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オレだけを愛して
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否定するのは容易いけど、…どう考えても言い逃れなんてできなさそうだった。
「そんなに、俺の顔が好き?」
「……す、」
まさか直球で聞かれると思わなくて、思わず喉に詰まる。
鼓動が高鳴り、顔が熱くなる。
「暇さえあれば見られてる気がするけど、よく飽きないね」
呆れ半分、少し感心しているような雰囲気でじとりと見据えられて、……いたたまれずに逸らした。
「……咲人が完璧すぎるのが、悪い」
「初めて俺を屋敷に迎えた時も、そう言ってたよな」
そんなことを言ったのか、穹。
……翠に全部聞いた時から思っていたけど、彼とオレの好みは嫌と言うほど似通っている。
だけど、…同じことを言ったなんて、知りたくなかった。
やはり彼もさっくんに当初から好意を寄せていたらしいことを知り、複雑な感情に苛まれる。
「……その……嫌だったら、…ごめん…」
「穹だけじゃなくて、色々な人間に容姿に関しては鬱陶しいほど言われてきたから、今更それぐらいで何とも思わないよ」
「……」
それはそれでどうなんだ、と相変わらず言い寄られているのを隠さない、というかそれらに慣れ尽くしたように語る想い人に、…やきもきとする。
どれだけの人間がこの男の容姿を、その文句のつけどころのない全身を舐めるように見たのか、触れたのかと、考えるだけでも胸の奥を掻きむしりたくなる。
「でも、他の女よりも、穹の口から聞く方が嬉しいかな」
「……っ、…?!、……な、…?!…っ、なら、…いい、けど…」
特に意図したわけではないといった雰囲気で、微かな笑みとともに呟かれる甘い台詞によって熱くなる首筋や頬を隠そうと顔を背ける。
しまった、今のは穹の答え方じゃなかった気がする。
というか、なんだ。何が良いんだよ、オレ、オレのばか。
……どうせ、その言葉はオレに向けられたものじゃないのに。
全部、嘘だったんだから。
今までさっくんがオレにしてくれたこと、言ってくれたこと、全部が穹と同じ顔をしてるだけのオレを代わりにしていただけのことなんだから。
……そうとも知らずに、全部オレの為だと思って、簡単に喜んだり拗ねたりして、…惨めで、ばかみたいだ。
オレの心の声を見たら文字数で引くぐらいさっくんを褒めてるよ、なんて反逆心を起こすこともできずに、口を噤むしかできなかった。
「それで?」
「……そ、それで、って、」
繋いだままで、絡めた指を僅かに動かされる。
催促するようにその形の整った唇が動き、問いかけてくる。
「何かしてほしいから、そんな目で見てるんじゃないの?」
「…っ、」
絶対に、わかってるくせに。
見上げるような仕草で視線を返せば、すべてを見透かしているような表情で笑みを零す。
いつもそうだ。
わかってはいても、言葉にはしてくれない。
「何、って、…っ、…べ、別に、」
「……俺に、どうされたい?」
その唇から女性を口説くより甘い声が零れて、耳を…脳を犯す。
頬を少しだけ撫でる手つきが、オレを愛おしそうに見つめる目が、酷く蕩けてしまいそうなほど甘い。
もう片方の手は、……焦らすように擦れるように、恋人繋ぎをしたままで、
愛撫するように滑る指先に、ゾクゾク、と抗いたくない官能的な震えが身体を襲う。
その雰囲気に流されて、口をあけて、みっともなく涎を垂らしながら舌を出したくなる衝動を…なんとか堪える。
「ち、ちが、」
「違うの?」
「……ちが、わない…」
艶やかな微笑みでオレの言葉を繰り返すさっくんに、…本音が滑り落ちた。
間違ってない。
さっくんの言う通りだ。
……だって、オレは”穹”なんだから、
このぐらいのおねだりは、…これ以上の、身体の関係だって、…日常的なものだったって言っていたのだから。
オレが、咲人を求めるのはおかしいことじゃなくて。
さっくんが、オレのことをどうでもいいって言ってたのは翠から聞いたから知ってる。
