貴方は俺を愛せない

和泉奏

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嫉妬と噛み痕(夏空side)

3





「…結局、さっくんは桃井とキスしたいだけなんだよ」

「それは違、」

「違わない…っ!!」


泣きたい。痛い。痛い。


「自分を大事にしてくれって、言ったのに…」


…桃井に恋愛感情があるのかと思ったけど、…あの時の表情を思い返しても、…そうとは思えなかった。

(なら、なんで…)

「そもそも、キスしたからって桃井が止める保証もなかっただろ。なのに、なんで、」と泣きそうになりながら迫れば、さっくんが喉を上下させ、気まずげな表情を浮かべた。


「…言いたくありません」

「っ、なんだよ、それ」


頑なに理由を話そうとしない。
いつもならオレが聞けば、どんなことでもすぐに応えるのに。

なんで、どうしてとそんなさっくんの様子に混乱する。


「桃井が、好きだから…っ?さっくんが、本当は、」

「…っ、そうじゃなくて、」


動揺して吐き出した言葉に、珍しく、少し強めの声が否定する。
…続きを言いかけ、一度躊躇って閉じられる。

それから少しして、観念したように声を零した。


「…どうでもいいと、思ったんです」

「え、」

「あれ以上あの場にいることに、何の意味もない。だから、醜い言葉を吐き続ける彼女を、早く貴方から遠ざけるには…一番簡単な方法だと、思って、」


その途中で、オレを見据え、薄く整った唇の端を持ち上げた。
綺麗で歪な…どこか自嘲気味にも見える笑みを浮かべた。


「…軽蔑、しましたか」

「…っ、」

「わかったでしょう。俺がどれほど汚く、穢れているか」


侮蔑を含み、可笑しそうに笑う。
けれどその声は、表情は、…怖がって震えていた。

”どのような行為に対しても、それ自体に特別な感情を抱いていません”

以前もそう言っていた。桃井とした後、怪我を、させられた後に。


「先程も、夏空様は俺を好きだと仰ってくださいました。ですが、本来俺は貴方にそう言っていただける資格もなければ、御傍にいて良い人間でもありません」

「…っ、」


…時々、痛いほど伝わってくる。

さっくんは自分を嫌っているんだ。
それは、ただ自己肯定感が低いとか、そういう次元じゃない程。


「資格とか、傍にいていい人間とか、…っ」


言いたいことがありすぎて、言葉に詰まる。
ああ、何から考えを直していけばいいのかわからない。


「もういい。他のことはこれから正していくとして、…とりあえずだ」


オレがさっくんを好きだから、胸が苦しいからやめてほしいとか、その理由だけじゃない。


「オレはさっくんを恋愛としてより先に、家族として大切だ。大好きだ。だから、心配だから、悲しくなるから、…オレのためにって理由で、大事なさっくんの身体を安く使わないでくれ」


泣いて喚いたら、今度こそもうこういうことはしないでくれるだろうか。
オレのせいで、誰かとキスしたり、…それ以上の関係をもたないでくれるようになるだろうか。

…でも、もし嫌だとオレが言ってさっくんがやめたとして、…きっとそれもオレのために、オレが言ったから、って理由になりそうな気がする。


「…俺が、心配、で…軽蔑、ではなく…?」

「軽蔑するわけないだろ…っ、」


軽蔑されると怖がるくせに、何故心配されるとは思わないのだろう。


「どうして、」


頬に触れた手を通してさっくんが戸惑っているのを感じる。


「…どうして、そんなことで夏空様が辛そうな顔をなさるのですか…?」

「……っ、…それぐらい、わかるだろ…」


”そんなことで”

声に含まれた、どうでもいいことだとでも言いたげな感情。


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