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彼の人の屋敷
18
腿の薄いなめらかな肌を内側から撫で、外側に開かせるようにすると、…乱れていた着物が更にはだける。
舌で舐め回したくなるような太腿の全貌があらわになり、僕の目に晒される。
夕暮れに近づいているとは言っても、まだ昼間だ。
通り過ぎる誰の目にも僕達の行為が明確に映るだろう。
「姿は見えなくても、僕らの情事の音や声に聴き耳を立ててる人間が今もいるかもしれないな」
日が差すような明るい場所で、しかも今こうしている場所は屋敷内とはいっても中庭の真ん前の廊下だから、いつどんな人間が来てもおかしくない。
もしかしたら仕事関係の相手や客が訪れる可能性だってなくはないだろう。
さっきも家政婦や使用人、庭師が何度か通り過ぎようとして、僕達を見て引き返していった。
どうせ使用人達は、勝手に僕らの行為を噂している。
……というか、使用人以外にも僕の両親だって屋敷内にはいるんだ。
彼等は興味で動く人間だから、いつここに来てもおかしくないだろう。
「はぁ……、僕が今すぐに挿れたいと言ってるんだ。まさか、断らないだろうな?」
僕の手によって、疼いているような熱い息遣い、潤んだ縋るような目つき、僅かな震えや動きを見せる穹に、我慢ならずに硬く盛り上がった下腹部を押し付ける。
この外見、精神や感情という中身、肚の具合、何もかもが、今は既に僕の僕のものだ。
…――ずっと、手にしたかった。
一目見た時から、飢えた獣のように抱きたいと願わずにはいられないほど強い衝動に駆られた。
そうして、事実あの瞬間からこの身体に刻み付けられ、鮮明に残っている筆舌に尽くしがたいほどの名器の感触を味わいながら、今一度奥に溢れるほどに精子を吐き出しては擦り込んで、孕ませたいと望んでしまう。
いや、これは僕の邪な考えだ。
穹は”孕まない”からこそ、尊く美しい少年の形であるに相応しい。
だからこそ、全員に僕と穹の交わりをもう一度見せつけてやる必要がある。
――抵抗は惰性でしかない。
あの時もそうだった。
最初から選択肢は一つしかないのに、随分な手間をかけさせられた。
どうせ無意味な抵抗はすぐに止み、穹の身体はただ快感に震えるだけになるんだ。
僕の性器をとんでもなくうまそうに咥えこんだまま、孕ますための精子を欲しがって、締め付けては吸い上げ、受け入れ続ける至高の中出し専用の肉体となる。
……ローションと精液で汚れたオナホみたいに、ぐちゃぐちゃに掻き回したい。
それが、僕の求めていた絶対的な上下関係であり、支配の証明だった。
こっちを見ようとしない穹の…僕が望んだものではない表情や、視界の端で震える指先を見ても、何も感じなかった。
それと同じことだ。
今からする行為も僕自身の気持ちを満たし、意志を遂行する儀式というだけだ。
穹の感情は無関係な背景であり、ノイズでしかない。
「……え……、」
不意に、穹の手が僕の頬へと伸ばされる。
思いがけないほど優しい手つきで、僕の濡れている頬に冷たい指が添えられた。
泣いている僕を、穹が見上げている。
ぽたり、とまたその頬に落ちる涙に、今度は穹は反応すらしなかった。
……その姿は絵画のように完璧だが、何かが……いつもと違うように感じる。
「…―――――、そ、ら……?」
瞳の奥には光がなく、虚ろな端麗さを湛えながら、
そうして、……陶然とするほど、美しく微笑んだ。
目を奪われ、肺から空気がすべて押し出されたかのように、呼吸が止まる。
息を吸い込むことを忘れて、ただ見つめることしかできなくなる。
(……夢にまで見た穹とは…別の意味で、…むしろ……望んでいた以上に………)
瞬きを忘れた眼球が乾燥する感覚もなく、ただ見つめ続けている僕が動けずにいると、…穹は、ゆっくりと上体を起こした。
纏っていた絹の着物が重力に従って、その細い肩から滑り落ちる。
大きく開いた着物の前からは、男の欲望を誘うように体の線が見えており、きめ細やかな肌が空気の冷たさに微かに震えた。
穹、が、
……瞼を伏せ、静かな吐息とともに唇を…微かに触れさせてきた。
それは僕の唇に触れるか触れないかの、あまりに病的なまでの繊細さを持った温もりだった。
初めて穹からされたという底知れない歓喜と、愛撫とも呼べないほど重ならなかった…心地良い拷問のような感覚は、僕を黙らせるには充分…で、
