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家族ごっこ
3
ついでにボタンを外そうとし始めて、
「だめです、俺は自分で、」
「ふん。たまには主人が執事の着替えをするってのもありだろう」
いつもオレばっかり恥ずかしい目に遭わされてるし。
しかも余裕綽々じゃない、オレの行動に振り回されてるさっくんの表情とか雰囲気もかなり好きだから、折れてなんてやらない。
(…く、くそ…改めてボタンって難しいな)
指が、うまく動かない。
自分のでさえ外せないのに、人のが簡単に外せるはずもなく、四苦八苦する。
ぐぬぬとボタンとにらめっこしつつ両手の先を動かす。
と、
後頭部に回される手。
え、と驚き、顔を上げた瞬間
「…――っ、」
軽く伏せられた睫毛と整った顔が、すぐ目の前に寄せられている。
…目を見開くとほぼ同時、吐いた息とともに唇を奪われた。
「?!!!?」
まさかこのタイミングでキスされるとは思わなかった。
現実を処理できずに脳がパニックになる。
(…キス、さっくん、と、の…)
桃井の前でオレが無理やりさっくんにキスした時以降、初めての口づけ。
驚きはしたものの自分に起こっている現実を理解できると、抵抗しようと思う気持ちどころか、…受け入れるように身体から力が少し抜ける。
「後は、自分で着替えられますので」
…静かに離れ、ふ、と微笑みを零した彼が、立ち上がる。
「お手伝いありがとうございます」とさらりと言ってのけ、名残惜しそうな気配もなく、部屋から出て行った。
「…な、んだよ」
その後ろ姿が消えるまで、息をとめていた。
…酸素が肺を満たす感覚。
どさっと倒れ、…あーあ、と天を仰いだ。
目にかかった前髪が、肌をなぞる。
今の行為の意味を察してしまった自分の心が憎くて、苦しい。
別に、いまのだって欲求をおさえられなかったとか、ただキスしたかったからとか、そういうのではないのだ。
…ただ、オレに着替えされたくなかったから。
そのためだけの、キス。
どうせ、すればオレがとまるのをわかってたからしたんだろう。
「……いったぃ…なぁ…」
こういうことがあるたび、嫌でも実感する。
オレにとって心臓がとまっちゃいそうなくらいドキドキすることも、彼にとっては何の価値もないのだと。心ひとつ、動くことなんてないのだと。
…少しでもそういう気持ちがあってしたんじゃないかとか。
挙句の果てにはさっき、もしかしていつもみたいに舌入れられるのかと思って、待ってしまった…期待してしまった自分が本当に汚らわしくて、嫌になる。
「…ばぁか」
曇る感情に、暴言を吐いた。
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