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ほっとけーき
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オレの親に『買われた』ことについて、あれ以降さっくんは触れたがらなかった。
前に勉強したから、雇うと買うの言葉の意味の違いは知ってる。
恐々聞けば、オレの嫌な解釈の通り……想像している通りの悪い意味だということだけはおしえてくれた。
ほかのことは、「これ以上貴方の御耳を汚したくないので、言いたくありません」と拒絶の意志を示された。
それでも、今聞かないといけない気がして食い下がれば、「…困らせて、…申し訳ございません。どうかしていました」と目を伏せてはぐらかされて、何も言えなくなった。
さっくんにそう言われたら、…追及もできず、オレもいつも通り振る舞うしかない。
…のに、知らなかった頃には戻れないから、どうしてもぎくしゃくしてしまう。
(……そもそも、だ)
買われたって、どうして。
しかもそれ以前の問題もある。
執事が家にいるのは普通のことだって言われてたこともあって、今まで疑問に思わなかった。
……さっくんにも家族がいて、幼少期に住んでいた家や帰る場所があるに決まってるのに。
ずっとお家にいてくれるのはおかしいって気づける瞬間はいつでもあったのに。
本を色々読んでもらってるんだから、家族みたいに何も理由なく、見返りの無い人間に対して執事として長期間一緒にいるのはおかしいんじゃないかって察せれたのに。
(……酷いな、オレ)
……もしかしたらって思ってた。
さっくんはオレのことをいっぱい褒めてくれるから…もしかしたら家族以上に一番好きでいてくれてるから報酬もなしに傍にいてくれてるんじゃないかと期待したりして。
(勝手に落ち込むのは良くないってわかってる、)
……万が一、仮にそうだったとしても、どこでどう出会ったら今みたいな関係になれるのかと余計に難しい話になってくるんだから、尚更ありえない。
誰が好き好んで、お金で一生を買われてまで見ず知らずの人間の世話なんかしたがるんだ。
そうやってまともに…常識で考えれば、答えはひとつしかなくて。
けど、会社で働いている大人みたいに雇われてたわけじゃなかった。
それよりも、もっともっと酷い。
人間を買うなんて、どうやったらできるんだ。
倫理的にも、赦されることなのか。
今まで本に出てきた買われた人たちで幸せな話をみたことがない。
皆、本人の意思に反してそうされた人たちばかりだった。
……でも、オレの親はまるでそれが当たり前のことみたいに、『人間を買った』…?
そんなことができるはずがないと、冗談でも言っているんじゃないかと思いたいけど、あの時のさっくんの表情は、……それができないほど真剣だった。
(……両親を、………オレを、恨んでる…のかな)
そう考えること自体、今まで散々甘えてきた証拠なのかもしれない。
ずっと、さっくんが望んで傍にいてくれるんだと思っていた。
オレも願ってて、さっくんも同じように願ってくれてるから、こうして一緒にいられるんだと思っていた。
でも、……違った。
……さっくんは、『どんなに嫌でも、オレの傍にいるしかなかった』。
何も知らずに…知ろうともせずに世話をされて当然みたいな態度のオレに、嫌な感情を抱かずにいれるはずがない。
だから、こうして前にさっくんと作ったのを思い出しながらホットケーキを、
「…っ、とわっ、わすれてた!!」
飛び上がって、フランパンの中身をいそいでお皿の上にひっくりかえす。
「……あーーー」何度目かの真っ黒な物体が出来上がっていた。つついてみても、…もちろん黄色にはもどらない。…こんなの、食べられない。失敗作だ。
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