貴方は俺を愛せない

和泉奏

文字の大きさ
268 / 369
雪華(せつか)

5






ぼうっと亡霊のような残像が一瞬見えた気がして、目を疑った。
覚えのある感覚に、…苦い味が舌に広がる。


「どうかされましたか?」

「ぁ、えと、」


どう言葉にすればいいものか。

今みたものが何だったのか伝える術も考えつかない。
迷って躊躇っていれば、怪訝に思ったのか密着していた身体が離れる。


「そこ、に……なんか、」


さっくんがオレの視線の先を追って、僅かに目を細めた。
その場所を見て、さっきまでとは違う……不機嫌そうに冷めていく整った横顔。

ああ、と納得したように低い声を零した。


「”何もありませんよ”」

「……ぅ、ん…」


心臓がおかしいみたいにドキドキと悪い感じがする鼓動を刻んでいて、わけのわからない恐怖感にくらくらしてくる。

ドキドキ、ドキドキ、突然世界が暗くなっていくような嫌な気持ち悪さ。


「お、れ…、どうし、」

「大丈夫です、夏空様」


言いたいことがわかっているらしい返答と、空気感の変化に少し怖くなって身を竦めていれば、……頬に触れる手のひら。

慰めるようにオレの頬に添えた手を僅かに動かし、目を細めるさっくんの優しい微笑みに、少しだけ気分が楽になる。


「それより、ハロウィン、クリスマス両日とも、当日は雪華様と過ごしてくださいね」

「…うん」


雪華も楽しみにしてると言っていた。
いつかは結婚するんだから一緒にいる時間は大事にしたいし、そうするべきなのもわかってる。

わかってる、…けど、


「今年はさっくんとじゃだめなのか?だって、クリスマスは…」


……その日は、さっくんの誕生日でもあるのに。


言いかけて口を閉じた。
やるせない感情に、俯く。

結婚したら、さっくんと過ごせる時間は今よりもっと減ることになる。


「お気持ちは嬉しいですが、特別な日は俺ではなく彼女と一緒に過ごさなければいけません」

「…なんで、」


正直に雪華を好きだとは思う。
……けど、オレに一度も会いに来ない親が決めた許嫁でもあるから会うたびに複雑な気持ちにもなる。

その感情が伝わったのか、聞き分けの良くない子どもに接しているみたいに、さっくんは困ったように眉尻を下げた。


「代わりに、その次の日を俺にください。特製ケーキをご用意しておきますので、召し上がっていただけたら幸いです」

「…っ!じゃ、じゃあそれ、オレがつくる」


何か、何かしたい。

いつもみたいに全部自分でやろうとするさっくんの代わりに立候補する。
それぐらいしないと、おめでとうの気持ちを伝えられない気がした。

キッチンに入るのは禁止されてるけど、ケーキぐらいなら良いって言ってくれるだろうし、心配なら危なくないように見ててもらえばいい。


「あと、欲しいものがあったら言ってくれ」

「……ほしいもの、」


真剣に見上げるオレに対し、戸惑ったように目を伏せ、視線を逸らされる。
毎年何もないって言われるけど、今年こそはもしかしたらあるかもしれないとちょっと期待していた。

感想 15

あなたにおすすめの小説

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

一度も話したことないイケメンのクラスメイトと二人組になったらめちゃくちゃ執着されてた

BL
「はい、じゃあ二人組作って」──あまり人付き合いが得意ではない夏稀(なつき)にとってそれは地獄の言葉。 けれど高校ではちがう。なぜなら新しくできた友達と『二人組』協定を結んだから。 もう二人組なんて怖くないと思っていた矢先、その友達が風邪で欠席。 ほかに組む相手が見つからず、先生と組むことも覚悟する夏稀だったが、そこで声をかけてきたのは美形の転校生──緒川聖夜(おがわ・きよや)だった。 「俺と二人組にならない?」 その一言をきっかけに聖夜は夏稀との距離を急速に縮めてきて──。 執着美形攻め×平凡受けのちょっと不穏な学園BL。 約九万字、全三十話+αの物語です。