「貴方はいつか私を捨てて別の人と婚約する」と突然可愛い婚約者に言われました

おこめ

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後編

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「ミシェルさん」
「何よ。その内捨てられる惨めな女が何の用?あ!もしかして私にルイスくんを譲ってくれるっていう話?それなら大歓迎!そうだよね、捨てられる前に譲った方がプライドが傷付かないもんね!」

この後に及んでまだ妄言を吐いている。
だがレベッカは余裕の表情だ。

「あら、私が捨てられるだなんてどこかの情報なのかしら?」
「はあ?情報も何もそう決まってるの!」
「そう、でもその情報、間違ってるわよ」
「はあ!?」
「私、捨てられないもの」
「な……!?」
「見ての通り、ルイスは私に夢中なの。私しか目に入らないの。残念だけど、貴女の毛先程も入る余地はないのよ」
「はああ!?妄想も大概にしなさいよ!あんた達は政略結婚するんでしょう!?好きじゃないけど、お兄さん達を見返す為に……!」
「ルイスはお兄様達を見返す必要もないくらい優秀よ。私の家の力なんて必要ないの。それに彼はお兄様達を心の底から尊敬しているのよ」
「え?」
「あら、それも知らずに『私の方がわかってあげられるし幸せにしてあげられる』だなんて偉そうに仰っていたの?」

頬に手を当てあらあらと困った子供を見るような目で奴を見つめるレベッカ。
完全に小馬鹿にしているし全力でマウントを取りにいっている。

「生憎だけど、ルイスの全てをわかっているのは私、彼を幸せにするのも私なの。私じゃないとルイスは幸せになれないのよ、ごめんなさいね」

おお。
口元に手を添えて笑う姿がサマになりすぎている。
『悪役令嬢』がどうのと言うのなら今のレベッカの仕草はまさに『悪役令嬢』のそれだ。

「ルイスくん!見た!?これがこの女の本性なのよ!自分だけがわかってるなんて思ってる傲慢な女なの!こんな女ルイスくんには相応しくない!」

どんな反応を返すのかと思ったらこんな反応。

は?
本性って、俺の事が大好きだから他所の女は引っ込んでろって言っているようにしか聞こえなかったけど?
むしろレベッカかっこいいって惚れ直したところですけど?

言い返すのも同じ土俵に上がるようで嫌だったけれど、レベッカがここまで言ってくれたのだから俺も言い返したくなってきた。
というかこんな事を言われたら俺だって惚気たい。

「俺に相応しいかどうかは俺が決める事で君が決める事じゃないよね?」
「っ、でも……!」
「あのさ、レベッカ見てどう?」
「は?どうって……?」
「君がレベッカに勝てるところがあると思う?ないよね?」
「え?そ、そんな事……!」
「ないよ。まあ仮にあったとしても俺にとってはレベッカが一番だから関係ないんだけど」
「な……!?」

口をあんぐりと開く。
そんなに意外な事を言っただろうか。
ずっと言ってきた事だしついさっきも愛してると伝えたはずなんだけど。
レベッカが最上だというのは俺の主観だけど、客観的に見ても見た目性格身分俺への愛情、どれをとってみてもレベッカよりも優れている所など見当たらない。

「レベッカの言う通り俺は兄様達を尊敬しているし、見返したいとも思っていない。そんな事しなくても父様も兄様達も俺を認めて大事にしてくれてるからな」
「う、嘘よ、そんなの」
「本当だって。何回言えば理解するの?もしかして言葉通じてないの?」
「通じてるわよ!」
「それとレベッカとの婚約は俺が望んだものだよ。一目惚れしてずっとずーっとずーーっとレベッカを口説いてやっと婚約出来てこれから結婚してレベッカの全部を手に入れられるのを待ってるのに捨てるはずないじゃないか。俺はレベッカ以外誰も欲しくないんだから」
「……ルイス」

恥ずかしそうに腕の中で身じろぐレベッカ。
ダメだって、そんな上目遣いされたら我慢出来なくなっちゃうじゃん。

抱く腕に力を込めてキスしたいのをぐっと堪える。

「嘘嘘嘘!絶対嘘!!私を選ばないなんてありえない!私はヒロインなのに!みんなに愛されるはずなのに!」

はっきりと伝えたのに受け入れられないのか奴は頭を掻きむしりそう叫ぶ。
ありえないなんてありえないし、ヒロインだろうがなんだろうが空気読まずに突撃してきて知ったかぶりで図々しくこちらの気持ちも考えずに人の内情にずかずか足を踏み入れる奴を愛する人はいないと思う。
『乙女ゲーム』とやらでのヒロインはきっと控え目に自然にただただ善意のみで動いていたからみんなに愛される結果になったのだろう。
それでも無理矢理感は否めないけれど。

(ていうか俺の事もただちょろくて落としやすそうだから声掛けたってのが根本みたいだし。好きとかそういうのは欠片もないんだろうなあ)

『乙女ゲーム』や物語のように複数の異性が同時に自分だけを見て愛してくれるだなんてそれこそありえない。

「とにかくそういう事だから。さっきも言ったけど、俺はレベッカを心の底から愛しているしレベッカしかいらない。これ以上レベッカを貶めるような事を言うのならこちらも容赦しないからそのつもりでいて」
「容赦しないって……」
「君、自分が手を出そうとしたのがどんな人達なのかよーく考えてみた方が良いよ。どんなにちょろくても俺だって一応公爵家の人間だからね」
「……っ」

