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彼の人の屋敷
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この先の行為を象徴しているように、その亀頭の先端から汁が零れるのを見て、…今度こそ我慢できなかった。
「っ、な、……なんで、…こんな怖いこと…す……っ、」
やめてくれと訴えるために掴んでいた翠の腕を、放り投げるようにして離す。
床に接していた尻がそこから離れると、尻もいっぱい汚されていたのかネチャーーっとぬるぬるの糸を引くような感触がして身を震わせた。
力の入らない重い腰を動かし、元々着ていた着物で身を守るようにして庇った。
「……っ、ぅ゛…っ」
尻だけじゃない。一瞬見ただけでもオレの下腹部から太腿も全部オレのか翠のかわからないほど我慢汁と粘稠な液まみれになっていた。
肚のナカのぬるぬる感が嫌で嫌でたまらなくて、「ぐ…っ、」震えながら指を少しだけ孔にいれる。血の気が引く思いでゆっくり抜いてみたら……白いネチャネチャしたもので指が濡れていた。
それを見て余計に感情が昂り、…された行為の意味も理由も理解できないのに何故か穢されたような感覚になる。…吐き気を催すような事実に、抑えきれない悪寒が走った。
「友達って、いった、…のに…、っ、」込み上げる液体に喉が詰まって、…滲む涙を拭う。…けど、当然そんなことでは一度緩んだ涙腺は、止まってはくれなかった。
「…さ、っくん、を、…っ、…忘れさせて、くれる、んじゃなかった、のか…っ?」
言ったくせに。
おれを代わりにしないって。
翠”も”、オレをそのそらって人の代わりにするのか、と…詰りかけた言葉を飲み込む。
「君の望み通りにしているだろう?」
「………ひっ、……、…ぅ………、…………ぇ…………?」
「何故泣くんだ」
不可解に顔をしかめる。
「そこまで泣くようなことをした覚えはないのだが」
鬱陶しそうに汗ばんだ前髪をかき上げ、至極当然の疑問のように尋ねる。
信じられない、と彼は言いたげに目を見開いて、オレを見た。
「お、…オレは、…翠と、こんなこと…したいなんて思って、なかった…、のに…っ、」
「………、…は……?」
聞き間違えたのかと思っているような表情で、翠は呟く。
「思ってない、……って……?」
オレの言葉を、くりかえして。
混乱して、呆気にとられた反応をした後、…「……ちょっと、待ってくれ」と状況を整理しようとしているのか頭に手を当て、顔色を失くした。
「………………まさか、……………僕とするのが、嫌なのか?」
「………………」
ありえない、と言葉のままに伝えてくる翠に、今度はこっちが呆然として、…声を出せなくなった。
まさか、…、…自分と性的な行為をしたいと感じている人間しか、この世にいないとでも思っていたのか。
彼の言葉がまるで知らない国の言葉のように響いて、思考が停止する。
段々腑に落ちたような表情を浮かべた翠が、「えー、…と、…だな、」言いにくそうに口を開く。
「自慢じゃないが、友人たちだけでなく通りすがりにも言われることがあるんだ。客観的な評価を含めて僕の容姿はかなりのものだと自負しているんだが……」
「間違っているだろうか」と目線を下げて問いかけてくる翠に、…微かに首を横に振った。
……それは、翠が正しいと、思う。
一般的に考えても、相当端整な外見をしている。
色々話をしてくれる使用人からも、和服もその見た目の良さをより強くしていて、似合っていると評判だった。
でも、そんなの…関係ない。
(……オレは、…今までずっとさっくんを見てきたから、)
絶対にこれ以上はないってぐらい、
神様が愛情を一番に注いで精巧を極めて作り上げたとしか思えないほど完璧で。
……どうあがいても、心を酷くかき乱されるような、圧倒的に美しい容姿を持つさっくんを見ているから、……何をしても、それより目を惹かれるとは、……思えなかった。
「間違っていないのなら、何も問題はないだろう?見た目も他者より優れていて、黒瀬家当主であり、地位も確立している。僕に抱かれることは見返りを考慮に入れても、得られるものは大きい」
「……っ、……そういう話じゃ、」
「先程のような失敗は、もうしない。豊富に経験を積み重ねてきているから、申し分なく君を満足させられるはずだ」
「………」
何故か話が、全然嚙み合っていない気がする。
手入れされているのが一目瞭然の長髪をさらりと揺らし、かすかに微笑んでオレの涙を拭おうと手を伸ばしてくる。
反射的にびく、として顔を背ければ、彼は俯いて絞り出すような声で、「…悪かった」と謝罪の言葉を口にした。
「それほど嫌がるとは、…思っていなかった」
歯切れが悪く、言い訳がましさのない言葉。
悪いと思っていそうな、反省している雰囲気に、…責めることが躊躇われる。
「……本当、…に、……?」
「ああ。僕との行為を拒否した人間は今まで見たことがないから、正直………かなり驚いている」
あれだけ嫌がっていたオレに無理矢理色々したのに、……本当に気づいてなかったのか…?
