じないなんて)
むしろライに無視されてざまあみろとすら思ってしまっている。
ねえねえどんな気持ち?
今まで散々馬鹿にして蔑んで見下していた私の隣に大好きなライがいるのって。
嫌な気分?
最低な気分?
そうよね、腹が立つわよね。
私の事を今すぐ排除したいでしょう?
でも残念ながらライが守ってるから出来ないのよね?
そう聞きたいのを我慢した私は偉いと思う。
この国の都合で呼び出してしまったのは完全にこちらの落ち度だ。
家族から離され慣れ親しんだ土地から無理矢理に連れてきたのだから当然ジュリの生活の全ては補償され、ある程度の我儘には目を瞑られてきたが今回の事はいくら『聖女』様とはいえ到底看過出来るものではない。
(ひとまず一件落着かしら)
もうこちらに何かしようなどという気持ちはジュリにはないだろう。
まさかライの拒絶でここまで心が折れるとは思わなかったが、大好きな相手にこんな態度取られたら私でも絶望するかもしれない。
他の面々もそれは同じだ。
そもそも捕らえられてしまったのだから何かを出来るはずもない。
もう私からの話は何もない。
陛下に視線を向けるとこくりと頷かれた。
この場を設けてくれた陛下達には後でお礼をしなければ。
「せっかくの祝いの日に関係のない事で時間を割いてすまなかったな。後の事はこちらで厳正に対処する。皆は残りの時間、パーティーを楽しんでくれ。遅くなったが、卒業おめでとう」
そんな陛下の言葉でやっと本来の卒業パーティーが始まった。
音楽が鳴りそれぞれが動き出す。
最初はおずおずといった様子だったが、音楽が明るいものに変わると次第に楽しそうな雰囲気に変わっていった。
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