「…い、今………僕に、……え、…、な、…なに…を、穹……」
「違うよ」
上気する顔と思わず上擦る僕の要領を得ない言葉に、「違う」と再び繰り返した穹が大人びた表情で否定する。
「咲人が恋しくて、口にしたわけじゃない」
「え、?………………………ぁ、……?………ぁあ、…名前、…か…」
随分遅れて、…そういえば、と今更に記憶が蘇った。
……そもそもこうなった事の発端だ。
それを思い出し、…まだ追いつききれていない回路をまわす。
そうだ、この期に及んで何故アイツの名を呟いたのか、と僕が怒り、罵った。
「……ただ、声が聞こえた気がしたから」
「声…?」
それ以上には多くを語らない青色の瞳の奥には、何の温度もないように見えた。
首にうっすらと赤い指の形が残っているのに、…今までと同じように、穹は今日も僕を責めることはなかった。
言葉だけではない。その愛おしい目には僅かでさえも、普通ならそんなことをした僕に抱くはずの感情は欠片も持ち合わせていないように見えた。
だからこそ、…穹にとってその程度の存在でしかないとひしひしと思い知らされているようで、無性に悔しく…腹が立つ。
何を考え、何を感じているのか。
その謎めいた雰囲気こそが、穹の美しさを一層危うく、魅力的なものにしているのに、
…それが僕を惹き付ける大きな要因だというのに、…それと同じぐらい、僕を嫉妬と怒りでおかしくさせる。
「翠」
「…………………ぁ、…………」
ゆっくりとこちらを向いた青い目に、僕が映る。
穹なのに、…どこか穹とは違う誘うような視線が、動作が、表情が、僕の網膜に焼き付く。
時間にして2秒にも満たない。
けれど僕には、それが永遠の沈黙に匹敵する告白に思えた。
僕を見つめている穹の唇が、静かに動く。
「オレを、抱きたいんだろう?」
「ッ、!!」
心臓が、その通りだと答えるようにドクンッ!と跳ねた。
甘く抗いがたい響きで唆されるままに、「…………ぁ、…ぁあ……」と意思より先に震え、自然に動いた喉は、無様な操り人形のようだった。
最近ようやく恋人らしい距離感になったと感じていたよりも、更に僕を狂わせる雰囲気。
「わかっていたのに、…怖くて、決心がつかなかったんだ」
咲人など、どうでもいい。
僕のすべてを愛していると、表情で、仕草で、態度で伝えてくる可愛い穹は、僕の理想を体現している。
以前の穹は、僕にこんなふうに直接的な煽り文句を囁いたことなんて、一度たりともなかった。
いつだって無自覚には誘われていたけど、…恋人になった後、自分からは、初めて、で、
「今夜にしようか」
「――――ッ、ぁ、…あ、……ハ…ッ、」
求めていた言葉が鼓膜を震わせ、脳髄を驚くほどに刺激する。
心臓が肋骨を突き破らんばかりに跳ね、喉の奥が焦げ付くように熱くなった。
数え切れないほどの感情の海の中で、穹の青い瞳が僕を射抜いた。
その呼吸を止めるような奇跡に、僕の理性を司る回路は一瞬で焼き切れた。
――――穹が、僕と交わりたがっている。
愛を囁かれながら身体中を隅々まで愛撫され、滾ったちんぽを咥えこんで喘いで。
弾けるような絶頂の中で、僕の熱い新鮮な精子を注がれることを、心の底から求めている表情。
「…――ッ、ぁ、…あは…っ、…」
脳がしびれるような感覚に襲われ、液体を滲ませながらパンツの中身が硬度を増した。
(……ッ、…ああ、…そうだ、)
僕達は、今度こそ恋人になったんだ。
生涯愛し合う僕達の深い交わりを屋敷全員に見せつけるのは、これからいつだってできることだ。
――咲人には、永遠に叶わない。
僕が勝った。
僕が、穹に選ばれたんだ。
一生好きな時に抱き続けるのだから、僕が望むどんなことだって、機会は数えきれないほどに訪れる。
夢中で忘れていたが、『今』の穹にとっては、男との初めての行為になるんだ。
僕の性器を受け入れ、味を覚え込むまでにはそれなりの痛みを伴うだろう。
ならば、アロマでも炊きながら屋敷で一番の部屋を使うのが望ましいな。
一度目は二人きりでお互いの愛を確認しながら、時間をかけてゆっくりと抱いて感じさせてやるのがいい。
僕という愛してやまない恋人との、忘れられない初夜にしてやろう。
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