でも、穹は…特別だったんだ。
―――胸に走る亀裂に、気づかないふりをしながら、狭い気管支から音を漏らす。
「………………べろ、……ちゅー、……して、……?」
そのまま、押し倒されて。
息もできないぐらいに口づけながら、舌を絡め合って、口の中をなめ合い、酸素を奪い合って、…ぐちゃぐちゃにまざりあって、溶けて、気持ち良くなりたい。
いつもみたいに、何がなんだかわからなくなるほど、頭も、身体も、…全身がとろとろになるまで…めちゃくちゃにされたい。
オレも、…穹がされたように……好きすぎて殺されちゃうほど、愛されたい。
透き通るように白い首元に擦り寄るように顔を寄せた。
熱い吐息を零し、その透き通るように白い肌を唇でなぞって甘える。
「……?」
少しして、相手の返事がないことに気づいて、…不思議に思いながら顔を上げる。
そうして。
―――ふと、視線が重なった瞬間、…ゾクリとした。
否応なしに身も心も奪われるような、不可思議で陶酔的な感覚。
オレを見つめている彼は、…何を考えているのかわからない。
そう考えてしまうほど、いつ見ても彼はこの世のものとは思えないほど冷たく美しい。
至近距離にある整った顔は、どこまでも完璧で、どこまでも他人事のようで、
………けれど、それも瞬きをする間に、いつもの雰囲気に戻っている。
気のせいだったとしか思えないほど、ほんの一瞬の間だけ。
「あれから、まだ1時間も経ってないのに」
したいの?と困ったように、持て余したように大人な男の表情で苦笑する彼は、せがむオレとは違って消極的な反応をする。
「……どうしようかな」
「…っ、……ぁ、……」
するりと低めの体温が、遠ざって。
繋いでいた手が離れていく。
その手は何事もなかったかのように傍に置いてあった花火の紙柄の部分をいたずらに弄みながら、隣に座っている彼は見惚れるほど優雅な所作で悩ましげに思考に耽っているような表情をする。
キスを躊躇われた挙句、触れていた肌も、視線の先までそっち(花火の棒)に奪われたような気持ちになって、やるせなくなった。
「…、……いや、……?」
オレの見た目は穹と同じなのだから、絶対に拒まれるはずなんてないと思っていたから思わず泣きそうになる。
そんなオレの顔を見て、「そうじゃなくて、」と彼は困ったように視線を逸らす。
「…まだ残ってるから」
「へ、?」
困惑しているように深い吐息を零し、機嫌を取るようにオレの髪をあまりにも優しい手つきで撫でる。
「……酷く、甘かった」まるでその行為を思い出しているように、甘い気怠さを感じさせる声色。その一言だけで、心臓が跳ねる。
縋りつく気持ちで届きそうな、腕の白いシャツを掴もうとして、震える手はつかめない。
そんな動作に彼は優しく目を細めて、気遣うようにして繋いだオレの手を引き寄せ、指先に唇を滑らせる。
「…っ、ぁ、…ぅ、」敏感な肌に吐息が掠め、身を震わせた。
絡めた指を一度解いて、より深く、逃がさないとでもいうように繋ぎ直される。
静寂の中に静かな摩擦音が響き、…その昏く美しい瞳に意識を絡めとられる。
触れているところから熱が伝わって、彼の悪魔の如き色香に引きずり込まれていく感覚に陥った。
「俺がいない時に、バニラのお菓子でも食べるのが癖になってるの?」
「……どうして?」
大抵は一緒にいるんだから、そんな隙はないことくらいわかっているはずなのに。
その問いの真意がわからずに小首を傾げるオレに、今度は彼が僅かに動揺したような反応を見せた。
「………さっきしたときも、……いつも、穹の舌が甘すぎるから、」
視線を斜め下に逃がし、彼は眉間に皺を寄せて、口元を手の甲で隠すとオレから顔を背ける。
困ったように目を伏せる彼の耳が、何故かわずかに染まっている気がする。
「……っ、!!」
な、なんだこれ。
普段はあんなにも無表情なのに。
それ以外は、澄ましてるのがほとんどなのに、
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