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雪華(せつか)
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ぼうっと亡霊のような残像が一瞬見えた気がして、目を疑った。
覚えのある感覚に、…苦い味が舌に広がる。
「どうかされましたか?」
「ぁ、えと、」
どう言葉にすればいいものか。
今みたものが何だったのか伝える術も考えつかない。
迷って躊躇っていれば、怪訝に思ったのか密着していた身体が離れる。
「そこ、に……なんか、」
さっくんがオレの視線の先を追って、僅かに目を細めた。
その場所を見て、さっきまでとは違う……不機嫌そうに冷めていく整った横顔。
ああ、と納得したように低い声を零した。
「”何もありませんよ”」
「……ぅ、ん…」
心臓がおかしいみたいにドキドキと悪い感じがする鼓動を刻んでいて、わけのわからない恐怖感にくらくらしてくる。
ドキドキ、ドキドキ、突然世界が暗くなっていくような嫌な気持ち悪さ。
「お、れ…、どうし、」
「大丈夫です、夏空様」
言いたいことがわかっているらしい返答と、空気感の変化に少し怖くなって身を竦めていれば、……頬に触れる手のひら。
慰めるようにオレの頬に添えた手を僅かに動かし、目を細めるさっくんの優しい微笑みに、少しだけ気分が楽になる。
「それより、ハロウィン、クリスマス両日とも、当日は雪華様と過ごしてくださいね」
「…うん」
雪華も楽しみにしてると言っていた。
いつかは結婚するんだから一緒にいる時間は大事にしたいし、そうするべきなのもわかってる。
わかってる、…けど、
「今年はさっくんとじゃだめなのか?だって、クリスマスは…」
……その日は、さっくんの誕生日でもあるのに。
言いかけて口を閉じた。
やるせない感情に、俯く。
結婚したら、さっくんと過ごせる時間は今よりもっと減ることになる。
「お気持ちは嬉しいですが、特別な日は俺ではなく彼女と一緒に過ごさなければいけません」
「…なんで、」
正直に雪華を好きだとは思う。
……けど、オレに一度も会いに来ない親が決めた許嫁でもあるから会うたびに複雑な気持ちにもなる。
その感情が伝わったのか、聞き分けの良くない子どもに接しているみたいに、さっくんは困ったように眉尻を下げた。
「代わりに、その次の日を俺にください。特製ケーキをご用意しておきますので、召し上がっていただけたら幸いです」
「…っ!じゃ、じゃあそれ、オレがつくる」
何か、何かしたい。
いつもみたいに全部自分でやろうとするさっくんの代わりに立候補する。
それぐらいしないと、おめでとうの気持ちを伝えられない気がした。
キッチンに入るのは禁止されてるけど、ケーキぐらいなら良いって言ってくれるだろうし、心配なら危なくないように見ててもらえばいい。
「あと、欲しいものがあったら言ってくれ」
「……ほしいもの、」
真剣に見上げるオレに対し、戸惑ったように目を伏せ、視線を逸らされる。
毎年何もないって言われるけど、今年こそはもしかしたらあるかもしれないとちょっと期待していた。
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