207 / 369
嫉妬と噛み痕(夏空side)
3
「…結局、さっくんは桃井とキスしたいだけなんだよ」
「それは違、」
「違わない…っ!!」
泣きたい。痛い。痛い。
「自分を大事にしてくれって、言ったのに…」
…桃井に恋愛感情があるのかと思ったけど、…あの時の表情を思い返しても、…そうとは思えなかった。
(なら、なんで…)
「そもそも、キスしたからって桃井が止める保証もなかっただろ。なのに、なんで、」と泣きそうになりながら迫れば、さっくんが喉を上下させ、気まずげな表情を浮かべた。
「…言いたくありません」
「っ、なんだよ、それ」
頑なに理由を話そうとしない。
いつもならオレが聞けば、どんなことでもすぐに応えるのに。
なんで、どうしてとそんなさっくんの様子に混乱する。
「桃井が、好きだから…っ?さっくんが、本当は、」
「…っ、そうじゃなくて、」
動揺して吐き出した言葉に、珍しく、少し強めの声が否定する。
…続きを言いかけ、一度躊躇って閉じられる。
それから少しして、観念したように声を零した。
「…どうでもいいと、思ったんです」
「え、」
「あれ以上あの場にいることに、何の意味もない。だから、醜い言葉を吐き続ける彼女を、早く貴方から遠ざけるには…一番簡単な方法だと、思って、」
その途中で、オレを見据え、薄く整った唇の端を持ち上げた。
綺麗で歪な…どこか自嘲気味にも見える笑みを浮かべた。
「…軽蔑、しましたか」
「…っ、」
「わかったでしょう。俺がどれほど汚く、穢れているか」
侮蔑を含み、可笑しそうに笑う。
けれどその声は、表情は、…怖がって震えていた。
”どのような行為に対しても、それ自体に特別な感情を抱いていません”
以前もそう言っていた。桃井とした後、怪我を、させられた後に。
「先程も、夏空様は俺を好きだと仰ってくださいました。ですが、本来俺は貴方にそう言っていただける資格もなければ、御傍にいて良い人間でもありません」
「…っ、」
…時々、痛いほど伝わってくる。
さっくんは自分を嫌っているんだ。
それは、ただ自己肯定感が低いとか、そういう次元じゃない程。
「資格とか、傍にいていい人間とか、…っ」
言いたいことがありすぎて、言葉に詰まる。
ああ、何から考えを直していけばいいのかわからない。
「もういい。他のことはこれから正していくとして、…とりあえずだ」
オレがさっくんを好きだから、胸が苦しいからやめてほしいとか、その理由だけじゃない。
「オレはさっくんを恋愛としてより先に、家族として大切だ。大好きだ。だから、心配だから、悲しくなるから、…オレのためにって理由で、大事なさっくんの身体を安く使わないでくれ」
泣いて喚いたら、今度こそもうこういうことはしないでくれるだろうか。
オレのせいで、誰かとキスしたり、…それ以上の関係をもたないでくれるようになるだろうか。
…でも、もし嫌だとオレが言ってさっくんがやめたとして、…きっとそれもオレのために、オレが言ったから、って理由になりそうな気がする。
「…俺が、心配、で…軽蔑、ではなく…?」
「軽蔑するわけないだろ…っ、」
軽蔑されると怖がるくせに、何故心配されるとは思わないのだろう。
「どうして、」
頬に触れた手を通してさっくんが戸惑っているのを感じる。
「…どうして、そんなことで夏空様が辛そうな顔をなさるのですか…?」
「……っ、…それぐらい、わかるだろ…」
”そんなことで”
声に含まれた、どうでもいいことだとでも言いたげな感情。
あなたにおすすめの小説
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
【花言葉】
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。
◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた
時
BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。
けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。
もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。
ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。
「俺と二人組にならない?」
その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。
執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。
約九万字、全三十話+αの物語です。