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過去【少年と彼】
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しおりを挟む今見た光景に凍ったように身体が動かない。
「…くーくん…?」
「……」
ペタペタと床を歩く白い素足だけが見えて、その手が俺がいるはずの布団をめくる。
しかし今はタンスの下にいるからそこに俺の姿があるはずもなく、
慌てたようにその足が色んなほうに向けられて、ぺたぺた走りながらそこにいたはずの相手を必死に探していた。
「くーくん…?くーくん、どこ?…っ、」
「……」
意地悪したいわけじゃないけど、あの場面を見た後ではなんだかよくわからない感情が邪魔をしてすぐに出ていく気にもならなくて、どうしようと思案する。
いっそのことタイミングもいいしこのままいなくなってしまおうか、なんて思いながら様子を見つつ逃走経路を考えて、
……真冬の様子の変化を見て、すぐに後悔した。
「やだ…っくーくんいなくなっちゃやだ…っ」
「…(…あー、もう…)」
「ひっく、ぅ…っやだよぅ…くーくん…」
なんか今更出ていくのも行きづらくなってきて黙ったまま答えないでいると不安になったらしく、さっきの何倍も泣きだしそうなぐらい震えた声が次第にひっくひっくとしゃくりあげる音に変わった。
…俺がいなくなったら本当にどうするんだろう。
思わず心配になってくる反応をする真冬に呆れると同時に少し安堵の思いが胸に広がっていく。
小さく息を吐いて、出ていこうとした。
その瞬間
「…っ、ぐす…っぁ、そうだ!おといれ…おといれにいる、かも…」なんて言いながらあろうことかさっきチョメチョメし始めたドアの方に向かおうと歩いていくから「…っ、」焦って足音を立てないように走って追いかけた。
「…っ、ばか。そこ開けたらやばいって…っ」
「………くー、くん…?」
腕を掴んで引き留めた時には、もうドアノブに手をかけていて
(…危なかった…ギリギリ…)
あと一瞬遅かったらヤッてる二人とご対面だった。
振り向いた真冬の瞳には涙がいっぱい溜まっていて、そんな表情にぎょっとする。
「…えっと、その、」
「…っくーくん!!!」
気まずくてでも慌てて何かを言おうとした瞬間、首に回された腕と同時にぎゅっと抱きしめられた。
そのタックルされた衝撃で後ろに倒れる。
…後頭部が変に床に打ち付けられて痛い。
「……っぐーぐん…ッ、くーくんいだ…っよがったぁ…っ」
「…うん。ごめん。…いるから。いなくなったりしてない」
「、いなく…っ、なっちゃったかとおぼって、おれ…っ、」
…そこまで泣くことなのか、ってほどわんわん泣く真冬の背を恐る恐るぽんぽんと叩く。
ひっくひっくとしゃくりあげる真冬の胸からすごい速い鼓動の音が聞こえてくる。
「……そんなことで泣いてたらこれからどうすんの」
「…っ、ごめんなざいいい…ッ、」
「……」
…謝らせたいわけじゃなかった、のに。
今俺が何を言ってもまた謝らせてしまう様な気がして口をつぐむ。
鼻水まで垂らしてぐちゃぐちゃに泣きだす身体を静かに受け止めていると、不意に気づく。
…震えてる。
(…そうだよな)
…怖くなかったわけがない。
あんな風に殴られて蹴られて、女にあんな風に触られて。
…無理に笑顔まで作って甘える癖までついて。
それに、父親だろう男と他の女のああいうシーンを見せつけられて。
…あの時、どれだけ真冬は痛かっただろう。
どれだけ怖かっただろう。
……どんな気持ちになったんだろう。
所詮見ていただけの俺には想像なんてしてもしきれない。
「…っぁ!かちょ…っ!ぁん!」
(……)
今でもすぐ扉の向こうでは喘ぎ声が聞こえている。
「…っ、ふ…っ、ぅ…」
それに対してすぐ下から聞こえるぐぐもった泣き声。
こうやって泣きたいときでも、真冬はあの男に怒られないように、邪魔しないように、手で口を覆って声をおさえて泣いている。
(…嗚呼、もうまったく…)
自分が泣きたい時だって、こんなふうにしか泣けない。
本当は大声で泣きたいくせに必死に声を小さくして堪えていて
……そうやって、こんなふうに不器用に一生懸命生きてる真冬を放っておけるわけない。
なんだかずっと泣いてばかりの姿を見ていると自然と何かをしてあげたい気分になってきて、そういうことを考えた自分に驚いて多分すごく微妙な笑みが浮かんだ。
ぼろぼろと目から流れる涙を指で拭うと、しゃくりあげながら俺を見上げる。
ビク、ビク、と震えながら泣くその顔が酷く痛々しい。
「……よく頑張ったな」
「……ぅ、ぇ…っ」
…所詮は見ていただけの他人の言葉だ。
俺が何を言ったって結局何もしてあげられないことに変わりはない。
でも、良くやってると思う。
…だから、
「怖かったのに、真冬はよく頑張った」
「…っ、」
できるかぎり優しくそう言って頭を撫でてやれば、ひっくと一回しゃくりあげた真冬が驚いたような顔をして
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