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本編
第10話 真崎宵は電話する。
⚫︎真崎宵
「はぁ……はぁ……」
強制ログアウトによって僕の意識は現実へと戻ってきた。しかし、ほんの数分前までの激闘の影響か肉体的な疲労はないはずなのにキロ単位の距離を全力疾走でもしたかのような虚脱状態になっていた。
「今何時だ……ってもう6時過ぎ!?」
ベッドに置かれたデジタル時計の表示は18:09だった。我が家の夕飯の時間はおおよそ18:30過ぎなので母さんは既に支度を始めているだろう時間帯だ。
慌てて階下のキッチンまで降りた僕は夕飯の支度を手伝っていると暁も手伝いに来ていた。暁は今年で中学2年生になる僕の妹で、闊達で明るい性格もあってか今年度に入ってから3ヶ月だというのに既に被告白数が片手の指では足りなくなったと少し迷惑そうな顔で言っていた。
それなりに整った顔立ちではある暁だが、藍香のように際立った美少女というわけではない。まぁ……それでもモテているのは中学男子なら凝視しても仕方と言えるほどの胸部装甲の厚さが原因だろう。藍香が「もげればいいのに」と一昨年辺りから偶に呟いているのを耳にしている。
僕が台所に来てから程なくして父さんもやって来た。一昨日まで海外にいて未だに時差ボケが治っていないらしく、僕がゲームを始めた10時頃は爆睡していたので、今日は初めて顔を合わせる。
「よう、宵。長時間ゲームしてたみたいだが水分補給だけは気を付けろよ。凪沙、何か手伝うことあるか?」
「なら冷蔵庫からビール出してちょうだい」
僕がゲームを再開することに対する家族の反応は随分とあっさりしたものだったが、昨日父さんに藍香が望めば配信者としての活動も再開するつもりである事を伝えた時には「誰かゲストで呼びたいようなら俺に相談しろよ」と言外に父さんの人脈に頼ってもいいと伝えられた。てっきり反対されるとばかり思っていたので意外だ。何か心境の変化でもあったのだろうか。
◆
夕飯を済ませた僕は"Continued in Legend"を紹介してくれた藍香に感謝の言葉を直接伝えたかったが既に夜7時を過ぎている。この時間に訪ねるのは不躾なので僕は藍香へ電話を掛けることにした。
「もしもし、真宵?」
「こんばんは、今日"Continued in Legend"やったよ」
「知ってるわよ。一緒にやろうと思ったのに先にログインしちゃうなんて……明日は一緒にできる?」
「ごめん、それなんだけど僕まだレベリングしてないんだよね、だから合流するの少し待ってもらえないかな」
連続接続時間制限いっぱいまで遊んでいたにも関わらず僕が倒した敵は"蒼神の使徒"だけなのだ。経験値を獲得できていたとしても、さすがにレベリングしていただろう藍香との戦力差はスキルの恩恵があっても五分五分くらいだろう。
「レベリングしてないって何してたのよ?」
「えっとね、最初は────」
「へぇ……私は──────」
今日あった出来事を教えてあった僕らだったが、藍香は相変わらず1人でいるとトラブルが首を突っ込んでくるらしい。トラブルに首を突っ込むのではなく、トラブルからやってくるのだ。初日からフィールドで他プレイヤーからPKされそうになるだなんて間違いなく掲示板などで衆目を集めているだろう。
「で、覚醒の細かい条件は真宵にも分からないのね?」
「分からないよ。僕が知ってる手掛かりは"価値あるもの"を捧げろってことくらいだね。そういえば現実からもゲーム内の掲示板は見るだけならできるんだっけ……ちょっと見てみるよ」
そう言って僕がパソコンの電源を入れると藍香から確信に迫る質問を投げ掛けられた。
「ねぇ、それって誰にとって"価値あるもの"なのかしら」
「え、うーん……」
そうだ。確かに"価値あるもの"というのは誰の価値観を基準にして判断されるのだろうか。てっきり僕らプレイヤー個々にとっての"価値あるもの"だと思っていたけれど、そんなことで報酬を区別するというのは公平性に欠くような気がする。
ヒントはないものかと起動させたパソコンからゲーム内の掲示板を確認すると、どうやら獲得できた称号は信徒や神官といった神に関連したものばかりのようだ。
そして僕が強制的に受けさせられたクエストには"彩神"とあった。つまり僕の獲得した"灰神の使徒"に含まれる"灰神"というのは"彩神"と呼ばれる神話体系の内の1柱なのではないだろうか。"蒼神の使徒"と戦闘になった理由は中が悪かったとかそんなところだろう。
僕がこれらの推測を藍香に伝えると、藍香は
「その彩神っていう神様たちにとって"価値あるもの"を探せばいいのね。真宵の場合は"灰真珠の首飾り"ってアイテムが灰神っていう神様にとって"価値あるもの"だったってことね」
「たぶん、色の名前の入った宝石を加工したアイテムが鍵なんじゃないかな。僕の場合は引きが強かっただけだろうから、どうやって見つけたらいいか見当も付かないけど」
「─────────」
「ん、何か言った?」
「いいえ、何でもないわよ」
その後も今日ゲーム内で手に入れた情報や推測などの意見を交わした僕らは母さんに怒られるまで約4時間ほど話続けてしまった。
「また明日の夜も電話するよ」
「ありがと。おやすみなさい」
───────────────
お読みいただきありがとうございます。
第2章のプロローグ的な何かです。
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