言われて初めて実感したのだろう。
元が平民の男爵令嬢が明らかに身分が上の面々ばかり、しかも隣国の王太子殿下にまで手を出そうとしたのだ。
ただで済むはずがない。

他の方々に手を出そうとして護衛に阻まれた時点でここが『乙女ゲーム』とやらとは別の世界だと気付いていれば穏便な学園生活を送れたかもしれないのに。

え?ちょろいって言われたの気にしてたのかって?
そりゃそうでしょう。
声掛けて少し優しくすれば落ちるだなんて思われていて嫌な気分にならない人なんていないよ。

「公爵家からは正式に抗議させてもらうよ。俺への付き纏いと、俺の婚約者への暴言に対してね。もちろんレベッカの家からも抗議がくるだろうね」

公衆の面前で侯爵令嬢であるレベッカが男爵令嬢に『意地悪』『襲わせようとした』『攫わせようとした』『捨てられる』『惨めな女』などの謂れのない汚名を着せられそうになったのだ、当然そうさせていただく。
レベッカを溺愛している侯爵もそれに倣うだろう。

公爵家からの抗議があればそれに便乗して王家からも、それに追随して他の人達からも抗議があるはず。
そうなれば吹けば飛ぶような男爵家など後がない。

「あーあ、あの女終わったな」
「ルイスに婚約者の悪口は絶対禁句なのに」
「あんなに溺愛してるのを見てわからないのかしら?」
「仕方ないわよ、分不相応な夢を見てしまったんだから」
「いくら元が平民でもさすがに彼女の行動は……ねえ?」
「あいつ、顔が良くて身分が高い人には良い顔するけどそれ以外には酷い態度だったからな」
「女性に対しての態度も酷かったわよ」
「当然の報いだな」
「男爵も終わりだな」

あちらこちらからそんな声が聞こえる。
誰も奴を庇うつもりはなく、むしろ自業自得だと感じているようだ。

「あ、あ……そんな、嘘、嘘よね?だって私はヒロインで、みんなに愛されるべきで……」

その場にへたり込みぶつぶつと何やら呟いているのを無視し、レベッカをを促し今度こそその場を後にした。












その後、件の男爵令嬢は男爵家からは勘当され学園からも追放された。
こちらが強く抗議に出たのもあるが、やはり王子と王太子殿下に手を出そうとしたのが問題視されたんだろうな。
聞くところによると護衛に阻まれた後も何度も何度も彼らの行く先々に現れては接触を計ろうとし、更には俺の時と同じように彼らの婚約者を貶めるような発言もありそれぞれから猛抗議があったようだ。
男爵家も庶子とはいえ一度は籍に入れてしまったものだから各々から賠償金やら取引の停止やら何かと責任を取らされている。

元男爵令嬢は最後まで『私はヒロインで』なんて口走っていたらしいが、そんなもの知らん。
『ヒロイン』がどれほどの存在なのかは知らないが、俺にとっても他の人達にとってもそれぞれの婚約者こそが『ヒロイン』なのだ。
そこに第三者が割って入る隙などない。

ああ、そうそう、そういえば。

「レベッカ、最近機嫌が良いね」
「そう?心配事が減ったからかしら」
「男爵令嬢のこと?」
「それもだけど、前にも話したでしょう?貴方との婚約をやっかまれているって」
「うん、言ってたね」
「いつも陰口を叩かれていたんだけど、最近は近付いても来なくなったのよ。だから煩わしさがなくなって嬉しくて」
「そっかそっか、良かったね」

男爵令嬢のついでに彼女達の家にも軽くお手紙送っておいたからな。
レベッカをやっかんでいた子の中には以前俺に婚約を申し込んできた家の子がいた。
もちろん俺にはレベッカがいるから即座にお断りしたのだが、恐らくそのせいで色々と言われていたのだろう。

これ以上レベッカに何かをするようなら男爵家の二の舞になるぞと暗に仄めかせた手紙が効力を発揮したようで良かった。

「ルイスが手を打ってくれたんでしょう?」
「ありゃ、気付かれてた?」
「当たり前じゃない。でも、自分で対処出来たのに」
「俺がしたかったんだから良いの」

レベッカを煩わせるのも悲しませるのも何もいらない。
幸い排除する為の地位も権力もある。
これまでも、これからも、俺はレベッカが毎日笑顔で暮らす為なら何だってする。

「ありがとうルイス。愛してるわ」
「俺も愛してる」

ダンテ曰くレベッカの事になると見境なく容赦しない俺がたまに怖いらしいが、レベッカはそんな俺のほんの少し後ろ暗いところも引っくるめて受け入れてくれているから嬉しい。

「こら、ダメよ」
「二人きりのところなら良い?」
「……良いわよ」

気持ちの赴くままにキスをしようとしたらやんわりと断られたが、照れたようにそう返すレベッカがやはり可愛くて堪らない。

改めてレベッカへの愛情を再確認し、これからもずっと彼女の笑顔と平穏を守り続けようと心に誓う今日この頃なのであった。





終わり


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