だけど、嘘を言ってる感じもしなくて、…あたかも、この行為自体が相手にとって光栄だと信じていた、というような口調で、「いや、…一人いたが、それも最後には…」と何かを思い出しているような目で続けられた言葉はその後を続けずにぷつりと消える。
「しかし、君も望んでいただろう」
「っ、なんでそうなるんだよ、…っ、望んでるわけがない。オレは、」
平然と決定事項のように言ってのける翠に、さすがに抗議する。
と、
「まだわからないのか?」
「………、?」
「それとも、わからないふりをしているのか」と、若干意外そうな顔でオレを見る。
「君が、選んだんじゃないか」
「…なに、を…?」
「”その”飲み物に入れる『エキス』を」
翠が机の方に目を向ける。
「……?」そこにあるのは、さっきまでオレが飲んでいた紅茶が入っている陶器。
確かに、最初に翠に聞かれた。
紅茶とともに使用人に液体の入った二本の小瓶のようなものを運ばせてから、『香辛料』だと告げた上で、どっちにするかと問われた。
でも、それはさっくんのことで苦しむオレへの気分転換みたいなものだと言うから、適当に選んだだけで、
「……ま、…さか、」
「心配は無用だよ。身体に害のあるものではない。少しばかり、興奮を高める効果があるだけだ」
その唇が、ゆっくりと弧を描く。
「……っ、な、」
「今、君が感じているその疼きは、クスリが正常に効いている証拠だ」
「身体が快感を求めて苦しいんじゃないか?」「…っ、」「当たっている、という顔だな。夏空も男だろう。男なら、なおさら快楽を味わえるとわかっているこのタイミングでやめようとする人間などいないに決まっている」と、至極当然のことのように言い捨てた。
しかし、オレの反応が想定内ではなかったらしい。
顔をしかめて口を噤んだ後、…やれやれと息を吐く。
「……煩わしい、厄介な思考だ」
「…っ、」
濃い非難の色の言葉を低く呟いた。
台座のようなお盆から、煙管を取り、…手に持つ。
それをゆっくりと口に運び、火を点ける。
深く煙を吸い込み、細い息と共に視線を落とす仕草は、どこか退廃的な雰囲気を漂わせていた。
紫煙が静かに立ち上り、彼の端正な顔立ちをぼやけさせる。
空気中を漂っている和と柑橘の甘く、そしてどこか…懐かしいような香り。
肩下ぐらいにまで絹のように流れている長髪がその僅かな動作で頬にかかり、その横顔を少し隠す。
煙管をくゆらせながら、彼は敢えてを感じさせるように、遠くを見つめている。
「何をそんなに嫌がっているんだ?」
問いを口にするその表情は、さっきまでの興奮した様子とはまるで違う、…少し苛々しているようにも見えるのに、…どちらかといえば当惑にも似た雰囲気に変わっていた。
「今僕達がしている行為は、動物だけでなく人間の誰もが本能で求め、望んでいるものじゃないか。性的な行為をすれば、快楽物質で脳が浸されて何もかもがどうでもよくなる」
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