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賭けの対象
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しおりを挟む知らない男の人がさっきから向けてきているスマホのレンズを見て、思う。
もしかしたら、全部撮られていたのかもしれない。
面白いほど先輩の狙い通りに動き、下で喘ぐ俺の姿も、好きだと口にして抱き締める哀れな俺の姿も、涙を流して喜ぶ俺の姿も、…全て、そこに愉悦の道具として残されているんだろう。
「…そう、ですか」
先輩のモノを受け入れたことでひりひりとまだ痛む肚の中が、ゴポ…と、内腿に垂れた体液の感触が、現実感を刻み付けてくる。
…余程、滑稽な姿だっただろう。
俺みたいなやつが、好きだのなんだのとほざいで簡単に身体だけじゃなく、心も許したのだから。
泣くどころか、笑えてさえくる。
「先輩」
ぐぐ、と喉の震えを堪えて音を絞り出す。
先程から一切こっちを向いてくれない先輩が、…それでも好きで、
…まだ、好きで、
「好きになってもらえただなんて思い上がって、すみませんでした。…今まで、ありがとうございました」
これが、俺にできる精一杯の見栄だった。
できる限り自然に見える笑みを浮かべ、ベッドの上に散らばっている服を着る。
…拾う時、何度か震える手のせいで落としそうになってしまったけど、それに構っていられるほどの余裕はない。
早く、この場からいなくなりたい。
俺のことなんか、賭け事の対象としか見ていなかった先輩の前から、いますぐに消えたい。
(…ここで、泣きたくなんか、ない)
ぐちゃぐちゃだけど、つんのめるようにして立ち上がろうとして、
「…っ、」
腕を、掴まれた。
振り返れば、…先輩が、いて
「な、んですか…」
引き留めたのはそっちのくせに、…戸惑ったような表情で顔を歪める先輩に、どういうつもりだと、今度こそ泣いて喚いてしまいそうになる。
騙したのは貴方で、賭け事にしていたのも貴方で、だから、そんな顔をするのは卑怯だ。
唇を血が滲むほど噛みしめ、俯く。
…無言のまま手を振りほどいて、二度と振り返らずに部屋を出た。
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