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それ以上の関係にはなれない
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しおりを挟む知らないから、簡単にできてしまうんだ。
「…っ、う、…さっくんのばか、責任とれ、」
鮮明に気持ちを否定された時のことを思い出してしまった。
内側から熱いものが込み上がってきた。
…泣きそうになる。だめだ。泣かない。泣くな。
「やめたい…、…もう、」
こんなことになるなら、好きになるんじゃなかった。
伝えるんじゃなかった。
袖で瞼を拭い、こんな格好悪い姿見られたくないと壁の方を向いた。
ぽたりぽたりと溢れる涙がシーツに染みこんでいくのがわかる。
もう一回涙をふいて静かに声を抑えて泣いている
と、
「…っ、え、」
軽い布擦れの音と同時に身体に回された腕に、不意にぎゅうっと後ろから抱き寄せられた。
少しだけ空いていた距離が、なくなる。
「…やめるって、何を…?」
寝起きのせいか、少し低く掠れている声。
後頭部に感じるさっくんの吐息。背中全体に感じる体温。お腹に回されている腕の感触。
その存在全てに全神経を向けさせられて、どうしようもないくらいに心臓が早鐘を打った。
「っ、…………さっくんを、好きな、こと…」
少し躊躇って、涙声で零した本音。
言ったところで意味のないことだとわかっているのに、口から滑り落ちてしまった。
「…どうして?」
「ど、うしてって、」
何故そんなことを聞くのかと戸惑い、言いよどむ。
絶対に報われることのない感情を、いつまでも抱き続けていたいやつなんかいないだろう。
…特にさっくんの場合は、オレのことを好きになる気がしない。
(…苦しいだけの恋は、嫌だ)
「やめて、解放されれば…オレは楽に」
なれる気がするんだ。
少しだけでもさっくんから遠くにいければ、きっとこの感情も少しずつなくなって消えるはずで。
その思いを吐き出そうとすれば、
「俺も、夏空様が好きです」
「――っ、ぁ、」
優しく呟かれた言葉に、ズクン、と身が震えた。
”好き”
愛しい声で紡がれた、心の底から求めていたもの。
いつから起きていたのか、全てわかった上で発されたようなタイミングが余計に奥深くを抉る。
叫びだしたいような魂の歓喜と、狂うほど泣き喚いてしまいたくなる感情が全身を波のように襲う。
「っ、最低だ、ほんと。お前は、」
「……」
あの時は、…オレが真剣に告白した時は、そう言ってくれなかった。
…好きだって、返してくれなかった。
「もう前とは違うんだぞ…っ。好きって言っても、さっくんのは違うじゃないか。オレは本気なんだ、だから、オレとは、全然…っ、」
じたばた暴れて身を捩り、腕の中から抜け出そうとすると余計に力が込められ、密着した。「好き、です。…っ、だから、」と再度零され、息が詰まるような抱き締め方に、思わず動きがとまる。
「だから、離れていかないでください」
「……っ、」
お願いします、と少しだけ震えながら懇願する声。
縋りつくように背後から抱き竦められ、
「…俺の傍にいて」
弱々しく吐息まじりに囁かれた台詞に、ああもう、ばか、狡すぎると詰ってやることすら胸が詰まってできない。
――――――――――
…なんて、酷い男だろう。
決して『好き』にはなってくれないくせに、傍にいてくれと言う。
「…っ、…さいてい…だ、」
さっくんを好きなわけじゃなくて、本当に気持ちいいことが好きなだけだったら良かったのに。
引き留めるためだけの”好き”に、
…まるで大事だから離したくないと訴えるように抱き締めてくる身体の感触に、泣きたくなるほどの喜びを感じてしまう自分が、一番嫌だ。
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